まずは表彰式である。木村晋介会長が登壇する。木村会長、髪型が変わって、ちょっと若々しくなった。
室内後方の参加者は立っているが、私たち壁際の者は、そのまま座って拝聴する。
木村会長が、おのおのの受賞者に、文面を読み上げる。それが飄々としていて、なんだか可笑しい。
続いて、西上心太氏の選評である。西上氏は恰好をつけず、原稿を拡げて丁寧に読み上げる。これを聞くと、選考委員の四氏が喧々諤々で各賞を選出したのがよく分かる。
続いて受賞者のスピーチである。観戦記大賞の大川慎太郎氏は「第70期王座戦第4局・豊島将之VS永瀬拓矢(日本経済新聞)」で、歴代最多の3回目の受賞。将棋ペンクラブ草創期は、大賞受賞者は向こう10年間、同賞の受賞を遠慮していただく、という決まりがあった。だから単純に比較はできないが、3回受賞は素晴らしい。大川氏、今回も熱いスピーチだった。
私は自分のブログ用に、受賞者のコメントをメモする。いつだったかA氏に、「大沢さんは、将棋ペン倶楽部への投稿文より、ブログのほうが面白い。ボクはそれが面白くない」と言われたことがある。
その通りで、私は自分のブログが大事なのである。
観戦記優秀賞の加藤まどかさんは、「第80期名人戦第2局・斎藤慎太郎VS渡辺明(毎日新聞)」で受賞。元「週刊将棋」スタッフで、かつては(取材で)受賞者を撮影する側だったという。それが逆の立場になったわけで、こんなシンデレラストーリーも珍しい。加藤さんのスピーチはちょっと感動的で、私は涙腺を抑えきれなかった。
文芸部門大賞は、ぶっちぎりで橋本長道氏の受賞(「覇王の譜」(新潮社))。「サラの柔らかな香車」で同賞を受賞したのが11年前。そこから順調に作家生活が進行したと思いきや、停滞時期もあったようだ。
と、先ほどまであちら側で立っていた湯川博士氏が、私の左にすわった。なんとなく緊張してしまう。
技術部門大賞の郷田真隆九段は、「一刀流 郷田真隆矢倉勝局集」(マイナビ出版)で受賞。なぜいま矢倉なのか? という疑問は残ったが、そもそも郷田九段に矢倉本の依頼があったのは数年前だったという。今回、満を持しての発行、受賞となったのだった。
同優秀賞の上野裕和六段は、「将棋・終盤完全ガイド 速度計算編」(マイナビ出版)。上野六段といえば個性的なスピーチが代名詞で、今回も、明らかに笑いを狙っていた。ただ、あまりに狙い過ぎて、やや空回りになったのが惜しい。ここは、淡々とスピーチをしたほうが、むしろ多くの笑いが取れたのではなかろうか。
なお上野六段は、ご尊父を招いていた。ご尊父が客席側から挨拶すると、それは先ほど、湯川博士氏と談笑していた老紳士だった。
さて、いよいよ乾杯である。まずはそれぞれビールを注ぎあう。私も男性氏にビールを注いだが、加減が分からず、泡があふれてしまった。ビールさえ満足に注げないのである、私は。ひどく自己嫌悪に陥った。
音頭は所司和晴七段。氏はいつも乾杯前のスピーチが長いのでイヤな予感がはしたが、今回は適当なところで切り上げてくれた。
乾杯! 私はふだんビールは飲まないが、最初の一口は美味いと思う。
しかしここまでで30分である。贈呈式は20時30分までなので、もう4分の1が経ってしまったことになる。毎年思うのだが、もう少し会の時間が長くできないか。
バトルロイヤル風間氏と、渡部愛女流三段が紹介された。
バトル氏「これから別室で、似顔絵を描きます。誰も来てくれないと、私と愛ちゃんのふたりだけということになります」
それはまずいと、微苦笑が起こる。
渡部女流三段「将棋ペンクラブ様には、私が十代のころからお世話になっております」
それはけっこうな年月だが、いつもピュアな愛ちゃんである。
ここからしばしの談笑タイムとなるが、今回はA氏は来てないし、とくに話し相手もいねぇなぁ、と思っていたら、美馬和夫氏が近くに来てくれた。
私はかねてから聞きたかったことを聞く。
「美馬さんの連載している『将棋狂の詩』ですが、あのタイトルは、水島新司さんの『野球狂の詩』のモジリでいいんですよね?」
「そう」
「やっぱり!」
「だけどあのタイトルもねえ、『狂』の文字が入っているから、編集部には反対されたんだ」
「……」
昨今のコンプライアンスは度を越していると思う。日本はまだそれでも自由な国だが、このままエスカレートすると、日本人は何も表現できなくなってしまう。
すると、美馬氏の隣に、金子タカシ氏が来た。まさにアマ棋界のレジェンド揃い踏みで、私から見れば、その辺の棋士(失礼)よりはるかにまぶしい。重ね重ねになるが、私がこうした席にいていいのかと思う。
同じテーブルには、妙齢の女性がきて、ビールを注いでくれた。将棋ペンクラブ関東交流会でもそうだが、ここ数年で変わったことといえば、女性の参加比率と、その年齢だ。明らかに将棋とは無縁に見える若い女性が、ごく普通に参加している。
