付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「もやしもん(8)」 石川雅之

2009-11-03 | 食・料理
「唯一のゼミ生なうえにミス農大の君が振る旗なんだから、ここで乗っからない大人は大人じゃないヨ」
 武藤葵の企画した地ビール祭を裏から支援していたらしい、樹慶蔵教授の言葉。物語の主役はいつでも少年と少女、大人はただの腰掛けなのだとグレート・ワイズマンも言ってました。

【もやしもん】【石川雅之】【地ビール】
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「海賊の子」 カリン・ロワチー

2009-11-03 | 宇宙海賊・宇宙商人
「希望というのは凶暴な獣で、それを抱く者を生きたまま貪り食うのだ」
 ユーリ・ミハイロヴィッチ・テリソフの言葉。

 軍刑務所に収容されていた海賊ファルコンの後継者ユーリに、地球のスパイ組織が接触してくる。自由と引き替えに海賊組織の壊滅に協力しろというのだが……。

 ロワチーの戦争3部作の完結編。世の中の流れとしてはまったく決着がついていませんが、戦争が茶飯事となっている時代に生まれ、その渦中に投じられた3人の少年の成長物語としては完結ということでしょう。面白い話でしたが、これを「ミリタリーSF」と呼ぶのには「ミリタリー」という意味でも「SF」という意味でも抵抗を感じます。別にカリブ海を舞台にした黒髭ティーチと英国海軍と総督府の駆け引きの話でも成立しそうな話ですし、エセ日本観も衝撃的です。そのあたりは、クリス・ボイスのサイバーパンク『キャッチワールド』に登場するサムライや法華教団のような確信犯ならともかく、今どきはなかなかお目にかかれるものではありません。
 海賊船には花街(カガイ)エリアがあって<ゲイシャ>がそこを取り仕切っている。ゲイシャはその歌と踊りや話術、セックスや暗殺の技術によって海賊船における対外工作の要となっている……という一歩間違えれば『ロボゲイシャ』になる設定です。それで、いきなり美少年主人公がカマを掘られるところすら始まるゲイシャ訓練って、それゲイシャと違うってば……。
 また『戦いの子』『艦長の子』はそれぞれ独立して読んでも、どういう順番に読んでも構わないのですが、この『海賊の子』に限っては『戦いの子』と『艦長の子』を読んでからでないと成立しない、まさしく完結編。日本の伝統文化に正面から挑戦状を叩きつけた、少年の成長ドラマです。

【海賊の子】【カリン・ロワチー】【佐伯経多】【新間大吾】【脱獄】【ゲイシャ】【難民キャンプ】【下克上】
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「発狂した宇宙」 フレドリック・ブラウン

2009-11-03 | 時間SF・次元・平行宇宙
「獲物であるよりは猟師であるほうが、あるいは食うためだけに小説を書いているより積極的に行動するほうが、いい気分であることはまちがいなかった」

 ついに宇宙時代が到来するかと沸き立つ1954年のアメリカでは、「バートン式電位差発生装置」をロケットで月に打ち込み、その静電気発光で地球から月面を観測しようという実験が始まるところまで来ていた。
 ところが打ち上げ実験は失敗。観察会に社長の邸宅に招かれていたSFパルプ雑誌編集長のキース・ウィンストンは爆発に巻き込まれ、気がつくと見知らぬ世界に放り出されていたのだ。
 ちょっと目には今までの世界とは変わらない1954年のアメリカだが、ドルは使えず、濃霧管制が敷かれて夜の街は漆黒に覆い尽くされている。そして宇宙旅行があたりまえになっており、奇怪な月人の旅行者が街を歩いていたのだ。
 そこは凶悪な宇宙人の襲来している世界、自分と同じ自分が別の生活をおくっている世界、そしてただの雑誌編集者が宇宙人のスパイとして狩りたてられてしまう世界……。

 慣れ親しんだ見知らぬ世界で、顔なじみの他人たちの間で逃げまどいながら、雑誌編集者としての経験を活かして起死回生を狙う主人公の逃走劇であり、パルプフィクションを皮肉ったスペースオペラのパロディです。平行世界と歴史改変の入門者としても最適。
 まだテレビもない1949年に書かれた平行世界SFの代表作で今読んでも面白く、オールタイム・ベストに入って当然という、理数系に弱い人にも薦められる「SFらしい」SF。オチのひねり方もいかにもブラウン。このオチがたぶん『超時空世紀オーガス』に影響を与えていると思います。というか、『発狂した宇宙』を読んでいない人には『超時空世紀オーガス』のオチはわかりにくかったんじゃないかと……。

【発狂した宇宙】【フレドリック・ブラウン】【平行世界】【宇宙戦争】【ミシン】【パルプ雑誌】【コイン】【露出度】【濃霧管制と夜行団】
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