付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「ぐらシャチ」 中村恵里加

2009-12-04 | その他SF(スコシフシギとかも)
「理解するために言葉があって、理解したいから言葉を覚えたのに……どうしてわからないことばかり増えていくんだろう?」
 ぐらの言葉。

 秋津島榛奈はある日、犬を散歩に連れて行った海岸で溺れた。巨大な大波に呑み込まれてしまったのだ。
 やっとのことで陸にはい上がった榛奈の前に姿を現したのは、シャチのような巨大な生き物だった。しかも、そいつは英語で話しかけてきた。
「あーゆーおーるらいと?」

 ごうてん、かわいそう……。
 凄い大傑作だと年間ベストに無条件に推せるとまでは言い切れないけれど、読み終わって満足して本を閉じることができました。たとえて言うなら、光瀬龍とか眉村卓の70年代ジュブナイルを現代に持ち込んだようなファーストコンタクト小説。今月の電撃文庫はけっこう実り豊か。
 もっとも、かつてのジュブナイルなら、少年は多少勉強はできなくても勇敢で運動神経が良く、少女は聡明でしっかりものというのが定番だったけれど、この作品の主人公の少女は、うっかり八兵衛やサザエさんが1位2位を争う日本うっかりランキングのベストテン入りは間違いないといううっかりもの。そして、そうでなければこのファーストコンタクトは成立しなかったわけですが、それにしたってもう少しなんとかできなかったのかと思わないでもありません。“頼りになる大人”も出てこなかったしね。昔は、少年少女の冒険の尻ぬぐいをするのは、博士とか先生とか経験を積んだ頼れる大人の仕事だったのに。
 もう1つ気になるのは、結局オカリナとウクレレが物語の進行に何の影響も与えなかったということかな。

【ぐらシャチ】【中村恵里加】【双】【ファーストコンタクト】【光学迷彩】【ボーイ・ミーツ・ガール】【グラシャラボラス】
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「地底の世界ペルシダー」 エドガー・ライス・バローズ

2009-12-03 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
 バローズの代表的シリーズの1つ、地底世界ペルシダーの1作目ですが、当時は創元推理文庫とハヤカワ文庫が競って同時展開していました。
 70年代の名古屋といえば大きな本屋=デパートの書籍コーナーでしたが、そこにはハヤカワ版の『地底世界ペルシダー』と創元版の『地底の世界ペルシダー』が並んでいて、どちらを買えばいいのか、違いがあるのか、そもそも同じ本がどうして2種類出ているのか悩んだものです。
 まあ、イラストの柳柊二(ハヤカワ版)を選ぶか、武部本一郎(創元版)を選ぶのかの踏み絵みたいなものですが、わが家にあるのは後になって手に入れた陳腐な映画版です。残念。

 鉱山主の青年イネスは老技術者ペリーを相棒に、新たに開発した地底試掘機で地球内部の探索に挑む。ところが舵の故障から試掘機は地殻をつらぬいて地球の中心へと暴走!
 やがて2人は、太陽が静止して動かず、無気味な翼竜が空を飛ぶ不思議な世界へと到達する。地球の内部はがらんとした大空洞だったのだ!

 夜が訪れない神秘境ペルシダーで獅子奮迅の活躍をする快男児デヴィッド・イネスの冒険譚。
 ペルシダーというと科学特捜隊の地底戦車のイメージの方が強いですが、それくらい地底冒険の代名詞となった作品ですね。

【地底の世界ペルシダー】【エドガー・ライス・バローズ】【地球空洞説】
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「クロノ×セクス×コンプレックス(1)」  壁井ユカコ

2009-12-03 | 学園小説(不思議や超科学あり)
「あ、よろこんで友人にならせていただきます。ごめんなさい」
 このどう見ても自分を変えそうにないツンキャラの豹変ぶりが好き。

 高校入学というその朝に、三村朔太郎は受験した覚えもない学校の式に出席していた。しかも、その学校は時間を司る魔法使いの養成校で、彼はなぜか入試結果で名門の令嬢オリンピアと同率首位ということになっていて、なおかつ奇妙な路地でぶつかった少女ミムラ・S・オールドマンと肉体が入れ替わっていたのだ。
 少女の身体に少年の心を抱え込むことになった三村は、いつの間にか憂いのある少年っぽい麗人として女子生徒たちの注目の的となり、オリンピアと学年代表の座を賭けて選挙戦に臨むはめに陥ってしまうのだが……。

