一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

第4回 江の島将棋頂上決戦・4

2019-03-16 00:07:50 | 将棋イベント
幸い、駒はすでに並べられている。振ってもらって私の先手になった。
▲2六歩△3四歩▲7六歩△4二飛。私は数手後に角道を止め、その数手後に▲6五歩と角交換を迫った。
角交換後は、駒損を承知で▲2二角の強襲をする。ここで熱戦になり午後2時を過ぎてもいけないから、短期決戦である。さらに進み、▲3二と、△2六角・△5二金の局面で、▲4二と△同金▲2二飛が角金両取り。
これで決まったと思ったが、以下△4四角▲4二飛成△3三角打で難しい。
この後は少年に△9五歩から端攻めをされ、もうイヤになって投了も考えたのだが、少年も寄せをぐずり、また形勢不明になった。
その後は私の面白い局面があったと思うのだが決めきれず、気が付けばまた敗勢になっていた。

第1図以下の指し手。△7七角成▲6八香△7六馬▲4八金△8五馬▲6三角成△同銀▲9二金△7二玉▲5五桂△3八香▲同玉△2六桂▲2七玉△4九角▲3八香△6六香(第2図)

私の将棋でも結構ギャラリーが集まってきて、悪い気はしない。いつもよりカッコをつけて着手したりして、これは勝たねばいかんと思った。
第1図で少年が大長考し、指した手は△7七角成。▲6八香△7六馬に私は銀を持ったが、▲4九銀は楽しみがない。それで▲4八金と寄った。
△8五馬には後手陣に殺到した。数手後△7二玉に▲6三香成としたいが、△同馬が竜に当たる。それで▲5五桂と据えた。
そこで少年は△3八香と追ったが、これはやや強引だ。△4九角に▲3八香と打って、これは私が勝ちになったんじゃないかと思った。
少年は△6六香。何だこれは!?

第2図以下の指し手。▲6六同香△3八角成(投了図)
まで、少年の勝ち。

私はヒョイと香を取ったのだが、△3八角成とされて飛び上がった。トン死である。あそか、と投了。△6六香は飛車筋を通すための犠打だったのだ。
すぐに感想戦に入り、それならA▲6三桂成か、とやったが、△同馬が王手竜取りである。それでB▲4九金かとやったが、△同馬▲6三桂成△同玉▲5二角△6四玉▲6六香△7五玉で後手勝ち。
とすると、第2図では先手の勝ちがなかったということか。
まあ感想戦で熱くなってもしょうがないので、これで切り上げる。
少年は駒を初形に並べ始めたが、私は申し訳ないが追従せず、席を立った。

あと15分ほどで第2局が始まる。対局者は、つるの剛士アマ三段・乃木坂46伊藤かりんアマ初段ペアと、竹俣紅女流初段・ザブングル加藤歩アマ初段ペアだ。
例によって、勝者ペア予想の整理券配布がある。私は竹俣・加藤ペアの勝利と予想し、そちらをいただく。だがこれよく考えたら、混雑に紛れて両方の整理券をもらうこともできるのだ。まあそこまでして不正する客はいまい。
午後2時ピッタリになり、MCの女性が登場した。続いて、対局の4人と戸辺誠七段が登場した。戸辺七段は「湘南江の島」のピンクのハッピを着ている。
「休憩中は、皆さん先ほどの将棋を話していたのでしょうか」
と女性MC。
つるのアマ三段は先ほどの敗戦が尾を引いているようで、まだ悔しがっている。
「いや戸辺先生にいろいろ教えられまして……。3手詰をうっかりしてたんだな……」
最後は独り言のようにつぶやいた。例の「△3八銀▲同金△同香成」の順を教えられたようだ。
対して、快勝した加藤アマ初段は元気だ。
「ボクは四間飛車しか指せないんで……。でも自信しかありません」
竹俣女流初段は午後も美しい。
「私は居飛車党ですけど、たまに振り飛車を指すこともありますので」
かりんアマ初段は、今日初めての将棋となる。
「私とつるのさんは同じ戸辺門下で振り飛車党なので、コンビネーションがいいです」
「どこ、コンビネーションいい?」
と、つるのアマ三段。
「え? 長考派だし」
「いや今日は持ち時間あるし!」

