一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

「世界の将棋まつり2019」での出来事(前編)

2019-03-21 01:34:30 | 将棋イベント
「けやきカップ」の観戦を止めにしたので、「世界の将棋まつり2019」にお邪魔することにした。新宿で山手線に乗り換え、日暮里駅前のイベント広場に着いたのは午前11時43分だった。
このイベントは文字通り、世界のボードゲームが楽しめるものである。今年で3回目で、そろそろ認知度も上がってきただろう。前日にはテレビ東京「出没!アド街ック天国」で日暮里が取り上げられたこともあり、今日は多数の集客が期待できた。
だが広場の中は、思ったほどヒトがいない。その周りでは「にっぽりマルシェ」として、地元の名産品や食べ物が売られていたが、こちらも閑散としている。
広場奥には所司和晴七段の姿があり、その近くでは石田直裕五段が、ひとりの客と指導対局を行っていた。所司七段が中国象棋(シャンチー)の日本の第一人者である。
とりあえず受付に行くと、「大人500円、子供100円」という不穏な文字が掲げられていた。
私の主目的は指導対局で、今年の講師は石田五段のほか、渡辺弥生女流初段である。石田五段には昨年、この場で角落ちで教えていただいたが、私が中盤、▲6二成桂の好手を見落とし、いい将棋を負けた。そしてその1ヶ月後の「シモキタ名人戦」では、運よく再戦の機会に恵まれ、この時は緩めていただいた。
渡辺女流初段には、9年前の「女流棋士スーパーサロン」、5年前の将棋ペンクラブ交流会で教えていただいた。渡辺女流初段は東大に2回受かっている才女で、学歴にひれ伏す私としては、彼女こそ理想の女流棋士なのである。
なお昨年、一昨年と石井健太郎五段が登板していたが、今年はいないようだ。昨年は順位戦C級2組で頭ハネを喰らった直後で、私も慰めようがなかった記憶があるが、今年はくさらず勝ち星を集め、見事C級1組に昇級した。。今年こそお祝いを述べたかったのだが、いないものはしょうがない。
受付の数字を無視して次の指導対局を聞くと、2時からとのことである。
隅のブースに藤田麻衣子さんの姿を見つけたので、挨拶に行った。
「あらあー、大沢さんを毎年見てる気がするけど」
その通り、私は毎年来ている。
「また指導対局を受けようと思いまして」
「午前中にあったけど、ほとんど人がいなくて」
それは淋しいことだが、午後になれば増えるだろう。
私は挨拶を済ませたら、もうやることがなくなってしまった。
広場では中国象棋、どうぶつしょうぎ、チェス、チャンギ、オセロなどが行われているが、観客の伸びはいまひとつ。チェスクロックらしきものを使っているところもあって、いま一勝負終わったところだ。「ぐあー、4勝3敗か!」などと言っている。あのチェスクロックが最近ネットで見た最新式で、ずいぶん高さが低い。しかし対局者に聞くと、押しづらくはない、とのことだった。
すると場内放送があった。
「大人500円、子供100円、スタンプラリーでスタンプを4つ集めると……藤田麻衣子さんが来ています。藤田さんはどうぶつしょうぎの原作者で……」
とか言っている。藤田麻衣子さんが何かをしゃべっていたが、私はとりあえず広場を離れ、西日暮里駅前にある叔父の墓へ行った。松戸の祖父母の墓参りには行かなくとも、そちらには行くのだ。
日暮里駅前に戻ってきたが、まだ時間がある。隣接する高層ビルの2階に松屋があるので、牛丼を食べた。松屋の牛丼には、焼肉のタレを掛けると美味くなる、という話を聞いたので実行したが、タレが甘めで、美味くなっているとは思えなかった。
広場に戻る。受付であの値段のことを聞くと、やはりスタンプラリー形式で、4つゲームを楽しめば、何かの抽選を受けられるらしかった。
これは強制なのかと聞くと、入場料として払っていただきたいという。それなら従うよりないが、500円は痛い。それなりの見返りはあるんだろうね?
なお指導対局には別料金2,000円がかかり、その受付は午後1時からとのことだった。
広場の一隅では、ちびっこどうぶつしょうぎの決勝戦が行われていた。駒がクッションになっていて、小さい女の子が跳ねながらクッションを動かしている。形勢は3歳くらいの赤の女の子がよく、厚みで押している。どうぶつしょうぎで「厚み」も変だが、この程度のスペースでも生じるのだと知った。
局面は、■C2ゾウ、まで赤の女の子の勝ち。ところが相手の子が詰みが分からず、□C1ひよこ、と打った。赤の女の子は、■B1ゾウ、とライオンを取り、終了(正式な詰め上がり図は、■A3ひよこ・B2ゾウ・C2ゾウ・C3ライオン、□A1キリン・B1ライオン・持駒・キリン、ひよこ)。
勝利者インタビューである。
「わたしはまえからどうぶつしょうぎをやっていたので、わたしがかつとおもいました」
に、周りの大人は苦笑。何だか加藤一二三九段のような回答であった。
もう1時を過ぎているが、指導対局の申込みはもっと後でもいい。
私はスタッフにお願いして、どうぶつしょうぎを一局やる。とにかくスタンプを4つ集めなければならない。
じゃんけんで勝って私の先手。どうぶつしょうぎは後手有利と聞いたことがあるが、どうなのだろう。
序盤、相手の□B2ひよこに私が■C4ゾウ、と引いたら、相手が考え込んでしまった。これが自分でも気づかなかった妙手で、後手は動きがつかない。ひよこを進めるしかないのだが、それは■同ゾウで先手優勢。
以下私優勢のまま終盤に進んだが、■A2ライオン、□B1キリンの局面で、私が■A3ライオン、と引いたのが疑問手。ここは■A1キリンと打てば、□同キリンは■同ライオンで先手勝ちだった。トライルールがあるのを失念していた。
もっとも最後は私がにわとりを作り、相手ライオンを詰まして勝ち。
カードにハンコを捺してもらったが、よく見たら、相手の名前、競業名、勝敗を書く欄がある。あと氏名も書かねばならない。それで、人のいないテーブルで競技名を書く。すると、
「ほらぁそこ邪魔邪魔、どいて!!」
と、どこからか怒鳴られ、私は困惑した。
(つづく)
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「第12回武蔵国 府中けやきカップ」にて