 いきなり身に覚えのない魔法学校の合格通知が届くという、まるでハリポタのような出出しから始まり、パッとしない少年がある日突然棚ぼた式に凄い才能を発現させて注目の的になるという、読者の願望を充足させる気満々のファンタジー学園物。そんな設定が嫌味にならないのは、主人公がちゃんと考え、判断し、勇気が無いながらも無いなりに頑張ろうとしているからです。
 そういう「天は自ら助くる者を助く」というポイントを押さえていて、現状に困り果てているからこそ、無防備な少女たちの花園に押し込められモテモテになっても許してやろうという気になるもんです。
 しかも、基本はタイム・ファンタジー。時間を操作してなんとかしようとすればするほどドツボにはまっていくのはお約束です。ゆうきまさみの『時をかける学園』じゃないけれど(*)、世の中そんなにうまく行くもんじゃないのです。このあたりのタイムパラドックスの扱いが面白いです。
 ただ、生徒たちの自治組織の名称がホーライ会というだけで胡散臭く思えてしまうのは、蓬莱学園卒業生である読者の宿命です。確かにギリシア神話の時の女神はホーライ(単数形はホーラ)だそうですから間違ってはいないのですが、ホーライ会のお姉様方なんて言われると……。

 ともあれ、いきなり1巻で続いてしまいましたが、追いかける価値のあるシリーズになりそうです。

*『時をかける学園』では時間跳躍者が狙われる理由として「失敗しても何度でもやり直せる」からと説明されていた。

【クロノ×セクス×コンプレックス】【壁井ユカコ】【時間テーマ】【タイムパラドックス】【夏への扉】【時をかける少女】【図書館塔】【綿入れ半纏】【機械式時計】
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「ソロモンの桃」 香山滋

2009-12-02 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
 秘境探検モノを集めていた時期に、「だったら香山滋は基本だろうが!」と手に入れた中短編集。

 「ソロモンの桃」はソロモン王の秘宝を求め中国奥地の死の砂漠ダンガへと向かう動物蒐集人の「私」を主人公にした冒険譚。珍獣パンダが砂漠に棲息していたりするあたりに時代を感じます。この当時は、パンダそのものが正体不明のUMAだったんだなあ……。
 「怪異馬霊教」は陸奥の山村を舞台にした作品で、当時の陸奥を秘境と言ってはいけませんが、金田一耕助でも登場しそうな古い因習の残った世界での物語。
 他に北京原人を巡る怪奇譚「白蛾」、画家と人妻の不倫をテーマにしたミステリ「殺意」、青い蝋燭を巡る幻想譚「蝋燭売り」を収録。ドロドロの人間模様が目立ちます。「怪奇と幻想」あるいは「ミステリー」で何もかもひとくくりにされていた時代です。

【ソロモンの桃】【香山滋】【パンダ】
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「コトノハ遣いは囁かない」 木村航

2009-12-02 | 学園小説(不思議や超科学あり)
「あーあー。本日は消滅なり。本日は消滅なり。死役所からのお知らせです。あなたの一生は抹消されました」
 細木然葉は囁かない。ハンドマイクの拡声器で叫ぶだけ。

 中学卒業の打ち上げで行ったカラオケルームで、突如友人が怪人化して神名結貴(ゆうき)に襲いかかった。人間の欲望や願望に取り憑くナイトメアが実体化したのである。
 魔法使いのような奇妙なコスチュームの然葉(さらば)と幼馴染みの真弥(まや)に助けられた結貴は、学園伝説研究会アウェイカーに入部してナイトメアを狩ることになるのだが……。