本局は特別ルールがある。すなわち、「戸辺七段からのヒント」「会場からの次の一手」である。
前者は作戦タイムで、大盤にて戸辺七段がヒントをくれる。
後者は、会場のお客様に舞台に上がってもらい、次の一手を代わりに指してもらうというもの。ちなみに昨年は、つるのアマ三段が選んだ少年がヘンな手を指し、局面が混沌としてしまったらしい。ここでの人選は大切である。
ただこれはどちらも行使できるようだ。そこでかりんアマ初段が
「つるのさんと加藤さんがいい勝負でしょ? あとは私と紅ちゃんだけど、棋力の差が大きすぎる! ほかにも何かハンデをください」
と懇願した。そこでつるの・かりんペアのみに、戸辺七段が代打で指すルールが追加された。いわゆる「ウルトラマントベ」の助けというわけで、その時間はもちろん3分。これなら戸辺七段が4手くらい指せる計算だ。
いよいよ対局である。持ち時間は5分、秒読みは30秒。記録・記譜読み上げはもちろん、小高悠太郎奨励会三段である。先手のつるの・かりんペアが舞台右側に座り、対局が始まった。

▲つるの剛士アマ三段・伊藤かりんアマ初段
△竹俣紅女流初段・加藤歩アマ初段

▲5六歩(かりん)△3四歩(加藤)▲7六歩(つるの)△4四歩(紅)▲5八飛(か)△4二飛(加)▲5五歩(つ)△5二金左(紅)▲4八玉(か)△6二玉(加)▲3八玉(つ)△3二銀(紅)▲2八玉(か)△1四歩(加)▲1六歩(つ)△4三銀(紅)▲3八銀(か)△3三角(加)▲6八銀(つ)△7二銀(紅)▲5七銀(か)(第1図)

かりんアマ初段の▲5六歩でスタート。以下、交互に指していく。かりんアマ初段が▲5八飛と指せば、加藤アマ初段は宣言通り△4二飛と振る。続いて先手は玉の整備に入るが、後手は△3三角を優先する。これが加藤流だ。
解説の戸辺七段は、「4人とも息がピッタリですね」と感心する。
それにしても、対局者4人の中に美人女流棋士と国民的アイドルがいるのだから豪華だ。私があの中に入ったら舞い上がってしまい、何も指せないだろう。
ところで、風が午前にも増して強くなっている。盤上の駒も微妙にズレるようで、対局者がこまめに修正している。
先手は早くも銀を繰り出し、攻める気満々である。

(つづく)
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第4回 江の島将棋頂上決戦・3

2019-03-15 00:05:49 | 将棋イベント

第8図以下の指し手。△7三同金▲3七桂△7九竜▲6八銀△8九竜▲7三歩?

ザブングル・加藤歩アマ初段は△7三同金と取ったが、解説の戸辺誠七段は、「今これがありましたね」と言う。すなわち△3八銀と打ち、▲同金△同香成まで3手詰!
しかし対局者はエアポケットに入っていた。つるの剛士アマ三段は▲3七桂と外し、何事もなかったように進行した。△7九竜には▲6八銀とはじき、これはもう一局、である。
つるのアマ三段、▲7三歩。……あれ? この歩は打てないはずだが……と思ったら、第8図の△7三同金は△同竜と指していた。
ということはこの瞬間、もう先手玉への詰めろが外れていたことになる。加藤アマ初段、一瞬のチャンスだった。

第8図以下の本当の指し手。△7三同竜▲3七桂△7九竜▲6八銀△8九竜▲7三歩△同金▲7九香△7六歩(第9図)

第9図以下の指し手。▲8二銀△同玉▲6一飛成△5一銀▲9四歩△7二銀▲9三歩成△同香▲5二竜△同銀▲8五桂△3七歩成▲同金△3六歩▲3八金△3七桂▲4八玉(第10図)

つるのアマ三段はもう猶予はならない。▲8二銀が強烈な勝負手だった。
「スパートをかけましたね。どっちが先にゴールにたどり着くか」
と戸辺七段。もうひとりの解説の竹俣紅女流初段は、静かに行方を見守っている。
しかし▲6一飛成に△5一銀が冷静だ。「ここ△7二銀は▲5二竜があります」
とはいえ並のアマなら、近くに竜がいるのが恐くて△7二銀としてしまいそう。加藤アマ初段、段位以上の実力があるようだ。
▲9四歩には、そこで△7二銀と打つ。以下△5二同銀までとなって、「少し後手がいい」と戸辺七段の判定である。
加藤アマ初段は「思い出したかのように」△3七歩成とし、待望の反撃である。△3六歩には、「いいですね。結構厳しいですね」と戸辺七段がつぶやく。
つるのアマ三段はじっと▲3八金と引く。「これは左右逆ですけど、中原囲いといって、堅い囲いです」。
たしかにウンザリする囲いだが、本局は3七に弱点がある。加藤アマ初段は、△3七桂と打ち込んだ。

