付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「聖者の異端書」 内田響子

2007-10-23 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「区別するのは人の性質だから。動植物と人を区別し、他人と己れを区別し……」
 ライトノベルとヤングアダルト小説とジュブナイルを区分し……とは言わなかったけれど、「名も無き姫」の言葉。

 歴史上の記録を見ると、女性の名前は記録されていないものばかりなのだけれど、この作品においては主人公である「姫」もその「母」も名前を呼ばれることもなく、名乗ることもない。
 人の性として言わせてもらうなら、この内田響子の『聖者の異端書』は中央公論新社のC★NOVEL大賞特別賞受賞作ではあるけれど、「ライトノベルのファンタジー」とか「一般のファンタジー」というよりは児童文学に近い感覚の作品。本当に感覚的な話なのでなんですが、婚礼の席上、目の前で花婿が消えてしまった姫が、父親の制止も振り切り、見習い僧を道連れに、伝説の魔法使いに会い、試練の騎士や盗賊団の力を借り、変装して遙かなる異教の神殿へと潜り込んでついには花婿を助け出すというストーリーはやはり児童文学なんじゃないかなあ。
 ライトノベルとかだったら、物語の最初と最後にちらと登場するだけの何もしていない王子様より、姫の探索を助け続けた良い男たちの誰かと結ばれるもんでしょ。

【聖者の異端書】【内田響子】【岩崎美奈子】【C・NOVELSファンタジア)】【魔法使い】【騎士】【盗賊】【花婿捜し】
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「18世紀ロンドンの私生活」 ライザ・ピカード

2007-10-23 | エッセー・人文・科学
 戦争とか政治とか小難しい話は置いといて、ただ18世紀ロンドンにおける人々の生活にかかわる物事や事件を水、交通、建築、慈善、仕事など、さまざまなテーマに区分し、あちらこちらの史料から寄せ集めた断片から構成した歴史コラムの集大成……というか百科事典。
 たとえば子供の遊びなら、「パタパタこねて、パン焼きさん」という歌遊びは1698年以降のものだとか、子供向けサイズの本を初めて売ったのは1740年のトマス・ボアマンだとか、ボードゲームは1750年に……等々、絶対に普通に生活していたら役に立たなさそうな読み物で、いくらでも時間が潰せます。危険!

【18世紀ロンドンの私生活】【ライザ・ピカード】【ロンドン】【歳事】【職業】
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「モグラびと」 ジェニファー・トス

2007-10-23 | 伝記・ノンフィクション
 ロサンジェルスタイムズの記者だった著者が、モグラびとと呼ばれるニューヨーク地下に住むホームレス/ハウスレスについて取材したルポタージュ。

 都市の地下に広がる迷宮といえば納骨堂や教会まで出てくるローマが有名だけれど、別にローマに限った話ではないらしい。ロンドン、モスクワ、パリ、そしてニューヨーク、大都市なら多少の差はあれ、地図に載らない地下空洞はあって当然という感じです。それは主に都市建設時に石を切り出した廃坑が今も残っている……それだけのこと。
 ニューヨークの場合は、19世紀に15のガス会社が統合された際に余分の本管を廃棄し、つまりは埋め戻さずに放置し、独立戦争時代の地下便所もそのままで、初期の地下鉄路線がまるまる1本掘り出されたり、高速道路が埋まっていたり……なんでもやりっ放しのところがアバウトすぎます。1971年の映画『小さな恋のメロディ』のテーマ曲「メロディ・フェア」で知られるコーラスグループ、ビー・ジーズのヒット曲に「ニューヨーク炭坑の悲劇」という歌があるのだけれど、炭坑まであったかどうかは知りません。
 成田良悟の『バウワウ!』に、誰も構造を完全に把握していない人工島の地図を作ろうとする少女が登場しますが、ニューヨークも厳密には完全な地図が存在しないのですね。古い地図を何枚も照らし合わせ、おそるおそる掘ってみる……というレベルのようです。

「トンネルは、そこに入っていく人間の人生を吸い取っちまう」

 ただ内容的には、そこに住むハウスレス、それに関わろうとする警官やソーシャルワーカーなどの「人間」について語るものなので、写真はほとんどありませんし、地図のようなものは皆無で、「地下の世界」そのものについてはさほど詳しくないのが残念。

【モグラびと】【ニューヨーク地下生活者たち】【ジェニファー・トス】【集英社】【地下】
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「二階の妖怪王女」 あらいりゅうじ

