付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「花咲ける青少年」 樹なつみ

2007-10-11 | その他フィクション
「何事も終末があるからこそ始まる事ができる。真の永遠など、この世にはないと私は思う。故に終末は美しい。国の成り立ちも同じ事」
 日没を自然現象の中で最も華やかなショーだと言う、バーンズワース財閥の総帥ハリー・バーンズワースの言葉。

 うかつにも樹なつみの『花咲ける青少年』を朝方まで読みふけっていてしまった。仕事があるのに……。

 1939年。第二次世界大戦前夜。ニューヨーク万国博覧会に沸き立つアメリカを訪問した東南アジアの小国ラギネイの皇太子が、アメリカ人の新聞記者フレッドとクラブ歌手のキャスリーンに出会う。文化や生活習慣の違いから衝突する若者たち。だが、皇太子に差し向けられた追っ手から逃れるうちに、皇太子と少女は互いに惹かれているのに気づく(吊り橋効果だとツッこむなかれ)。
 事件は落着し、少女キャスリーンは姿を消し、少年マハティ・シェイク・ダイ・ラギネイは1人帰国して王座に就く。

 そして50年。日本のとある高校に1人の転校生がやってきた。花鹿・バーンズワース。彼女は奔放な行動で周囲を翻弄する。だが彼女こそ、かつて新聞記者だったフレドリック・バーンズワースとキャスリーンの孫であり、一代で多国籍企業を立ち上げた謎の男、ハリー・バーンズワースの娘だった……。


 序盤のあらすじをまとめてみたら、なんか全然違う話みたいな気がしてきました。
 話的には純然たる「少女マンガ」なんです。大富豪の家に生まれた少女が父親から花婿捜しのゲームを挑まれ、ついに自分が本当に愛する者にたどり着くというストーリー……ではあるのだけれど、アメリカでの『ローマの休日』から、一転して現代日本での学園ものになり、そしてあっという間にアメリカへ飛んでいきなり「花婿捜しだ」ということになる。それから華僑も絡んで多国籍企業同士の対立が表面化したかと思うと、石油産出国ラギネイでのクーデター騒ぎに突入し……と時代も場所も二転三転。それでも常に主人公・花鹿が中心にいて、ストーリーが反れないのが立派。
 ドラマ的に面白い反面、やはり掲載誌が『LaLa』という少女マンガ雑誌だけあって、メカニックの書き込みが足りないとか、戦闘の描写が甘いとか、政治劇や経済戦争をもっと前面に出せとか(ほとんど言いがかりにすぎないのだけれど)男性読者には物足りない一面もあるわけで、今、『PLUTO』みたいに青年誌あたりで別の作家で男性向けにリメイクされたら面白いのに……と妄想。(2007.10/11)

 この作品がNHKでアニメ化されるとは、やはり根強い人気があるんだねえ。1990年の作品といったらほぼ20年前なのに。
 ただ、いまだに怖くてアニメ版は見てません。NHKのアニメって、オリジナルは独創的で面白い作品が多いのに、原作付になるととたんに凡庸でつまらなくなるんですよね……。(2009.04/28)

【花咲ける青少年】【樹なつみ】【王族】【石油】【恋】【クーデター】【血族】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「楽園の泉」 アーサー・C・クラーク

2007-10-11 | 宇宙探検・宇宙開発・土木
「女は赤ん坊を産む点で優れているのだから、自然はきっと男にも、何かそれを埋め合わせるだけの才能を与えたんでしょうね。でも、いまのところわたしには見当がつかないわ」
 マクシーヌ・デュボールの毒舌。

「充分な数の人間が信じ込めば、伝説は真実になるものなのさ」
 シーク・アブドゥラの言葉。新興宗教なんかでも同じですね。

 『楽園の泉』は、赤道上の小島タブロバニーに宇宙へ届く全長4万キロのエレベーターを建設する物語。まったく同じ時期に、同じテーマで書かれたチャールズ・シェフィールドの『星ぼしに架ける橋』という作品があるのだけれど、それもなかなか。あるいは、こういう物語を小松左京が書いたらプロジェクトXみたいな集団劇になるのだろうなとか思ったり。
 でも自分としてはクラークの、宇宙に向けた工学的なプロジェクトを神学的哲学的な視点からもアプローチするという、神話と一体化した叙情的な物語の中にもユーモアの効いたシニカルな視点を残した雰囲気が好きです。