第10図以下の指し手。△5五桂▲9四歩△4六歩▲6二金△4七歩成▲同金△同桂成▲同玉△4五飛(第11図)

第10図で加藤アマ初段の駒不足に思えたが、△5五桂が味のいい活用だった。
「これは視野が広いですね」
「今、加藤さんの指がしなってました」
と、これは乃木坂46・伊藤かりんさんの報告である。だが加藤アマ初段は足の痺れとも戦っている。「現在は、片脚ずつ立てているみたいです。現場からは以上です」
つるのアマ三段は▲6二金と打ち、これが詰めろだ。
加藤アマ初段は4七で清算し、△4五飛。「いやー。すごい手が出ましたね」と戸辺七段が唸る。確かに王手桂取りで厳しいが……。

第11図以下の指し手。▲4六歩△8五飛▲9三歩成△同玉▲5二金△6五歩▲8六銀△8六同飛▲同歩△5五桂(途中2図)
▲5八玉△4七銀▲6九玉△7八金(投了図)
まで、154手で加藤アマ初段の勝ち。

つるのアマ三段は▲4六歩と受けたが、加藤アマ初段は△8五飛と桂を外し、だいぶラクになった。戻って▲4六歩では「▲4六桂」が戸辺七段の指摘で、△8五飛には▲5四桂と馬を取り、次に▲7一角を見て厳しい。こう指せば、まだ一波乱あったに違いない。
▲8六銀には決断の△同飛。返す刀で△5五桂と打ち、いよいよ収束か。

▲5八玉と逃げたが、最後の粘りを欠いた。ここはダメもとで「▲5五同馬」があったようだ。
本譜△4七銀▲6九玉に、加藤アマ初段が客席を見る。勝利を確信した顔で、私たちもつられて笑う。
金を高々と掲げ、△7八金!! 綺麗な詰み上がりで、つるのアマ三段が「悔しいです!! 負けました!」と投了した。
【投了図は△7八金まで】


終了は午後0時44分。つるのアマ三段は「悔しい~~!!!」と改めて絶叫した。その気持ち、よく分かる。芸能界でも勝ち負けはあろうが、将棋で負けた時ほど悔しいものはない。能力も含め、全人格を否定された気持ちになるのだ。
「オレも将棋ウォーズを無料にします!!」
つまり1日3局に絞って、一局を大事に指す、ということだ。
加藤アマ初段、力こぶを作って、「カッチカチやぞ! 勝っち勝ちやぞ!!」とやった。なるほど勝ちの場合は、このギャグがあったのか。しかしその言葉に恥じない、見事な勝利だった。
「あー悔しい、予備校生に負けた!!」
つるのアマ三段はこれで、このイベントは2勝2敗になったらしい。
「でもそのうちの2勝は私からですから……」
とかりんさん。あまり自慢にならないでしょう、というわけだ。つるのアマ三段はうなだれるしかない。
「加藤さんが中央に馬を作って、これがいい働きをしました。激戦でした」
と、戸辺七段の総評だった。
加藤アマ初段には、主催者から賞状とトロフィーが贈られた。加藤アマ初段、満面の笑みである。
「これからも頑張って将棋を打ちますよ!」
「将棋は指す、っていうんだけど……。オレはこんな相手に負けたのかよクソゥ!!」
会場内は大爆笑である。2人は来年この場での再戦を誓い、第1局は大団円となった。