2007-10-23 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
 さえない陰陽師の父親が死に、天涯孤独の身となった高校生ユキトは、相続した東京近郊の屋敷へと引っ越すが、それは築200年のお化け屋敷だった。幽霊やお化けなど信じないユキトは、遺された資料と自らの知識を使って出現する妖怪を次々に撃退していくが……。

 お化け屋敷に住み込んだ主人公が妖怪王女とその配下の妖怪たちと同居することで巻き起こる騒動なのだけれど、今ひとつ盛り上がれず。これは相性なんだけれど、なんか手堅く置きに来ている感じで物足りない。美少女の妖怪と同居! いきなり屋敷にカポニエール式防塁を構築しちゃうぞ! 封印から解放された悪い妖怪と戦うぞ! ……どこにでも思いっきり突っ走れるポイントはあるのに、なんとなく走りきれず。続刊に期待。

【二階の妖怪王女】【あらいりゅうじ】【妖怪】【王女】【同居】
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「大番長~宿命編」 伊東アキカズ

2007-10-23 | その他SF(スコシフシギとかも)
 うちの近所に「森の石松」という美味しい回転寿司屋があるんだけれど、「寿司屋なのに、どうして『森』なんですか?」という疑問を持つ人がいました。いや、「森の石松」は実在の人物……じゃなくて有名なキャラクターですからね! 清水の次郎長の子分の1人で、旅の途中に次郎長親分を知っている旅人に出会い、自分の正体を隠したまま、なんとか親分の一の子分といえば!?で自分の名前を出してもらおうと「呑みねえ、呑みねえ」「食いねえ、食いねえ、寿司食いねえ」と四苦八苦して接待するエピソードが知られています。だから、寿司屋の看板になるわけで……。
 ってなことを、『大番長』を読んでいて思い出しました。よく似たエピソードが出てくるんです。まあ、それはそれとして、この本はアリスソフトのアダルトゲームの小説化です。『番長学園!!』という、番長が超人的な能力で戦うアクションマンガを再現できる1997年発売のTRPGがあるんだけれど、それをシミュレーション&アドベンチャーゲーム化したような話。面白いゲームですよ。
 でも、この作品ではゾンビとかヴァンパイヤと番長たちが戦うんですけれど、学生がそんなトンデもない敵と戦っても違和感ないですねえ。ぼくらの世代は『男一匹ガキ大将』を読んで育ってますからね。あとがきでも触れていた「番長が大人たちに対抗しようと企業の株を買って、仕手戦に打って出る」というやつ。本当は話はそこからさらに進んで、ペルシャ湾が封鎖されて石油危機に陥った日本を救うために(そして自分たちの勢力を広げるために)番長たちが操るタンカー群が中近東を目指します。もう、名古屋の番長は爆発で四散するし、土佐の番長は機雷原を突破するために子分もろとも自爆するし、妨害してくる敵はチャーター機からの爆撃で粉砕するという展開にもう恐いものなし。

【大番長】【宿命編】【伊東アキカズ】【番長】【日本統一】
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「黄色い花の紅」 アサウラ

2007-10-23 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
 武器所有やヤクザが合法化され、警察の代理としてヤクザ同士が抗争をする時代。組長令嬢の娘・紅花は警護を引き受けた工藤商会の白石奈美恵とともに銃撃戦のまっただ中に放り込まれる……。

 昔のハードボイルド小説って、こんなのばかりだった気がします。シンプルなストーリーに派手な銃撃戦の連続、その合間に銃や車に関するウンチクと濡れ場。あまり数を読んでないけれど、国産ハードボイルドにはそんなイメージがあり、そこから濡れ場を引いて主人公を少女にした感じ。ちょっと疲れる。
 ウンチクに疲れなければ楽しいと思う。

「何が正しいか俺にはわからない。ただ自分で経験して、納得して、信じるものを良いとしているだけだ。絶対はない」
 工藤商会副社長・黒田真玄の言葉。

【黄色い花の紅】【アサウラ】【銃器】【殺し屋】【ボディガード】
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「食卓にビールを」 小林めぐみ

2007-10-23 | その他SF(スコシフシギとかも)
「ねえ、わらしべ長者やりたいんだけど」

 富士見ミステリー文庫というのは今ひとつ理解しがたいレーベルだ。初期のハヤカワSF文庫に『凶戦士コナン』とか『ターザン』が混じっているような……これ、ミステリー?という違和感。悪かないけどね。
 ミステリーで、表紙にはビール缶を手にした少女が描かれていて、『食卓にビールを』というタイトルで、中身がエイリアンとの接近遭遇話の連作短編ってなあ……いやあ、作者が小林めぐみという段階である程度予想はしてましたが……。