 2日続けて、コンプレックスのような負の念によって怪物化する高校生というコンセプトの話を読んでいる気がします。ただ、料理法が違いますから、あまり気にはしないで純粋に物語を愉しめます。
 異形化する高校生に美少女を含む高校生グループが挑むという、学園退魔モノの王道パターンですが、そこは木村航なので魔女装束にメガホンを手にした美少女、才色兼備な有力者の孫娘、気弱な男子高校生といった、ある意味“基本”を抑えつつ、人間の心の弱さや醜さもきっちり描いた上でエンタテイメントに料理しています。無駄な配役もありません。そのあたりは手堅いし、徹頭徹尾、人間の嫌な面、負の心を前面に押し出して話を進め、最後の最後でちらっと希望を持たせて締めてくれるのです。

【コトノハ遣いは囁かない】【木村航】【CH@R】【ナイトメア】【花粉症】【携帯電話】【電子掲示板】【実験場】【付喪神】
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「怪獣総進撃~怪獣小説全集1」 福島正美 他

2009-12-01 | 怪獣小説・怪獣映画
 なにが苦手と言ってホラー・オカルトが苦手で、すっきりと解決していない話がキライで……、となったら最後に登場人物たちがなにがなんだか分からないまま酷い目にあって終わり、しかもその災厄が果てしなく広がることが暗示される話なんて最悪で、そんな話は観たくも読みたくもありません。
 まかり間違って、そんな話を見てしまった日には、延々とうなされてしまいます。東宝映画『マタンゴ』なんてその代表作。ホジスンの「闇の海の声」をベースに制作された怪奇映画であり、映画公開とタイアップして福島正美が短編として執筆し雑誌に掲載したものがこれ。映画のスチールや小松崎茂のイメージラフも掲載されているけれど、とにかく気持ち悪い。小学生時代にテレビ放映されたのをつい最後まで見てしまい、以来「霜柱」や「蟻塚」とか“小さいもの”がびっしり固まっているものが生理的にダメになり……思い出しただけで鳥肌が立つようになってしまったのはこいつのせいです。

 その「マタンゴ」の福島正美による小説版が収録されているのが、この怪獣小説全集。他に日本怪獣映画の原点である『G作品』検討用台本、ゴジラと同じく香山滋による「獣人雪男」を収録したアンソロジー集です。
 「G作品」はまあ「ゴジラ」だし、「獣人雪男」は日本の奥地にはまだまだ秘境があって人間の欲は怪物より恐ろしいという話だし、「マタンゴ」は茸栽培農家へのアンチ・キャンペーンだし、貴重ではあるけれど飛び抜けて面白いということもない気がしますがいかがでしょうか?

【怪獣総進撃】【怪獣小説全集】【香山滋】【福島正美】【竹内博】
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「ゴミ箱から失礼いたします」 岩波零

2009-12-01 | 学園小説(不思議や超科学あり)
『厳正な抽選の結果、あなたは見事、妖怪ゴミ箱男に選ばれました』

 ごく普通の高校生だった小山萌太は、ある日ふとゴミ箱に入ってみたい気がして、誰も見ていないのを確認してちょっと入ってみたらすごく馴染んでしまって、気がついたら何をどうしても抜けられなくなってしまいました。
 そこにふらりとやってきたのは美人のクラスメイトの水無氷柱。彼女はゴミ箱に入ったまま転がっている萌太を見るや「あなたは、妖怪ゴミ箱男よ!」と断言するのでした……。

 ある日突然、残念な妖怪になってしまった高校生たちの物語。
 意表を突いた導入部に「こんな妖怪あるかよ!」と笑ってツッコミながら読み始め、妖怪対決の中盤までは盛り上がったけれど、後半はやや失速。お話的には良い感じでまとまったんだろうけれど、人間関係はぐだぐだだし、生徒会長もぜんぜんスーパーじゃないし、クラスメイトの彩音さんは単なる勘違いキャラのままフェイドアウトするし、妹の紅子は“とりあえず妹を出してみました”的な扱いで終わるし、真意不明の氷柱さんは一周してしまって単なるワガママ勝手なバカキャラに終始してしまうなど風呂敷の畳み方が残念。
 だから、私はこういう周囲の好意にあぐらをかいたキャラがキライなんだ。

【ゴミ箱から失礼いたします】【岩波零】【異識】【ゴミ箱】【説明書】【将棋部】【スーパー生徒会長】【コンプレックス】【現場責任者】【パンドラの箱】【二歩】
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