私は勝者予想が当たったので、「つるの剛士デザイン・クリアファイル」をいただく。それはスッキリしたデザインで、好感が持てた。
2局目は午後2時からなので、苑内をぶらぶら歩く。辺りはいろいろな花が咲いている。
1時になって、入口近くの野点のコーナーでは、高校生がお茶を出し始めた。私もいただきたいが、何となく遠慮する。
展望デッキに行くと、相模湾と藤沢市街が見えた。弁天橋の袂からはブラスバンドの演奏が聴こえる。今日は風が強いがそのぶん雲一つない快晴で、散歩日和である。しかし私の心が晴れないのは、いつもの通りだ。
その手前の庭園はまだ花がなく立入禁止だったが、煉瓦造りの遺構がある。私などはこちらの方に興味が湧くのだが、入れないのではしょうがない。



会場に戻ると、将棋コーナーでは多くの客が将棋を指していた。中には居飛車穴熊対振り飛車、という本格的な将棋もあり、私も覗き込んでしまう。
中・高校生と思しき少年が、ポツンと座っていた。誰かと指したい、という意思表示である。それで私が、よせばいいのに彼の前に座った。
(つづく)
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第4回 江の島将棋頂上決戦・2

2019-03-14 00:19:30 | 将棋イベント

第4図以下の指し手。▲9四歩△3六歩▲2八銀△9二歩▲7四歩△同歩▲8五桂△4六歩▲同歩△5四馬▲7四飛△7三歩▲7九飛△4六飛▲4七歩△6六飛(第5図)

天から水滴が降ってくる。これは何なのだろう。
左を見れば、Sea Candle入場のお客さんが列を作っている。場合によっては追加料金を払って入場することも考えていたが、私は行列に並ばない主義なので、これはダメである。
つるの剛士アマ三段は、▲9四歩と取り込んだ。これは大きな手だ。ザブングル・加藤歩アマ初段はそれを尻目に△3六歩と叩く。乃木坂46・伊藤かりんさんは、「加藤さんは顔色ひとつ変えてないですね」と感心した。
▲2八銀にそこで△9二歩。
かりんさん「端の攻防は難しいですね。私は端攻めをされるのがイヤで、戸辺先生には5回くらい教わりました」
これには解説の戸辺誠七段も、「端のやり取りはプロでも難しいんですよ」と同意した。
▲7四歩と味をつけ、△同歩につるのアマ三段が秒読みとなった。
かりんさん「ここで秒読みは厳しいですね。私とつるのさんは長考派なんです。つるのさんとはよく指すんですが、深夜の対局で、一局に2時間以上かかったこともあります」
それは大変だが私などは、かりんちゃんと深夜に2時間も指すとは……と、つるの氏を羨ましく感じるのである。たぶんほかの「かりん党」も同じ気持ちであろう。
もうひとりの解説、竹俣紅女流初段はニコニコして、ふたりの引き立て役に徹しているようである。
つるのアマ三段は▲8五桂と跳んだ。今度は加藤アマ初段が考える番だ。「どちらも勝負どころになると、ピタッと手を止めて考える。これはいいことです」
と、戸辺七段。△4六歩もいい味付けで、戸辺七段は後手持ちの見解を示した。
そして△5四馬とじっと引いた手には、「雰囲気が出てますね」。
つるのアマ三段は飛車を縦横に動かすが、加藤アマ初段の飛車も、ついに4六-6六と出動してきた。

第5図以下の指し手。▲2二角△6五飛▲9三歩成△同歩▲同香成△同桂▲7三桂成(途中1図)
△8二銀▲7二成桂△同金▲6六歩(第6図)

つるのアマ三段は▲2二角と駒を蓄えにいった。私ならそこで△3三歩と打ち、反則負けしているところ。加藤アマ初段はもちろん△6五飛と逃げる。
「後手が上手く立ち回って、先手は難しいですね」
と、戸辺七段。
つるのアマ三段は▲9三歩成。
「いい反撃です。ここ▲8六歩は攻めのターンが回ってこないと見ましたね」
そのまま9筋を攻めると思いきや、▲7三桂成(途中1図)とこちら側に成った!

「フェイント使いましたね」
「すごい。私は9三の地点しか見えてないですもん」
と、かりんさんが感嘆する。
つるのアマ三段、▲7二成桂と駒得して、形勢の針を元に戻したようだ。
かりんさんは両者の表情を観察し、「もうそれどころじゃありません」と表現する。「でも加藤さんは、持ち時間をまだ3分くらい残してるんですね」
▲6六歩は、こう指したくなるところであろう。

第6図以下の指し手。△3七香▲4九玉△9五飛▲7四歩△7五歩▲9六歩△同飛▲1一角成△9八飛成▲7五飛△8九竜▲7九香(第7図)

加藤アマ初段は△3七香と放った。「このタイミングで!!」と戸辺七段も叫ぶ。先の△3六歩もそうだが、加藤アマ初段は攻めと受けの手を絶妙に散らす。これは大山康晴十五世名人が得意とするところで、相手側はあっちこっちに注意を払わねばならず、くたびれてしまうのだ。
つるのアマ三段は▲4九玉と逃げたが、▲3七同桂は△同歩成▲同銀△2五桂▲2八銀△3七歩で面倒と読んだか。
△9五飛に、▲7四歩と打った。戸辺七段「玉は包むように上品に寄せるのがよくて、これはいい手です。片方から攻めると、逃げられてしまうんですね」
ただ△7五歩もいい辛抱で、こうなってみると「▲7四歩では▲7三歩でしたか」。
つまり▲7三歩△同銀▲7四歩△8二銀▲○○○なら、一手早く攻められた理屈だ。むかし中原誠十六世名人が若手棋士だったころ、相矢倉の将棋で▲3三歩と叩かず、▲3四歩と垂らしたことがあった。その手を(たしか)芹沢博文九段が注意したものだ。
つまり本局の▲7四歩もそのレベルの緩手であって、1歩を大切にするがゆえに指されたとも云える。じっと拠点を作る▲7四歩は、つるのアマ三段が実力を示した一手なのだった。
つるのアマ三段は飛車筋をズラし、やっと香を補充する。と、加藤アマ初段が、ガバッとお尻を突きだした。
竹俣女流初段が「クラウチングスタートみたいですね」と驚く。加藤アマ初段、正座で足が痺れ、脚を浮かせたというわけだった。その気持ち、よく分かる。
かりんさん「対局中はずぅっと正座じゃなきゃいけないんですか?」
戸辺七段「いえ、あぐらになってもいいんですよ」
だが公開対局の場であぐらもできまい。それでクラウチングスタート?になったらしかった。だがこれはこれで、獲物を狙うヒョウのようでもある。
そして△9八飛成。4二の飛車が、ついに敵陣に侵入した。

第7図以下の指し手。△6三桂▲7八飛△同竜▲同香△7九飛▲5九金△7八飛成▲3一飛△6一香▲7三銀△同銀▲同歩成(第8図)

加藤アマ初段は△6三桂と据えた。「控えの桂」の好手で、私などは▲7三銀を恐れるあまり△6一桂と打ってしまう。が、それは反撃の味がないからダメだ。飛車に当てる△6三桂がいいのである。
つるのアマ三段は▲7八飛と引く。加藤アマ初段の足の痺れはひどいようで、かりんさんが「限界みたい。今は足のシビレとも戦っているんですね」と心配する。
加藤アマ初段が△7八同竜と取ったので、つるのアマ三段の飛車も、相手陣にワープできることになった。
だが、続く△7九飛の王手も大きい。つるのアマ三段は▲5九金と節約して受けたが、ここは手堅く▲5九銀、が戸辺七段の推奨だった。
△7八飛成に、▲3一飛と打つ。ここで加藤アマ初段も秒読みになった。盤上、痺れ、秒読みの波状攻撃である。
加藤アマ初段が△6一香と合駒すると、つるのアマ三段は▲7三銀と殺到した。
あれ……?

(つづく)
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第4回 江の島将棋頂上決戦・1

2019-03-13 00:19:16 | 将棋イベント
▲アマ三段 つるの剛士
△アマ初段 ザブングル・加藤歩

▲7六歩△3四歩▲7五歩△4二飛▲6六歩△6二玉▲7八飛△7二銀▲4八玉△4四歩▲7四歩△同歩▲同飛△7三歩▲7六飛△3二銀▲5八金左△1四歩▲3八玉△3三角(第1図)

つるの剛士アマ三段が、舞台の向かって右側に座った。初手▲7六歩。その手つきはプロと遜色なく、対局姿には風格すら漂う。
加藤歩アマ初段は、ダウンジャケットを着こんでいる。今日は風も強く、当然の防備である。△3四歩、▲7五歩。解説の戸辺誠七段は、舞台左にある大盤の左側にいる。
「この▲7五歩は、▲7八飛をやるつもりなんですね」
つるのアマ三段は振り飛車党である。しかし加藤アマ初段もそうらしく、一足先に四間飛車に振る。つるのアマ三段も三間飛車に振り、双方の作戦が決まった。
大盤の右側には竹俣紅女流初段、乃木坂46・伊藤かりんさんがいる。ドルオタから見たらクラクラする光景だが、そこは「写真撮影禁止」の札が掲げられている。今の時代、この措置はやむを得ない。
「相振り飛車になったので、見ていて分かりやすいですね。ところで観客の居飛車党の方も、私の『振り飛車党』のタオルを持ってくださっているんでしょうか」
と、かりんさん。もちろんそうであろう。
つるのアマ三段は▲7四歩から1歩を手にした。

第1図以下の指し手。▲6八銀△1五歩▲9六歩△9四歩▲4八金上△4三銀▲6七銀△4五歩▲7七桂△5四銀▲9七角△4五歩▲9八香△7一玉▲5六銀△3五歩▲8六角△3六歩(第2図)

つるのアマ三段は▲4八金上とし、二枚金の形。
戸辺七段「ちょっと変則的な囲いですが、相振り飛車ではよく用いられています」
いっぽう加藤アマ初段は、とうに△7二銀と上がっているが、なかなか△7一玉と入らない。
▲9八香は後手の角筋を避けて渋い。ここで加藤アマ初段が、ようやく△7一玉と入った。
戸辺七段「振り飛車は玉の囲いが簡単なんです。△7二銀として、△6二玉・△7一玉で、ほぼ完成。金銀の特性をよく活かしているんですね」
と、加藤アマ初段が△3六歩と突っかけた。
「いきなり行きましたね!」
戸辺七段が叫んだ。

第2図以下の指し手。▲2八銀△3七歩成▲同銀△5五銀▲同銀△同角▲5六歩△6四角(第3図)

つるのアマ三段は▲2八銀と上がった。戸辺七段は駒の名称を言わず、変化を述べる。それを訳すと、「ここで素直に▲3六同歩は、△4六歩▲同歩△同飛▲4七歩△3六飛と捌かれるのを嫌ったということでしょうか」となる。
加藤アマ初段は△3七歩成から、△5五銀とぶつけた。「積極的ですね」
公開対局では時間との兼ね合いもあるので、じりじりした将棋はそぐわない。それに早くチャンバラになったほうが、観客も楽しい。
竹俣女流初段「そうそう、加藤さんは負けたら『悔しいです!』をやるんですけど、勝ちバージョンもあるらしいんですよ。私は教えてもらったんですが、加藤さんが勝った時のために、今は言えません」
今日は紅のコートがよく映えて、さしずめ中国の美人女優のようだ。
戸辺七段が「伊藤さんは将棋の収録はどうでしたか」と聞く。かりんさんは4年間続けた「NHK将棋フォーカス」のMCを今月いっぱいで離れる。かりんさんは、「名人とか竜王とか強い方がいっぱいいて、圧倒されました」と答えた。
盤上。▲5五同銀△同角▲5六歩には△6四角と、さらに駒をぶつけた。

第3図以下の指し手。▲6四同角△同歩▲9五歩△8九角▲9七香△5六角成▲5七歩△5五馬(第4図)