「自然と戦うべき時期もあれば、それに従うべき時期もあります。真の知恵とは、正しい選択をすることにあるんです」
 惑星頭脳アリストートルの言葉。

【楽園の泉】【アーサー・C・クラーク】【軌道エレベータ】【軌道塔】【神話】【ファーストコンタクト】【仏教】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「刑事コロンボ」 デアゴスティーニ

2007-10-11 | ミステリー・推理小説
 週刊ムックコレクションでお馴染みのデアゴスティーニの新作は『刑事コロンボ』! とりあえず45号を目標に隔週で刊行していくそうで、税込み1490円でパッケージに入ったDVDが買えるなら損はないなと一思案。

 『刑事コロンボ』は倒叙ミステリの傑作シリーズで、有名俳優が演じる犯人がいかに完全犯罪を犯し、いかに露見して逮捕されるかを描く、あの『古畑任三郎』の元ネタ。往年の大スターはともかく、『スパイ大作戦』や『スペース1999』のマーチン・ランドー、『スタートレック』のウィリアム・シャトナーやレナード・ニモイ、『0011ナポレオン・ソロ』のロバート・ボーンらが逮捕されていく姿にワクワクしたもんです。
 本放送後に刊行されたサラブレッド・ブックスの新書版を、こづかい貯めて一生懸命集めてたけれど、東海豪雨でみんな流れちまったなあ。竹書房文庫版を今さら集める気もないし……ということで、これでDVDで揃うならそれでいいよなあ。

 話的にはもちろん長いシリーズなので玉石混合。けれども前に言及した『別れのワイン』と『二つの顔』を別としても、ストーリーが良い話もあればトリックがすごい話もいろいろあります。
 ストーリーとして好きなのは、コロンボが唯一誤認逮捕したまま話が終わる『忘れられたスター』。
 犯人決め手となるトリックとして面白いのは、「誰の指紋がついているのか」という『二枚のドガの絵』とか、「誰が目撃者なのか」という『5時30分の目撃者』。発想の逆転がすごいと思った。
 でも『意識の下の映像』の犯罪トリックは今ではトンデモという説が有力らしいぞ。

 それからデアゴスティーニの第1巻はパイロット版でもある『殺人処方箋』。まだコロンボの役柄ができあがっていなくて荒削りなんで、特別価格790円は適価だと思います。これが売れて調子に乗ったデアゴスティーニが『警部マクロード』にまで手を出してくれると思うつぼなんだけど。

【刑事コロンボ】【倒叙ミステリ】【レインコート】【イタ車】【チリコンカン】【葉巻】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「GOSICKs~春来たる死神」 桜庭一樹

2007-10-11 | ミステリー・推理小説
 今や直木賞候補に挙がるまでとなり、吉川英治文学新人賞や日本推理作家協会賞を受賞するまでとなった桜庭一樹の作品と出会ったのは、なぜか2005年のSF大会でのことでした。
 ディーラーズルームに出店していた本屋が売っていたので、帰りの車中で読むために1冊買い求めたのでした。
 条件は、まだ未読で、かつ片手で持てるくらいの薄い本。それが『GOSICKs~春来たる死神』でした。

 1924年、ヨーロッパの小国に留学した日本人少年が出会った不思議な少女と謎が幾つか。納骨堂で発見された騎士の死体、首無しライダー、倉庫の幽霊、そんな謎を図書館塔上の温室で、いつも1人でパイプをくゆらせている美少女が鮮やかに解決する。
「この世の混沌から受け取った欠片たちを、"知恵の泉"が退屈しのぎに玩ぶのだよ」

 ん……萌え要素を投入した安楽椅子探偵ものですか。富士見ミステリー文庫。雑誌掲載分をまとめた連作短編集……って、SFでもなんでもねーよ!? まあ、SF好きが好きと言い張るモノなら鉄道模型でも酒でも容認するのがSF大会ですから。
 謎解きそのものには特筆すべき点はないけれど、キャラクターとミステリーとストーリーのバランスがほどよくとれている感じ。既刊の長編シリーズの方に手を出してもいいかなと思わせるものでした。可憐な容姿と不釣り合いなしわがれ声が印象的な灰色狼ヴィクトリカもいいけれど、生まれながらの冒険少女アブリル・ブラッドリーもなかなか気になる存在……というか、すごく応援したくなるか鬱陶しくてたまらなくなるかボードーライン上なのだな。
 中1のときに長男に読ませたけれど「面白い」といってたから、ミステリー作品への誘導役としては十分な力量があるんでしょう。
 さてさて、今年はどんなモノに出会えるのでしょう? 明日から3日間だけですがワールドコンへ行ってきます。