2019-03-20 00:18:53 | LPSAイベント
17日(日)は府中市で、LPSAの恒例イベント「第12回武蔵国 府中けやきカップ 女流棋士1dayトーナメント」があった。が、その日は母が松戸へお墓参りに行くことになった。それなら私がクルマ係をしなければならないのだが、母には電車で行ってもらうことにし、私は府中行きを優先させてもらった。この辺が私の親不孝なところである。
また同日は、日暮里駅前で「世界の将棋まつり2019」が行われることも分かったのだが、これも今回はお邪魔できない。
17日当日。前夜は例によって3時過ぎまで起きていたので、朝は起きるのがつらかった。仕事と違って、レジャーは当人の意志でどうにでも予定が変えられるから始末が悪い。観戦は午後からでもいいか……の思いもよぎったが、やはり10時30分からの開会式から見たいので、私は布団から這い出たのである。
新宿から京王線に乗る。会場は2017年、2018年と、府中駅前の「府中グリーンプラザ」だったが、そこは現在建替え工事中である。今回は東府中駅が最寄りの、「府中の森芸術劇場」だ。3年前、「ルミエール府中」に行こうとして、間違えて伺ったしまった場所である。
駅は新宿より1つ手前で近くなった……と思いきや、実際は特急と準特急が停まらないので、調布での乗り換えを余儀なくされる。却って10分前後、余計に時間がかかってしまった。
10時20分ごろ芸術劇場に着くと、広場では多くの青年がたむろしていた。そろいのTシャツを着ていて、近辺で何か行われるようだ。
芸術劇場内に入る。会場が分からなかったが、観客らしいオッサン連中について行くと、エレベーターで2階に上がった。そこは多くの子供たちがいて、これは「けやきキッズ子供団体戦」だった。そばに中倉宏美代表理事(女流二段)の姿が見えた。
「けやきカップ」会場はその奥、と案内がある。受付でパンフレットをもらって向かうが、そんなものはない。
引き返してスタッフに場所を確認し、もう一度向かうと、確かに会場があった。
が、狭い!!!
府中グリーンプラザやルミエール府中に比べると敷地面積が圧倒的に小さく、子供団体戦に押され、隅に追いやられたごとくだ。というかこれ、双方の距離が近すぎないか?
席数も40余りしかなく、しかもほとんどが埋まっている。壁際には立ち見の人が多くいて、私も適当なところに立つが、子供団体戦の保護者も一部こちら側に流れているので、身動きが取れない。
私はパンフレットを見る。今年は岡本眞一郎氏の懸賞詰将棋も復活して、めでたい。
とはいえこの混雑……。これから観戦客もまだまだ増えるだろうし、私も直立のまま夕方までいるのは辛い。いや立つのは構わないのだが、左右に動くスペースがないのが辛いのだ。
そう思ったら、急激に観戦の意欲が薄れてしまった。
もう帰ろう。
私は踵を返し階段に向かうと、今回出場の女流棋士が現れた。島井咲緒里女流二段が「ああ大沢さん、お久しぶりです」と声を掛けてくれる。島井先生、相変わらず愛想がいい。やっぱり見ていくか、と再び踵を返そうとしたが、あの密集はやはり厳しい。今回は失礼させていただくことにした。
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第4回 江の島将棋頂上決戦・7