そしてその彼女が、けっこうな有名人だった。
(つづく)
室内後方の参加者は立っているが、私たち壁際の者は、そのまま座って拝聴する。
木村会長が、おのおのの受賞者に、文面を読み上げる。それが飄々としていて、なんだか可笑しい。
続いて、西上心太氏の選評である。西上氏は恰好をつけず、原稿を拡げて丁寧に読み上げる。これを聞くと、選考委員の四氏が喧々諤々で各賞を選出したのがよく分かる。
続いて受賞者のスピーチである。観戦記大賞の大川慎太郎氏は「第70期王座戦第4局・豊島将之VS永瀬拓矢(日本経済新聞)」で、歴代最多の3回目の受賞。将棋ペンクラブ草創期は、大賞受賞者は向こう10年間、同賞の受賞を遠慮していただく、という決まりがあった。だから単純に比較はできないが、3回受賞は素晴らしい。大川氏、今回も熱いスピーチだった。
私は自分のブログ用に、受賞者のコメントをメモする。いつだったかA氏に、「大沢さんは、将棋ペン倶楽部への投稿文より、ブログのほうが面白い。ボクはそれが面白くない」と言われたことがある。
その通りで、私は自分のブログが大事なのである。
観戦記優秀賞の加藤まどかさんは、「第80期名人戦第2局・斎藤慎太郎VS渡辺明(毎日新聞)」で受賞。元「週刊将棋」スタッフで、かつては(取材で)受賞者を撮影する側だったという。それが逆の立場になったわけで、こんなシンデレラストーリーも珍しい。加藤さんのスピーチはちょっと感動的で、私は涙腺を抑えきれなかった。
文芸部門大賞は、ぶっちぎりで橋本長道氏の受賞(「覇王の譜」(新潮社))。「サラの柔らかな香車」で同賞を受賞したのが11年前。そこから順調に作家生活が進行したと思いきや、停滞時期もあったようだ。
と、先ほどまであちら側で立っていた湯川博士氏が、私の左にすわった。なんとなく緊張してしまう。
技術部門大賞の郷田真隆九段は、「一刀流 郷田真隆矢倉勝局集」(マイナビ出版)で受賞。なぜいま矢倉なのか? という疑問は残ったが、そもそも郷田九段に矢倉本の依頼があったのは数年前だったという。今回、満を持しての発行、受賞となったのだった。
同優秀賞の上野裕和六段は、「将棋・終盤完全ガイド 速度計算編」(マイナビ出版)。上野六段といえば個性的なスピーチが代名詞で、今回も、明らかに笑いを狙っていた。ただ、あまりに狙い過ぎて、やや空回りになったのが惜しい。ここは、淡々とスピーチをしたほうが、むしろ多くの笑いが取れたのではなかろうか。
なお上野六段は、ご尊父を招いていた。ご尊父が客席側から挨拶すると、それは先ほど、湯川博士氏と談笑していた老紳士だった。
さて、いよいよ乾杯である。まずはそれぞれビールを注ぎあう。私も男性氏にビールを注いだが、加減が分からず、泡があふれてしまった。ビールさえ満足に注げないのである、私は。ひどく自己嫌悪に陥った。
音頭は所司和晴七段。氏はいつも乾杯前のスピーチが長いのでイヤな予感がはしたが、今回は適当なところで切り上げてくれた。
乾杯! 私はふだんビールは飲まないが、最初の一口は美味いと思う。
しかしここまでで30分である。贈呈式は20時30分までなので、もう4分の1が経ってしまったことになる。毎年思うのだが、もう少し会の時間が長くできないか。
バトルロイヤル風間氏と、渡部愛女流三段が紹介された。
バトル氏「これから別室で、似顔絵を描きます。誰も来てくれないと、私と愛ちゃんのふたりだけということになります」
それはまずいと、微苦笑が起こる。
渡部女流三段「将棋ペンクラブ様には、私が十代のころからお世話になっております」
それはけっこうな年月だが、いつもピュアな愛ちゃんである。
ここからしばしの談笑タイムとなるが、今回はA氏は来てないし、とくに話し相手もいねぇなぁ、と思っていたら、美馬和夫氏が近くに来てくれた。
私はかねてから聞きたかったことを聞く。
「美馬さんの連載している『将棋狂の詩』ですが、あのタイトルは、水島新司さんの『野球狂の詩』のモジリでいいんですよね?」
「そう」
「やっぱり!」
「だけどあのタイトルもねえ、『狂』の文字が入っているから、編集部には反対されたんだ」
「……」
昨今のコンプライアンスは度を越していると思う。日本はまだそれでも自由な国だが、このままエスカレートすると、日本人は何も表現できなくなってしまう。
すると、美馬氏の隣に、金子タカシ氏が来た。まさにアマ棋界のレジェンド揃い踏みで、私から見れば、その辺の棋士(失礼)よりはるかにまぶしい。重ね重ねになるが、私がこうした席にいていいのかと思う。
同じテーブルには、妙齢の女性がきて、ビールを注いでくれた。将棋ペンクラブ関東交流会でもそうだが、ここ数年で変わったことといえば、女性の参加比率と、その年齢だ。明らかに将棋とは無縁に見える若い女性が、ごく普通に参加している。
そしてその彼女が、けっこうな有名人だった。
(つづく)