【GOSICKs~春来たる死神】【桜庭一樹】【アンティーク・ドール】【煙管】【日本男児】【ドリル】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「クジラのソラ01」 瀬尾つかさ

2007-10-11 | VRMMO・ゲーム世界
 10年前に地球を制圧した異星人は地上世界には何も手をつけず、ただゲーム・システムを与えた。3人1組で与えられたポイントを使って艦隊を編成し、同じく3人1組のチームと対戦していく。そして年に1回の世界大会に優勝したチームは宇宙へと召還され、その代わり母国へは世界の勢力図を一変させるようなオーバーテクノロジーが1つ与えられるのだ……。

 この『クジラのソラ』は「エンダーのゲーム」と同じ、「子供がコンピュータでウォーゲームのスコアを競っているんだけれど、それは実際別のところでリアルに起きている戦争なんだよ」という話。まあ、こちらは5歳や10歳のガキではなく、15歳女子高生とか20代後半アンチャンたちとかの戦いですが、メカニックが重要な存在になっているのはエンダーと違うところ。戦術ってのは、それを実現するための操縦者だけでなく艦も必要なんです。

【クジラのソラ】【瀬尾つかさ】【ゲーム】【戦争】【生産】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「テクニカラー・タイムマシン」 ハリィ・ハリスン

2007-10-11 | 時間SF・次元・平行宇宙
 ハリスンの作品でいちばん好きなのは『テクニカラー・タイムマシン』。モンキー・パンチのイラストがきれいに決まって面白かったですね。
 ハヤカワもこのあたりのラインナップはマンガ家を表紙に起用していましたが、テンポが良くてユーモラスなハリイ・ハリスンの作品はライトノベル向きだと思います。(……と思っていたら、『異世界AV撮影隊』なんてコミックが出てましたが、かなり近い)

 倒産寸前の映画会社がみつけた金の玉子はタイムマシン。世に認められない天才科学者の発明を手に入れた会社は、これならセット代もエキストラの給金もタダだ!とばかり、バイキングのアメリカ遠征をテーマにした歴史大作の製作にとりかかるのだ!
 普通にセットをつくるより安い予算でタイムマシンを完成させ、歴史を遡って、実際に起きた出来事を撮影するだけと簡単な仕事になるはずだったのだが……。


 最近だと、幸村誠の『ヴィンランド・サガ』のネタになっているあたりの世界ですね。一度復刊しているので、手に入れやすくなってないかな。タイムトラベルものとか映画業界ものとかバイキングものをコメディで読みたい人にはオススメ。
 三葉虫でバーベキューとか次第にバイキングの思考に染まっていくスタッフとか本番突入してしまうお色気担当女優とかネタを絡めつつ、ちゃんとタイムパラドックスとか歴史改変ネタを取り込んでいるところがお見事。

「戦争は基礎研究に出資しない。だが真の発展が生まれるのは基礎研究からだ」
 ジェンス・リン博士の言葉。産学協同が唄われ、またそうでないと予算も出ない時代ですが、基礎研究は疎かにしないで欲しいものです。

「愚かな人間にのみ、理性と狂気は相以て見えるものじゃよ」
 ドクター・ヒューイットの言葉。自信満々なマッドサイエンティストの言葉でした。

 しかし、映画のセットを用意したり、エキストラ役者をあれこれ手配するより、科学者に投資してタイムマシンを開発させる方が安くつくというのは、そんなものかもしれないなーと思ってます。
(2007.10/11 2019.08/29改稿)

【テクニカラー・タイムマシン】【ハリィ・ハリスン】【モンキーパンチ】【ハヤカワ文庫SF】【バイキング】【ポルノ】【タイムパラドックス】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「雪の女王」 ジョーン・D. ヴィンジ

2007-10-11 | その他SF(スコシフシギとかも)
 アンデルセン童話「雪の女王」をモチーフにしたSFファンタジー。
 終わりゆく冬の世界を守るため、来るべき夏の世界の阻止に動く<冬の女王>。彼女に捉えられた少年を救うべく、<夏>の少女ムーンは旅立つ……。