2019-03-19 00:11:51 | 将棋イベント
勝者はつるの・かりんペアとなり、予想正解者には「つるの剛士イラスト入りクリアファイル」が渡された。私は外したが、第1局でもらったからいい。
続いて、5人によるミニトークショーとなった。舞台向かって右から戸辺誠七段、竹俣紅女流初段、ザブングル・加藤歩氏、乃木坂46・伊藤かりんさん、つるの氏、MCの女性が着座する。風は相変わらず強く、竹俣女流初段の髪は激しく乱れ、頬に絡みついている。また私たちには、西日がかなりキツい。出演者の顔も陰になってしまっている。
まずMCの女性が、つるの氏らにこのイベントを始めた理由を聞く。
「江の島の頂上で将棋をやるって、いい感じじゃないですか。皆さんに将棋の楽しさを知ってもらおうと思って!」
戸辺七段「天童などでは人間将棋があるんですが、それを江の島でやろうよ、と」
MCの女性「このイベントでは将棋のイメージが定着してきましたネ」
かりんさん「江の島将棋は朝が早いので、私はドスッピンなんですよ。だから前列の人との対面が恥ずかしい!」
いや、「かりん党」にはそれが堪らないのである。
MCが竹俣女流初段に、将棋を始めたキッカケを聞く。
竹俣女流初段「私は6歳のころ、近所の本屋で将棋の本を見て、駒に漢字が書いてあるのが面白いと思い、始めました」
つるの氏は、「ボクが初めて紅ちゃんを見た時は、こんな小さな小学生だったのに……」と感慨深げだ。
竹俣女流初段「今日は風が強かったけど、青空が綺麗で素晴らしかった」
つるの氏「加藤君とはテレビの企画で指してたんで、指しやすかった。でも今日はボクが負けちゃったからね。ホントに来年も来てよー、忙しいと思うけどさ」
加藤氏「ボクらにとっては、『目指せつるのさん』なんですよ」
つるの氏「いやいや、もう、控室で戸辺先生にいろいろ指摘されてさあ」
戸辺七段「そうですね、つるのさんもいい手が多かったけど、今日は、ちょっと……という手もあったかな」
つるの氏はうなだれるばかりである。
かりんさん「今回は、同じ振り飛車党でよかったなと思いました。戸辺門下なので、(ペアの)攻めが一貫していました。これが木村一基九段門下だったら受けばかりになっていました」
かりんさん、マニアックなコメントで笑わせる。
加藤氏「でもかりんちゃん、本当に強くなりましたよ。5年前からは見違えるような強さです」
かりんさん「お陰さまで、将棋フォーカスで4年間習ってきましたから」
加藤氏「いやホント、かりんちゃんが女流棋士に見えましたよ」
将棋フォーカスのMCは4月から、同じ乃木坂46の向井葉月さんになるという。
かりんさん「向井がMCになったから、将棋を指せる人が増えてうれしいです。来年は2人でここに来られたらと思います」