振り飛車は駒を交換していくのがいい、と藤井猛九段は著書で語っている。加藤アマ初段の△6四角もそれに沿ったものだが、ここは▲7五銀と打てば、この角が死んでいる。
しかしそれには△3六歩の切り返しがあり、A▲3六同銀は△1九角成、B▲2八銀は悔しくて指せぬからC▲6四銀となるが、△3七歩成▲同金△6四歩は二枚換えで後手よし。
……と、私の読みを両者も考えていたかどうかは知らぬが、つるのアマ三段は▲6四同角と応じた。そうか、▲7五銀には単純に△同角でも取り方が難しいのだ。
つるのアマ三段▲9五歩。相振り飛車における待望の端攻めだ。
ここで戸辺七段がかりんさんに形勢を聞く。しかしかりんさんは、「実は私の位置からは、大盤があまり見えないんです……」と言う。
やはり3人横に並ぶのは厳しいか。前述の通り今日は南風が強く、戸辺七段のほうにはマイクの指し手が聞こえにくいらしい。しかもマイクは暴風の音を拾っている。でも観客からのアシストもあって、何とか駒を進めている状態だった。
加藤アマ初段、△8九角。かりんさんは一歩こちら側に出て、大盤を見る。
「加藤さん持ちでしょうか。でも飛車が向かい合っている形(相振り飛車)は見ていて楽しいです」
かりんさん、将棋ファンを喜ばせるコメントである。
戸辺七段「どちらもうまく指していますね。見てください、どちらも金銀3枚で囲って、攻めは角銀を手にしている。無駄な駒がないのは有段者の証です」
▲9七香も渋い。つるのアマ三段は「戸辺攻め」の戸辺門下だが、受けも得意のようだ。
加藤アマ初段は△5六角成と、こちらに成った。ここで戸辺七段が「成」の説明をした。
戸辺七段「ここは△9八角成として、かりんさんの好きな香車を取りに行く手もありました」
かりんさん「私は香車というか、取れる駒を全部取りたい。でもそれで負けちゃうんですけど」
戸辺七段「そうですね、いろいろ見ると、負けている方は駒をいっぱい持っていることが多いですね」
将棋は億万長者ゲームではなく、敵の大将を討ち取ることが目的なのだ。
つるのアマ三段は▲5七歩と打ち、ハタハタと扇子で仰ぐ。さすがは役者で、それが絵になっている。
加藤アマ初段は落ち着いて△5五馬と引いた。
「今年はいつになく真剣勝負の気がします。以前はチョコレートタイムとかあったんですけど……」
と、かりんさんがつぶやく。将棋は中盤の難所である。

(つづく)
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第4回 江の島将棋頂上決戦・0

2019-03-12 00:07:30 | 将棋イベント
私は棋士のブログはあまり読まないのだが、先月竹俣紅女流初段のブログを見たら、「江の島将棋頂上決戦」の告知があった。
これは湘南江の島で行われるもので、今年で4回目。今年は9日に開催される。出演は竹俣女流初段のほか、戸辺誠七段、つるの剛士氏、乃木坂46伊藤かりんさん、ザブングル加藤歩氏とのことだった。
会場は「江の島コッキング・サムエル苑」で、入場料が200円かかるそう。
私は昨年行かなかったが、後で後悔した。9日は予定もなかったので、今年はお邪魔することにした。
だが当日朝は、起きるのに難儀した。前夜の就寝が夜中の3時で、明らかな寝不足だったからだ。無計画に夜更かしするからこんな羽目になるわけで、どうしようもない。
さて江の島へのルートはいろいろあるが、最も安いのは新宿まで出て、小田急の利用だ。
また大船からモノレールも通じていて、こちらも食指が動く。料金は高いが早く着くし、輸送形態も魅力的なので、迷った末、こちらを利用することにした。
上野駅から上野東京ラインに乗った。上野~東京間の新線ができたのは嬉しいけれど、始発が東京でなくなったので、座れなくなったのは痛い。
でも新橋で座れた。ここで少しでも仮眠しないと、これからもたない。
でも眠れないまま、大船で降りた。時間があれば大船観音を参詣したいが、もちろんモノレールへ直行し、滑り込みで乗車した。
湘南モノレールは過去に何度か乗ったことがあるが、ずいぶん久しぶりだ。乗り心地はさらに良くなり、レールの上を走っているかのようだった。
タイム15分で、終点の湘南江の島駅に着いた。そこはビルの5階だったが、シャレたテラスがあり、富士山が綺麗に見えた。


3階でこのイベントのチラシをいただく。これは「第36回 湘南江の島春まつり」の一コーナーで、ほかにもいろいろ催しが用意されていた。
湘南電車の踏切を渡り、江の島弁天橋を渡ると、右手に再び富士山が見えた。


江の島の袂からは和太鼓の音が聞こえてくる。これもイベントのひとつだが、ここで寄り道するわけには行かない。
遠くに江の島のシンボル・Sea Candleが見えた。コッキング苑はその周辺だ。
江の島に入る。江の島は紀行番組でおなじみなので、久しぶり感がない。鳥居を潜ると、参道左手に行列があり、名物「たこせん」を売っていた。もちろんここも素通りする。
右手に「エスカー」が現れた。これに乗れば難なく頂上に着けるが、利用料360円は高くて手が出ない。てくてく階段を登る。
江島神社があったが、ここも参拝せず先を急ぐ。やっとコッキング苑に着いたが、時刻は11時を過ぎていた。やはり徒歩だと時間がかかる。
入場料は、Sea Candleの展望入場料込だと500円になる。私は入苑するだけでいいので、200円だけを支払った。
入苑すると、野点をやっていた(無料)。藤沢清流高校茶道部の方々がお茶を出してくれるありがたい企画だが、やはり先を急ぐ。
Sea Candleの袂に行くと、舞台では戸辺七段、竹俣女流初段が大盤を前に、将棋のレクチャーをやっていた。客席は満員で、立ち見も含め300人はいるだろうか。
私は後方で立ち見である。しかしふだんの運動不足の解消と、大盤を眺めるためには、これでちょうどいい。
「将棋の駒は8種類。これを覚えれば、あなたも将棋が指せます!」
と、戸辺七段が何かのセールスのように言う。
竹俣女流初段は、紅のコートが鮮やかだ。「私は金が好きです。攻めにも守りにも強いし、要になる。イジメっ子をやっつけたり、弱い子を守ったりするのが好きです」
こんな感じで8種類の駒の特性を述べ、いよいよ対局である。
司会は妙齢の女性が務める。第1局は、つるの剛士氏(アマ三段)と、ザブングル加藤歩氏(アマ初段)だ。舞台の看板には「江の島将棋頂上決戦 江の島竜王戦」とあった。
まずは、ふじさわ観光親善大使・つるの氏が登場した。今日は羽織袴姿のいでたちだ。
「皆さんおはようございます! 私はこの素晴らしい景色の中で将棋を指したいと思ってイベントを始めたんですけど、今年で4回目です!」
早くも気合が迸っている。会場を見渡して、「今年も“かりん党”がいらっしゃるんですか? いい味出してます」
とみなを笑わせた。
続いて加藤氏が登場した。こちらはトレーナー姿でラフだ。
しばらくは二人のプチトークショーとなる。
「私は加藤さんがライバルだと思っていて、3戦して、2敗してるんですよ」
「何言うてるんですか、三段と初段じゃ、えげつない差ですよ」
「いやいや、だって加藤さんのお父さんは、将棋道場の師範ですよ。名前の歩も、将棋から取ってるんでしょう?
そんで加藤さん、『将棋ウォーズ』で、無料で指してるんですよ」
将棋ウォーズは日本将棋連盟が公認する将棋オンラインゲームのアプリで、1日3局まで無料で対局できる。有料ならもちろん何局も指せるのだが、加藤氏はおカネを出し渋っているという。「加藤さんそのくらいのカネ出してよ!」
「いやそのカネがないんですわ」
何だか漫才を見ているようである。
「昔はねえ、『さんまのからくりTV』で、将棋十番勝負もやったんだけど」
と、つるの氏。だがそれはお蔵入りになったそうだ。「今なら放送されたと思うけど、当時はまだ将棋ブームじゃなかったからねえ……」
つるの氏が遠くを見た。「でも加藤さん、今日はまた予備校生みたいな恰好で……。フラッと来た感じがどうも……」
私たちは爆笑する。そこへ伊藤かりんさんが登場した。すかさず会場から、多くのタオルが掲げられる。
「アッ、『振り飛車党』のタオル!」
なるほど、「かりん党」が多く来場しているようだ。「私とつるのさんは誕生日(5月26日)が一緒なんです」
「今日はガチですよ」と加藤氏は怪気炎を上げた。
なお、加藤氏が好きな駒はなぜか飛車、かりんさんは香車とのことだった。
今日用意された駒は天竜師作の逸品だ。「ウン十万はしますよ」とつるの氏が感嘆する。
ここで勝敗予想である。早くに入場した人はすでに受け取っていたのだが、勝者予想の整理券を受け取り、それが当たると「つるの剛士のイラスト入りクリアファイル」がもれなくもらえるのだ。
配布は地元高校の生徒諸君が行なっている。イベントにはボランティアの協力が不可欠である。
私は「加藤氏勝利」の整理券を頂戴した。加藤氏、「今日は『悔しいです!』のギャグはやりません」と頼もしい。ただし、駒を触ったのは2年振りとのことだった。
2人が所定の位置に座る。記録・記譜読み上げの小高悠太郎奨励会三段(小高佐季子女流2級の兄)の振駒で、先手がつるの氏になった。持ち時間は15分・秒読み30秒。
対局が始まった。
(つづく)
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