 16才の女子高生、実は小説家で物理オタクで新妻な主人公が、学校に行ったり、原稿の締め切りに追われたり、晩ご飯の支度をしながら、宇宙人や異次元人の侵略などと遭遇し、なんとなくスルーして食卓のビールを楽しみに帰宅して夕食時の夫婦の会話のネタにするのだけれど、旦那には相手にしてもらえないという話……って、どうつっこんだらいいんだ!?……とりあえず未成年はビールを飲んではいけません。
 で、いちおうミステリーではあるところがミソなのかも。6巻完結ではあるけれど、続けようと思えばいくらでも続けられる気がするけれど、太陽エネルギーによる光線兵器とか、プレートテクトニクスの要の柱とか、鏡像世界の侵略とか、恐怖の大王とか、鉱石生命体の擬態とか、大ネタを短編でばんばん使い飛ばす剛毅な作品だからなあ。ちょっとつらいかなあ。

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「素晴らしきヒコーキ野郎」 監督:ケン・アナキン

2007-10-23 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
 ケン・アナキン監督の1965年作品『素晴らしきヒコーキ野郎』(Those Magnificent Men in Their Flying Machine)がDVDになり、しかもテレビ放映時の吹き替え版も入っているので万々歳。初見がテレビ放映だと、やっぱりDVDも吹き替えに限ります。

 飛行機が誕生して間もない1910年。飛行機に乗りたい一心の新聞社主の娘は父親を焚きつけ、それがロンドン-パリ間を飛行するという前代未聞のレースとなった。
 まだ飛行機は落ちて当たり前の時代。ドーバー海峡を横断するなど暴挙と信じられていた。それでも各国から選りすぐりのヒコーキ乗りたち、軍人、曲芸師、貴族、発明家たちが、優勝賞金1万ポンドと栄誉を求め、ロンドン目指して続々と集結してくるのだが……。


 この作品で主役ではないはずなのにジャケットになっているのが、テリー・トーマス(Terry Tomas)演じる悪党パーシー卿。エリック・サイクス(Eric Syke)演じる部下コートニーを使って他人の妨害をしたりインチキしまくったあげく、因果応報、最後は情けない結末を迎えるのだ。このコンビが人気があったのか、監督の気に入ったのか、ケン・アナキンは1969年に今度はロードレースをテーマにしたスラップスティック・ムービー『モンテカルロ・ラリー』(Those Daring Young Men in Their Jaunty Jalopies)でも、このコンビを登場させて悪事の限りを尽くさせています。

 この姑息な親玉と不忠な腹心コンビを見ていると彷彿とさせられるのが、ハンナ=バーベラ・アニメのブラック魔王とケンケンのコンビ。
 ロードレースがテーマの『チキチキマシン猛レース』、空軍の特殊部隊が敵の伝書鳩を捕獲しようと奮戦する『スカイキッド・ブラック魔王』の2作でこのコンビは活躍していますが、陰険で小ずるいブラック魔王と主人の言いなりになりながらも足をすくうチャンスを虎視眈々と狙っている忠犬ケンケンはパーシー卿とコートニーそのまんま。どちらも飛行機と自動車がテーマなだけに、どちらかが影響を受けたのかなと思ってました。
 そしたら、『素晴らしきヒコーキ野郎』はブレイク・エドワース監督のアクション・コメディ『グレート・レース』にインスパイアされたという話があるじゃないですか。確かに、こちらにも史上最大の自動車レースを妨害しようとするジャック・レモンのフェイト教授とピーター・フォーク演じる間抜けな助手が登場している。
 結局、どういうことなんでしょうか? とりあえずこれら姑息な悪役と不実な忠臣の登場する作品を並べてみましょう。

『グレートレース"The Great Race"』(1965)
『素晴らしきヒコーキ野郎"Those Magnificent Men in Their Flying Machine"』(1965)
『チキチキマシン猛レース"Wacky Races"』(1968)
『モンテカルロ・ラリー"Those Daring Young Men in Their Jaunty Jalopies"』(1969)
『スカイキッド・ブラック魔王"Dastardly and Muttley in Their Flying Machines"』(1969)

 最後の「Dastardly and Muttley」というのは、日本語版でいうブラック魔王(Dick Dastardly)とケンケン(Muttley)のこと。なんか、みんなひとかたまりですね。
 なんとなく流れが見えてきますね。
 さて、こんな作品もいまやサークルKサンクスで特価1490円。半額以下かよ……。

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