戸辺七段「私たち棋士は将棋を見てもらうのが仕事ですけど、最近は『観る将』や『将棋めし』という言葉があるように、指し将棋以外の部分も楽しんでもらうことが大切だと思います」
現在は棋士間で「詰将棋カラオケ」なるものも流行っているという。カラオケを歌っている間に詰将棋が出題され、歌い手は同時にそれも解かなければならない。歌と詰将棋、2つの採点が楽しめるらしい。
「みろく庵がなくなっちゃうんでしょう」
とつるの氏が話題を変える。「みろく庵」は千駄ヶ谷駅前にある和食処で、関東の棋士御用達だ。私も将棋ペンクラブの打ち上げでお邪魔したことがあるが、蕎麦が香り高く美味かった。今月いっぱいでの閉店が確定しており、棋士のショックは大きいのだ。
また話が変わり、竹俣女流初段は対局の前に、願掛けの意味で肉を食べるらしい。
今は将棋を指す女性が増えましたね、とMCが水を向ける。
竹俣女流初段「昔は大会で100人出場すると、女子は1~2人でした」
今は女子がかなりの割合を占めているのだろう。
しかし竹俣女流初段も今月で棋士を引退・退会する。以前も少し書いたが、竹俣女流初段のこの決断が、凡人にはさっぱり分からぬ。だがここでその話題はタブーなのだろう。
つるの氏、加藤氏は子供さんに将棋を教えるのか? という話になる。
加藤氏の子供は「見込みがない」とかで、もう教えてないらしい。つるの家も似たようなものだが、どうも娘さんはいくらか脈があるようなことを語っていた。いずれにしても、チョンガーの私には、別世界での話である。
以上、トークショーが終わった。が、まだお楽しみはあって、ここからじゃんけん大会があるらしい。賞品はつるの氏以下主演者5名のサイン入り色紙……など、5人に当たるようだ。
竹俣女流初段以下、順番に戦う。私は1回戦は勝ったが、2回戦で負けて、終わり。3回戦終了時で早くも10人前後になり、激戦が繰り広げられた。
最後は2人のうちのどちらかが賞品ゲットとなったが、成人男性が棄権して、中学生がゲットした。私だったら死に物狂いで獲りにいったはずで、成人男性の配慮には敬意を表した。
これにて全行程は終了。つるの氏と加藤氏はさすがに芸能人で、お客を喜ばす術をよく心得ていると感じた。どの世界でも専門家は一味違うのだ。
戸辺七段の解説は軽快で、場を盛り上げた。疑問手の類には極力触れず、好手を褒める姿勢にも好感が持てた。
竹俣女流初段、かりんさんはひたすら綺麗だった。
このイベントは来年も開催されるようなので、またお邪魔できればうれしい。ただ、1年後の自分を想像すると恐ろしく、狂いだしそうではある。
(おわり)
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第4回 江の島将棋頂上決戦・6

2019-03-18 00:12:12 | 将棋イベント

第5図以下の指し手。▲3六飛(か)△2五銀(加)▲5六飛(つ)△3六桂(紅)▲同飛(か)△同銀(加)▲6一成桂(つ)△同銀(紅)▲5八飛(か)(第6図)

対局者4人が段ボールの中を見下ろしている。
「これ、よく考えられていると思うのは、記録係の方向には段ボールが切り取られていて、横からも盤面が見えるんですね」
と、解説の戸辺誠七段。
▲3六飛が、乃木坂46・伊藤かりんアマ初段の棋風を表した手だった。「敵の打ちたいところに打て」で、△3六桂を防ぎつつ△5六銀取りにもなっている。
戸辺七段「やはり△3六桂は打たれたくなかったですか。かりんの自陣飛車ですね。かりんさんはこういう手が好きなんです」
なるほど、私などは飛車をすぐ敵陣に打ってしまうので、これは目からウロコだ。
▲3六飛には△4四桂もありそうだったが、ザブングル・加藤歩アマ初段は△2五銀。以下飛車を取ったものの、先手も▲6一成桂と金を取り、やはり先手が勝勢に見えた。
かりんアマ初段は▲5八飛と活用したが……。

