「希望というのは凶暴な獣で、それを抱く者を生きたまま貪り食うのだ」
ユーリ・ミハイロヴィッチ・テリソフの言葉。
軍刑務所に収容されていた海賊ファルコンの後継者ユーリに、地球のスパイ組織が接触してくる。自由と引き替えに海賊組織の壊滅に協力しろというのだが……。
ロワチーの戦争3部作の完結編。世の中の流れとしてはまったく決着がついていませんが、戦争が茶飯事となっている時代に生まれ、その渦中に投じられた3人の少年の成長物語としては完結ということでしょう。面白い話でしたが、これを「ミリタリーSF」と呼ぶのには「ミリタリー」という意味でも「SF」という意味でも抵抗を感じます。別にカリブ海を舞台にした黒髭ティーチと英国海軍と総督府の駆け引きの話でも成立しそうな話ですし、エセ日本観も衝撃的です。そのあたりは、クリス・ボイスのサイバーパンク『キャッチワールド』に登場するサムライや法華教団のような確信犯ならともかく、今どきはなかなかお目にかかれるものではありません。
海賊船には花街(カガイ)エリアがあって<ゲイシャ>がそこを取り仕切っている。ゲイシャはその歌と踊りや話術、セックスや暗殺の技術によって海賊船における対外工作の要となっている……という一歩間違えれば『ロボゲイシャ』になる設定です。それで、いきなり美少年主人公がカマを掘られるところすら始まるゲイシャ訓練って、それゲイシャと違うってば……。
また
『戦いの子』『艦長の子』はそれぞれ独立して読んでも、どういう順番に読んでも構わないのですが、この『海賊の子』に限っては『戦いの子』と『艦長の子』を読んでからでないと成立しない、まさしく完結編。日本の伝統文化に正面から挑戦状を叩きつけた、少年の成長ドラマです。
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