「変化は悪ではない……変化は、交替は、命なのよ。完全に良いものも、完全に悪いものもないのよ。カーバンクルでさえもね。それは海なのよ。それなりの潮があって満ちたり引いたりしているの」
 ムーンの言葉。
 栄枯盛衰、諸行無常と日本人ならいいますが、こっちの方が雄大です。ワビサビはありませんけれど。

「無関心はね、宇宙で一番強い力なのよ。それは触れるものをすべて無意味にしてしまう。愛も憎しみも。それに対して勝ち目はないわ。それは怠慢も退廃も不正も、抑制せずに見逃してしまう」
 警察官ジェルシャ・パラシオンの言葉。

「ほかの人間を人間以下に扱うのは、自分自身を人間以下に扱うことになるんだ」
 ンゲネット・ミロエの言葉。
 この言葉をいつも心に刻みつけておきたい。

「雪の女王」★★★

【ブラックホール】【孤立した世界】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「ミャンマーの柳生一族」 高野秀行

2007-10-11 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
 信仰厚い仏教国のくせして僧侶を蹴散らしている映像が世界中に流れているミャンマーですが、この本は著者が作家・船戸与一に同行したミャンマー取材の顛末です。「ミャンマーは日本の江戸時代に似ている!」とミャンマー情勢を徳川家・柳生一族・諸大名の関係に見立て、いきなりアウン・サン家康とかミャンマー柳生とか言い出してますが……これ、どこのブシドーMMOですか……。
 まあ、実際、感覚としてよく理解できるのですが、理解できすぎて何か誤解してないか怖いです。
 ミャンマー情勢を付け焼き刃で頭に入れるには最適な1冊。2003年の取材のようですが、後日談で柳生一族の崩壊まで入っているので完璧。そうかー、千姫かー。だから軟禁されつつも、大事にされてんのね。そして逆に、明治維新で開国した日本がなぜあれだけ早く国際社会に融け込み発展していったかについて、ミャンマーから新たなアプローチを1つ追加。

 でも、合法的にミャンマーに入国するのはン年ぶりだという著者とか、思いつきで麻薬王に合わせろとか言い出す船戸与一とか、一筋縄でいかないメンバーの旅行記としても面白いと思います。

【柳生】【軍事政権】【麻薬】【国際人】【多民族国家】【高野秀行】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「精鋭・日本自衛艦隊」 谷三郎

2007-10-11 | 戦記・戦史・軍事
 海上自衛隊の設立から執筆時点までの略史と組織や兵装などの紹介をまとめたもの。昭和61年の刊行なので情報的には古いから、戦術や兵器のデータとしてはそのあたりを割り引かないといけないし、世界情勢や装備更新についての予想も外れていることも少なくない。
 でも、それでも十分資料としては活用できそう。いや、そんな活用できるような事態に陥りたくはないけれど、万が一掃海艇部隊の編成とか護衛艦の組織図を提出しなくちゃいけなくなったら、そのときはこれが助けになるかな……と……。

 さて、90年代前半に『蓬莱学園の冒険!』の延長で遊んでいたとき空母が話題になって、そんなもの要るとか要らないとか、運用できるとかできないとか騒がれていた時期がありました。そのときに、確か「中古タンカーを買ってきたら、改装して空母になんない?」という話があったんだよね。
 そのときは「荷重とかがあるから、耐久面で無理でないか」ということになったんだとおぼろげに覚えてます。まあ、遊演街のログあたりをさばいたら出てくるかも知れないけれど。
 それで、この本を読んでいたら造船所技術者の意見として、今はハリアーとかがあるからタンカーや商船を改造して空母化するだけなら簡単……という一節があって「なんだ!」と一声。
 いや、どこにも空母を持つ必要も予定もありませんけれども。

「精鋭・日本自衛艦隊」★★★

【掃海】【シーレーン】【護衛艦】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「魔物を狩る少年」 クリス・ウッディング

2007-10-11 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「わたしの名で殺しをしている奴を、おまえは知っているはずだ」

 世界初の硬式飛行船をドイツが完成させたのは史実では1900年のこと。それより何十年か早く実戦投入に成功したプロイセンの飛行船がロンドンを空爆し、殲滅戦(フェアニヒトゥング)で英国を屈服させたところから話が始まるのが、クリス・ウッディングの『魔物を狩る少年』。