第6図以下の指し手。△3七銀成(加)▲同桂(つ)△3六桂(紅)▲1八玉(か)△2八角(加)▲2九桂(つ)△4四角(紅)▲2六銀(か)△2四飛(加)(第7図)

というところで、△3七銀成が鋭い。「強い! 厳しい手が来ましたよ。盤上最強の一手だと思います。ここは受けてもキリがないのでね」
▲3七同桂に、ついに△3六桂が実現した。ここでかりんアマ初段の手番だが、こんな切羽詰まった局面では、容易に次の手を指せない。
「ウルトラマンに来てほしい!!」
ついにかりんアマ初段が手を挙げた。戸辺七段へのヘルプ要請である。
「ここですか!? ここ、うーん、そうねえ。ここは拒否します。おふたりで指してください」
「ええー、ダメなんですか!?」
「拒否!? ウルトラマンキョヒ!?」
つるの剛士アマ三段も頓狂な声を上げる。
「そう拒否! ウルトラマンキョヒ」
2人でここまで戦ってきたんだから、最後まで自力で勝ち切ってください、という叱咤激励である。
かりんアマ初段は対局に戻る。そこに小高悠太郎奨励会三段の無機質な秒読みが響く。「20秒…7、8、9」
▲1八玉!!「寄りましたねえ。ギリギリのところで寄りました」
かりんアマ初段は△3六桂を必要以上に恐れたようだが、▲1六歩と突いてあるだけで、かなり延命できるものだ。
△2八角!!「すごい手がきましたよ! 最善手です」
▲2九桂!!「いやーー!! 魅せますね」
戸辺七段も千両役者で、一手一手を盛り上げる。将棋を知らぬ人も、切羽詰まった局面ということは分かるだろう。
△4四角!!「いやーー!! 降りそそぎますね!」
▲2六銀!!「あーーー!! すごいですね!! もう受けるマスがありませんね」
次は加藤アマ初段の手番だが、こちらもパニック状態だ。
「えーーちょっと待って! いま段ボールの中で、スゴイことが起こってるんですよ!!」
△2四飛!!
つるのアマ三段の手番だが、やはりパニック状態である。
「代理の手を使います! 会場の人に指してもらいます! これは先生、可能なんでしょう!?」
「うん、私が指すわけではありませんから……」
ただ局面的にも、代打の一手は双方でこれっきりであろう。よって、人選が重要になってくる。すなわち、つるの・かりんペアは最善手を指してもらいたいし、紅・加藤ペアは悪手を指してもらいたい。
とりあえず挙手を求め、すったもんだの末、つるのアマ三段が男子中学生を指名した。
だが紅・加藤ペアは虫が知らせたのか、彼を拒否する。それで、彼のお母さんに指してもらうことになった。ちなみに、彼に棋力を聞くと、「13歳・アマ四段」の答えが返り、客席がどよめいた。
お母さんに舞台に上がってもらう。母子は厚木から来た、とのことだった。

お母さんは銀を持ち、ふらふらと盤上に置く。
「▲7三銀!」
自玉は不詰みと見て、敵玉に必至を掛けたのだ。先手もこの手を読んでいたようだ。
お母さんに聞くと、ふだん将棋は指さないが、そこは門前の小僧で、ある程度指し方は覚えてしまったという。歓喜するつるの・かりんペア。息子君の助言もあったようだが、これは良い人選となった。
さて竹俣紅女流初段の手番だが、私なら最後の突撃に出るが……と思ったら、もう先手玉にこれといった王手がかからないのだった。竹俣女流初段は、△7二銀と首を差し出した。
「ブシーーーー!!」
つるのアマ三段が叫び、金を高々と上げる。盛り上がる客席。
「▲8八金じゃい!!!!!」ビシッ!!
加藤「……8八って、ここだけど」
つるの「あっ!! 8二だ8二金!」
▲8二金△6一玉。ここでかりんアマ初段が▲7三銀を高々と掲げた。再び盛り上がる客席。
▲6二銀成!!
これで即詰みで、紅・加藤ペアが投了を告げた。終局は3時19分。
快勝したつるの・かりんペアは嬉しさを爆発させ、「嬉しいです!!」
加藤アマ初段「いやー、すみません、ボクが足引っ張ちゃいました」
竹俣女流初段「私もいい手を導けなくてごめんなさい」
加藤アマ初段「厚木のウルトラの母にやられましたわ」
最後は加藤アマ初段が笑わせて、ペア対局は幕となった。

第7図以下の指し手。▲7三銀(ウルトラの母)△7二銀(紅)▲8二金(つ)△6一玉(加)▲6二銀成(か)(投了図)
まで79手で、つるの・かりんペアの勝ち。

(つづく)
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第4回 江の島将棋頂上決戦・5

2019-03-17 00:16:39 | 将棋イベント

第1図以下の指し手。△4五歩(加)▲5六銀(つ)△4四銀(紅)▲7七角(か)△7一玉(加)▲9六歩(つ)△6四歩(紅)▲8六角(か)△6三金(加)▲6六歩(つ)△7四歩(紅)▲7七桂(か)△7三桂(加)(第2図)

ザブングル・加藤歩アマ初段は△4五歩とし、後手陣はのびのびしている。だがつるの・かりんペアも着々と攻めの態勢を整え、いつ開戦してもおかしくない雰囲気だ。
しかし風が強い。4人は指し手の合間に駒を整えるばかりで、もはや集中できない。加藤アマ初段は「誰かがハンドパワーを使ってるんですか」と軽口を飛ばす。
だが駒は飛ぶ。村田英雄ではないが、駒は本当に飛ぶのだ。その間にも考慮時間は消費されている。乃木坂46・伊藤かりんアマ初段が混乱した中、▲7七桂と指す。
「ちょ、ちょっといったん中断しましょうか」
と、解説の戸辺誠七段が申し出る。
「ええ? でもワタシ指しちゃいましたあ」
加藤アマ初段は△7三桂と対抗する。だが風はさらに強くなり、本当に中断となった。

第2図以下の指し手。▲6五歩(つ)△同歩(紅)▲同桂(か)△同桂(加)▲同銀(つ)△5五銀(紅)▲5四歩(か)△6四歩(加)(第3図)

「ふだんは指さない屋外でやってますからねえ。天童の人間将棋では、雪が降って中止、ということがありましたが、風は珍しい」
と戸辺七段は困惑する。対策として、大盤を将棋盤代わりにし、この駒を動かす案が出た。だが、かりんアマ初段は指しづらかろう。加藤アマ初段に至っては、駒を逆さ位置で考えなければならない。それに、これでは戸辺七段が解説しづらくなってしまう。
風は南から吹いているので、大盤をやや移動し、衝立代わりにする案も出た。
これを応急措置として採用し、戸辺七段らは大盤を後方にズラし、やや角度を変える。これでいくらか風が遮られ、私たちの位置からもどうにか大盤の駒が見えた。
午後2時31分、ようやく対局再開となった。
つるの剛士アマ三段、▲6五歩。
「ペア将棋は、個性を出さない手がいいようです。あまり突飛な手を指すと、味方にその狙いが分からなくなりますから。あとは、味方の指し手の意図を考えることが重要です」
▲6五歩は、2人の意思が一致したのではなかろうか。
風は一時弱まったが、また強くなってきた。「風が強くなってできない」と誰かが言う。しかもつるの・かりんペアは秒読みになった。「(秒読みが)早くないですか?」とかりんアマ初段が驚くが、それでも▲5四歩と鋭く迫る。
思えば昨年の「将棋の日・次の一手名人戦」で、渡辺明棋王の指した手をかりんアマ初段が予想したのだが、これが見事正解だった。その将棋は相居飛車、しかも中盤の捉えどころのない局面だったので、その実力には驚いたものだった。今や彼女は、女性最強の芸能人と言える。
加藤アマ初段は。「間違えたらすみません」と△6四歩と収める。だが戸辺七段は「最善手です」とホメた。

第3図以下の指し手。▲6四同銀(つ)△同金(紅)▲5三歩成(か)△4四飛(加)▲6八飛(つ)△6六歩(紅)(途中図)
▲5六歩(か)△同銀(加)▲3六桂(つ)(第4図)

つるのアマ三段が指した▲6四同銀が強手。「すごい手が出ましたよ!」と戸辺七段も驚く。
△6四同金と取るよりないが、▲5三歩成が大きい。「5三のと金に負けなし」と格言も教えている。「現状は先手がうまくやっていると思います」と戸辺七段。
一瞬静かになった風が、また吹いてきた。と、ここでスタッフが段ボール箱を持ってきた。天地を解放した形で、それを将棋盤にかぶせる。段ボール箱はストン、と落ち、将棋盤全体が風からガードされた。
「段ボール囲い」とつるのアマ三段が苦笑いする。「ちょっとこれ……」の声も上がる。4人は立膝になり、盤を見下ろして指す形になった。自慢の六寸盤はすっぽりと隠れ、竹俣紅女流初段の綺麗な手つきは見られず、つるのアマ三段の袴も哀しいことになるが、もう贅沢を言える状況ではない。ただし、加藤アマ初段だけは正座から解放され、だいぶラクになったのではないか。
いずれにしても、これはスタッフが機転を利かした好手だった。
紅・加藤ペアも秒読みに入り、△6六歩(途中図)。対局者の対局姿は異様である。戸辺七段は、「ちょっと失礼」と、その光景をスマホで撮った。

ここでかりんアマ初段が手を挙げた。「作戦タイム」で、戸辺七段からアドバイスをいただくのだ。
「作戦タイムがあると安心感がありますよね」と戸辺七段。3人が大盤に集まった。この局面では3手一組の妙手順を用意していて、「まずは▲5六歩で金銀飛車の連結を外します」。△同銀に次の一手が好手なのだが、かりんアマ初段は分からないみたいだ。
この間、紅・加藤ペアは私語厳禁なので、加藤アマ初段はダウンジャケットのチャックを頭まで上げ、無口状態。それがウルトラ怪獣のようだ。
大盤では「▲3六桂」と戸辺七段が教え、これはつるの・かりんペアの優勢が約束されたようだ。
対局再開。加藤アマ初段がチャックを下ろす。
「あれ…? こっちに飛車2枚なかった?」
「ねぇよ」
ともあれ▲5六歩△同銀▲3六桂と予定通り進んだが……。

第4図以下の指し手。△7五金(紅)▲4四桂(か)△8六金(加)▲5二桂成(つ)△5五角(紅)(第5図)

作戦タイムの最中、竹俣女流初段も読んでいた。▲3六桂には△7五金!!が用意の手。かつて花村元司九段が、「両取りを打たれたら、3枚目の駒を差し出せ。すると相手はどれを取っていいか分からなくなり、悪手を指す」と言ったが、この△7五金も似た雰囲気がある。戸辺七段が「プロの本気の一手が出ましたね」と唸った。
▲4四桂に、今度は紅・加藤ペアが作戦タイムを取る。しかしこちらは敗勢に近いから、戸辺七段のアドバイスも難しい。
「とりあえず△8六金と角を取りますよね。そこで相手が▲同歩か▲4四桂かは分からないけど、▲5二桂成なら△3三角を△5五に出て、角をこっちのライン(2八)で使いましょうよ」
再開後、△8六金▲5二桂成△5五角と進む。次に△3六桂を狙って、先手は気持ち悪いところ。しかも手番は、かりんアマ初段である。この局面は何度も経験しているはずだが、いかんせん実戦数が少ない。
だがかりんアマ初段の指した手が、いかにも彼女らしかった。

(つづく)
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