 科学の粋を尽くしたドイツ帝国の空爆は、古き良き時代の終わりを告げるものであると同時に、科学技術の時代の到来を告げるものになるはずだった。だが、現実に世界を覆い尽くしたのは<魔の眷属>であった。
 ヴィクトリア女王の統治下のロンドンにいつしか出現するようになっていた魔物たちは、いつしか種類や数を増やし、駆逐しきれるものではなくなっていた。この災厄は世界中のほとんどの大都市で発生し、人々は迷信と恐怖の時代に生きることを余儀なくされていた。こうした状況で魔狩り人(ウイッチハンター)という職業が生まれるのは必然だった。政府からの報酬と賞金を得て魔物に立ち向かう彼らの武器は科学と迷信と経験だ。
 伝説的なハンターの遺児であり、自らも凄腕のハンターである17歳の少年サニエルは<揺りかご荒らし>を追跡中に、記憶喪失の少女に襲われるのだが……。

 美形の少年と記憶喪失の美少女が魔物に挑むという構図に、思わずハヤカワに続いて創元もライトノベル方面に足がかりを築き始めたか!?と思ってしまいました。実際、面白かったけれど、ライトノベルの文庫に入っていても不思議ではないレベルと傾向。どっちを卑下しているわけでも過大評価しているわけでもなく、作者もタイトルも伏せられてゲラ刷りだけ読まされたら、電撃文庫とかスーパーダッシュ文庫の優秀作?と思わせる内容ですね。少なくとも「創元推理文庫」「ゴシックファンタジー」というアオリ文句で期待する内容とはちょっと違う気がします。出来不出来は別として、レーベルごとに期待する傾向ってあるでしょ? それにちらと出てくる<ディープワン>だとか「不格好なタコかアザラシ」のようなシンボルに、クトゥルフへ転がるかと思ったら、それもまた違っていたみたい。
 解説を読んだら作者は1977年生まれのイギリス人で『天空のエスカフローネ』とか『風の谷のナウシカ』が好き……ということで、なんとなく納得。世代としてもかぶってるのかな(どうせなら二分冊してカラー口絵の1つも付ければいいのに)。
 キャラ的には正体不明の殺人者<ステッチ・フェイス>がいちばんのナイスガイ。もちろん狂気の殺人者で主人公たちに協力するわけでもなんでもなく、ただ他人には理解不能な動機で殺人を繰り返すだけなんだけどね。

「魔物を狩る少年」★★★

【狩人】【ボーイ・ミーツ・ガール】【ロンドン異聞】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「ときむすび」 築地俊彦

2007-10-11 | 学園小説(不思議や超科学あり)
 築地俊彦の『ときむすび』を購入、読了。
 うん、清水マリコなんか好きな人にはお勧め。イラストの加茂さんもいいよね。こういう絵は好きです。
 話はごく普通高校生男女の心のすれ違いを軸にした青春ストーリーで、剣とか魔法とか怪物とかは出てこないんだけれど、場面の片隅にどこか日常への違和感というべきカケラが転がっていて……というもの。
 いろんなタイプの美少女6人取りそろえ、朴念仁の主人公に調子の良いその親友という、なんかギャルゲーのパターンで押し進め、パターン通りに適当に落とすかと思わせておいて最後の最後でシニカルに突き放すのが築地節かな。
 そういえば伊藤伸平の『はるかリフレイン』もこんな感じの話でした。青春モノは、甘くせつないものです。

【ときむすび】【築地俊彦】【加茂】【秋祭り】【タイムスリップ】【死者】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「緑の星のオデッセイ」 フィリップ・ホセ・ファーマー

2007-10-11 | その他SF(スコシフシギとかも)
「神々というものは、手近にいることが多いもんだ。もし神々が存在しないなら、作り出すことが必要になるってわけさ」
 アラン・グリーンの言葉。
 もっとも森羅万象すべてに神が宿るという日本人にはごくあたりまえの発想で、トイレにも神様がいると聞いたら彼は何と思うだろうか?

 海と呼ばれる大草原の各所に都市国家が点在し、その間を帆船車が行き交う世界。
 宇宙船事故でこの惑星に漂着したグリーンは脱出を決意し、遠い街に囚われているという地球人の宇宙飛行士救出し、大航海へと乗り出すのだった……。

「緑の星のオデッセイ」★★★

【星間種子】【古代文明】【世界放浪】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする