付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「赤朽葉家の伝説」 桜庭一樹

2009-12-10 | ミステリー・推理小説
「青春がいつ終わるか、わたしわかったヨ。……取り返しのつかない別れがあったときさ」
 レディース<製鉄天使>の頭、赤朽葉毛鞠の言葉。

 この作者は「GOSICK」とかのライトノベル系の作品でしか知らなかったので、いつの間にか吉川英治文学新人賞とか日本推理作家協会賞とかに名前があがるようになっていて、ちょっとびっくり。ちょっとしかびっくりしないのは、もともとライトノベルだろうが文学だろうが9割はクズで、残りの1割はジャンル区分に関係なく面白いと思ってたから。
 最近はライトノベルから一般の文芸やSFにスライドする売り方が増えてきましたね(やっとこさかな)。

 製鉄業で財を築いた鳥取の旧家、赤朽葉家には秘密があった。不思議な千里眼で一族を陰で支えてきた万葉は、かつて「山の民」に置き去りにされた娘だったのだ。
 村の若夫婦に引き取られた少女はやがて赤朽葉家へと輿入れし、製鉄業の隆盛、戦争、高度経済成長、バブル崩壊を乗り切ろうとする中でさまざまな幻視を見る。それは避けようとしても避けることのできない人の生と死。
 その万葉の娘、毛毬は知らぬ者のない伝説の不良少女となり、やがてかつての自分たちを引き写したような不良少女たちの姿を描く少女漫画家となって一世風靡するが、その娘である瞳子は個性の強い祖母と母の陰になり、自分が何者なのか決められないニート。
 この3人の女性を中心にした旧家の盛衰と、そこに隠された1人の死の物語。

 この話については、二代目の毛鞠の生き方が面白かったかな。壮絶。最初ミステリーか伝奇かと思って読み始め、普通の文芸でないかなと思い始め、発行元を確かめ「創元でも最近、ミステリー外に手を出しているからなあ」と思いつつ、読み終えて「もしかしたらミステリーだったのかも」と考え直してググッてみたら日本推理作家協会賞作品。ふうん。テーマは特殊だったけれど、普通に桜庭一樹でしたよ。(2007/09/06)

 この作品中に登場する毛鞠のデビュー作であり遺作となった『あいあん天使!』がノベライズされて『製鉄天使』として刊行されたということで、つい書架から取り出してしまった『赤朽葉家の伝説』を読んでしまったよ。風邪気味なのに、手つかずの新刊が山ほどあるのに……。(2009/12/10)

【赤朽葉家の伝説】【桜庭一樹】【サンガ】【レディース】【製鉄】【現代史】【たたら火】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「パーム 蜘蛛の紋様1」 獣木野生

2009-12-10 | その他フィクション
「人生はしっちゃかめっちゃかな壁掛けみたいだな。神様はとてもまともな織物師じゃない」
 ジャズピアニストのレイフ・オーガスの言葉。

【パーム30】【蜘蛛の紋様】【獣木野生】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「ちんぷんかん」 畠中恵

2009-12-10 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
「人が側からいなくなるのって、なんて寂しいんだろう?」
 同じ主旨の言葉を、昨日2つ読みました。1つは『ちんぷんかん』、もう1つは『PALM』。今までそこにいた人と気軽に別れてそれっきり再会もできないなんて悲しいことです。日本人はそこで「一期一会」という言葉を見つけたわけですが……。

 もともと病弱な若だんなとはいえ、近所で起きた火事の煙を吸っただけで昏倒とはいかがなものか。気がつけば、懐に潜り込んでいた鳴家たちと共に三途の川岸に立っていて……。

 妖怪時代小説「しゃばけ」シリーズの第6弾。やっぱり短編集の方が読んでいてホッとします。長編だと若だんなが話に決着がつく前に死んでしまわないかと気が気じゃありません。
 今回は、虚弱な若だんながついに冥土に行く話、若き日のおっかさんの恋物語、本に閉じこめられる“ゴボウ”の顛末、兄・松之助の縁談話、桜にまつわる出会いと別れの物語など。

【ちんぷんかん】【畠中恵】【式神使い】【賽の河原】【生玉子】【桜】【縁談】【狸】【呪的逃走】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「悪魔の機械」  K・W・ジーター

2009-12-10 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
 「スチームパンク」と呼ばれるジャンルがありまして、万能の動力源として蒸気機関が普及した世界を描くのが特徴とされています。舞台はヴィクトリア調が望ましく、飛行機でも車でもロボットでも水蒸気の力で動かす社会の物語。真空管やバネ歯車でも可……といった感じ。レトロなイメージの古い機械じかけだけで現代でもビックリの機械が動く社会の面白さが醍醐味ですね。
 その名前のもととなったのが、この『悪魔の機械』。あとがきによれば、この本の書評に対して「スチームパンクとでも呼んでくれればいいよ?」とジーターがコメントしたのがスチームパンクの最初なんだとか。

 時計職人ダウアーの父は天才発明家だった。
 ジョージ・ダウアーは不肖の息子だった。はっきり言ってドジでバカである。
 しかし、そんなダウアーのもとに、父親が作ったという得体の知れぬ機械を修理して欲しいという仕事が舞い込むのだが、依頼者もまた得体の知れぬ黒い肌の怪人だった……。

 ヴィクトリア朝イギリスを舞台に繰り広げられる怪事件の顛末は? そして人類の命運は?……という話ですけれど、一般的な定義のスチームパンクじゃないですね。マッド・ヴィクトリアン・ファンタジーではあるけれど、主人公のマヌケさ加減が良い感じで海底人たちがかわいそうです。

【悪魔の機械】【K・W・ジーター】【ハヤカワ文庫FT】【スチームパンク】【海底人】【時計職人】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「キューピング」 堀江蟹子

2009-12-09 | その他フィクション
「ハハハハ、親に免許はいらないからね!!」
 「平和を愛する心やさしい子に育ちますように」と妻が長男の成長を願ったので、夫は次男を兵器を愛する軍事マニアとして育ててしまいました……。

 UMAマニアでオシャレ好きな“兄ちゃん”と軍オタな“ボン”が登場する4コマまんが集。腹黒くて村八分なパパや料理下手なママも頑張ってます。
 『俺は憲兵』も収録。

 「アームズマガジン」の『第二次大戦紳士録』の方も十分に濃かった上に「事実は小説より奇なり」というものでしたが、どちらかというと少女向けのギャグ・コメディ雑誌の連載でミリオタとUMAネタの4コマ漫画が2巻まで出たなんて奇跡みたいなもんです。こういうのって理解の足りない編集者の横やりで一般的=つまらないものになりそうなものですが、「ウンポコ」って懐の深い雑誌だったんだなあ。

【キューピング】【堀江蟹子】【98式臼砲】【KH-11】【CV-61レンジャー】【タトゥー】【モノス】【帝国海軍艦艇写真集】【船越英一郎】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「江戸川乱歩と少年探偵」 編:堀江あき子

2009-12-09 | ミステリー・推理小説
「どうせ大人の雑誌に子どもっぽいものを書いているんだから、少年雑誌に書いたって同じことじゃないか」
 「少年倶楽部」に書くことになった江戸川乱歩ですが、意外にあっさりした割り切り方でした。

 江戸川乱歩が生み出した「怪人二十面相」とそのライバルである「名探偵・明智小五郎と少年探偵団」を軸に、江戸川乱歩の創作の軌跡を雑誌掲載時のイラストと共に辿ったもの。平井憲太郎によるエッセー「祖父・江戸川乱歩の思い出」や略年譜も収録。
 当時の挿絵や少年探偵手帳、すごろく、映画のポスターなどさまざまな図版が盛りだくさんの反面、わたしらの世代には懐かしいポプラ社版のイラストはほとんど登場していないのがちょっと寂しいです。
 しかし、挿絵師によってはまつげパチパチの明智探偵や小林少年がいたりして、とても同一人物と思えなかったりしますが、少女クラブにも掲載されていたりしますからそれも有りなんですね。うーむ。
 ところで、『妖人ゴング』や『魔法人形』に少女探偵の花園マユミが登場しますが、この掲載誌は「少女クラブ」ではなくて「少年」なんですよね。奥が深い……。

【江戸川乱歩と少年探偵】【堀江あき子】【山川惣治】【梁川剛一】【中村猛男】【柳瀬茂】【松野一夫】【石原豪人】【吉田郁也】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「ガンパレード・マーチ 逆襲の刻」 榊涼介

2009-12-09 | 異世界結合・ゲート・ゾーン
「誰ひとりとして逃がさない。命令に従っただけだなんて言わせないから。冗談じゃないわよ……。自分の頭で考えなかった報いを受けるがいいんだ」
 テレビ新東京のレポーター、桜沢レイの怒り。

 カーミラ派との休戦協定は締結された。
 しかしそれを良しとしない軍産複合体と好戦派がクーデターを画策する……。

 さて、日本の国はあいかわらずです。負け戦、あるいは敗北一歩手前の勝利でさえ宣伝工作のために勝利!勝利!大勝利!と情報操作し、それを真に受けた連中がならば行け!行け!と損害を回復させる間もなく次の戦いに駆り立て、それでやっとこさ勝っても大損害を素直に公表できないものだから……(以下繰り返し)
 で、ついに首都動乱です。
 5121小隊も反乱鎮圧に投入されますが、物語の重心は大原首相ら政治家、一般の学生や店のおばちゃん、漁師さんたちに置かれています。正統派の群像劇ですね。後半、意外な人物が活躍することになりますが、それよりも目立ってしまっているのは茜たち士官学校組でした。
 結論をいえば「憲兵は怖い」というところでしょうか。
 4ヶ月連続刊行の第1弾だそうです。そうすると、今年度中はしっかりガンパレで愉しめますね……でも、そのタイミングだと4月あたりにもう少し何かありそうです。まずは、この4ヶ月を愉しみましょうか。

【ガンパレード・マーチ】【逆襲の刻】【東京動乱】【榊涼介】【きむらじゅんこ】【首都戒厳令】【かつ丼】【住宅ローン】【はないちもんめ】【皇居】【憲兵隊】【ペンタ】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「魔法の使徒」 マーセデス・ラッキー

2009-12-08 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「戦には“いい”ところなど何ひとつありはしない。戦闘に“華々しさ”など何もない。戦が意味するものは、おまえやおれの愛する人々が死んでしまう、それもおそらく無意味に死んでしまうだろうというだけだ。生き永らえた者も体が不自由になるだろう。それなのに戦を始めた愚か者どもは城の高みにのんびりとすわって、自分たちが失った資産を取り戻すための策を練るだけだ」
 <星の風>の言葉。でも、そんな難しい言葉で語っても、幼い子供には理解できないでしょう。 

 武門を誇る領主の跡取り息子ながら華奢な美少年として生まれ、剣より歌や書を愛するヴァニエルは当然のことながら父親に疎まれ、都で<使者>を務める叔母サヴィルのもとへと送り出される。
 そこで彼は<使者>訓練生の少年タイレンデルと出会うのだが……。

 ヴァルデマール年代記の他の作品で伝説の<魔法使者>として何度も言及され、時には幽霊として登場しているヴァニエルの生涯を描いた3部作の1冊目です。
 序盤のゆったりした展開に、いったい話がどこまで進むかと思っていると章を追うごとに加速して、最後は一気呵成に最後の戦いと目覚めに向かいます。ヴァルデマール年代記の中にはなかなか読み続けるのに気力が必要なものもあるのですが、これは読むのが楽しかったですね。主人公はひねた美少年だけれど……。

【魔法の使徒】【最後の魔法使者1】【ヴァルデマール年代記】【マーセデス・ラッキー】【BL】【温泉】【イヤボーン】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「人外魔境の秘密」 横田順彌

2009-12-08 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
 明治から昭和初期にかけて「天狗倶楽部」と呼ばれた一団が活躍しておりました。テニスからボート競技までなんでもこなす親睦団体というと、どこぞの大学のナンパなサークルみたいな気がしますが、こちらは硬派も硬派。日本プロ野球誕生の原動力とも言われるくらい特に野球への入れ込みが有名で、『海底軍艦』の著者である冒険小説家の押川春浪を中心に、東京朝日新聞社や「野球害毒論」を唱える新渡戸稲造と厳しく対立したことでも知られています。
 その天狗倶楽部を主人公に、コナン・ドイルの「ロスト・ワールド」の後日談をやろうというのがこの話です。

 ジャングル奥深くに隠された台地の謎を解き明かさんと、押川春浪率いる天狗倶楽部の面々が探検隊を組織し、南米へと向かう。その行く手に現れるのは、ドイツ人の間諜、そしてチャレンジャー教授だった……。

 「天狗倶楽部」シリーズとしては第2弾。前作では火星人とも戦いを繰り広げた天狗倶楽部ですが、今度は今なお太古の恐龍が跋扈する人外魔境に挑むという、痛快無類の冒険活劇。こういう話が成立するのは実際に彼らが行動力を持った硬派……というかバンカラ集団だったからであり、職業や身分の上下関係を超えた交遊によってさまざまなアイデアを実現していったという実績があればこそです。
 
【人外魔境の秘密】【横田順彌】【バロン吉元】【押川春浪】【吉岡信敬】【中村直吉】【テーブルマウンテン】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「地底大陸」 蘭郁次郎

2009-12-07 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
 マイブームだった秘境冒険小説が、「朝日新聞」の朝刊に連載していた『新・地底旅行』の影響か、地底探検に片寄り始めた頃に手に入れたもの。

 鉱物資源を探索にアジア大陸奥地に赴いた日本の大陸探検隊が、高度な科学文明を誇る地底帝国への入り口を発見する。だがそこに隣国R国の息がかかった秘密結社ゲーウー団が潜入し、女指揮官アスリーナが地底帝国の科学技術を奪うが、日本男児は柔道の技と勇気でR国の陰謀から2つの帝国を救う。

 ……という、いかにも戦前の少年向け物語です。
 蘭郁次郎という人は、海野十三と並んで日本の科学小説界を代表する作家だったそうですが、1944年1月に台湾で事故死してしまい、そのまま戦後に再評価されることなく幻の作家となってしまったようです。
 ギミック満載で少年向けとしては面白い小説なので、ちょっと残念な話です。ガガガ文庫の跳訳シリーズあたりで復刊しても良いのにね(まあ、跳訳そのものがどこかに跳ねて行っちゃってる現状ですが……)。

【地底大陸】【蘭郁次郎】【モンゴル】【秘密警察】【インカ帝国】【人間タンク】【音波兵器】【怪力線砲】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「円環のパラダイム」 瀬尾つかさ

2009-12-07 | 時間SF・次元・平行宇宙
「過去を見ても仕方がないんだ。未来を悩んでも仕方がないんだ。そんなのは、今日を精一杯、がんばった後についてくるものだろう」
 だから世界はめちゃくちゃで自分も明日死ぬかも知れないけれど、今日が楽しいという穂坂歩美の言葉。

 地球は無数の断片の寄せ集めになってしまった。
 いつかどこかで何者かの造ったシステムが玖朗たちの地球にまで影響を及ぼし、世界は無数の欠片に分割され、それぞれの欠片を繋ぐのは正体不明のゲートだけとなってしまった。
 しかし、何万年と幾つもの世界を呑み込んできたゲートワールドは、ただの人間が生きのびられる世界ではなかった。そんな幾つもの世界を渡り歩いてきた高校生・赤羽玖朗と紀野国可耶が辿り着いたの<学校>は、共生することで人間に異能を与える円環族と契約することでかろうじて文明を保つことに成功した、高校生を中心としたコミュニティだった。
 そして今、生徒会による生存をかけた戦いが始まる……。

 富士見ファンタジア文庫の『クジラのソラ』が好きで、最近の新刊は何かなあと思っていたら、いつの間にか一迅社文庫で仕事をしていて、慌ててオンライン通販で買い求めた瀬尾つかさの最新作です。一迅社文庫なんて、このあたりの本屋じゃほとんど置いてなく、置いてあってもほんのわずか。オンライン書店がない時代だったら、完全に知らないうちに絶版になってます……。
 今回も当たりです。「面白い本を読んだ!」「SF読んだ!」と素直に満足できる1冊です。ジュブナイルだし、中学高校を舞台に高校生たちが大人を差し置いて活躍する話で、気色悪い怪物も出てくれば、凄まじい怪物も出てくるし、パッチワーク化された世界にはまだまだたくさんの秘密が眠っていて、そんな秘密とつき合っていかなければならない少年少女の恋愛模様を交えたサバイバル小説。長谷川裕一の『轟世剣ダイ・ソード』が好きな人は、これも好きかもしんない。

「経験を積むってのは、なにものにも替えがたい資産なんだ。僕たちは生き延びた。だから、次はもっと上手くやる」
 赤羽玖朗の言葉。

 没になったタイトル案に「生徒会の生存」というのがあったそうです。そりゃ、まずいわなあ。いや他の案もかなりまずいです……。

【円環のパラダイム】【瀬尾つかさ】【一葉モカ】【八岐大蛇】【寄生種】【ゲートワールド】【パッチワーク】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「河童が語る舞台裏おもて」 妹尾河童

2009-12-06 | エッセー・人文・科学
 歴史的には日本最古(つまり世界最古)の回り舞台からダ・ヴィンチのデザインした舞台まで、ジャンル的には舞台背景から小道具に至るまで、舞台美術の裏表について豊富なイラストと写真で紹介していく。

 この人の作品はいつもの図解的なイラストが愉しいのだけれど、今回は添えられた写真に感動してしまいました。深い森、荘厳な宗教絵、波が打ち寄せる海岸と青い空……そんな板や布に書かれただけのようなものが本物のように映っているんですよね。舞台美術ってスゴイや。

「もうこれ以上ヘンな劇場を建てないで下さい」

 演劇に関わる人たち共通の悩みは、使い勝手を考えず、表面的なデザインしか考えてない劇場が多いことなんだとか。楽屋の数が足りないとか舞台から控え室までが狭くて遠いくらいは茶飯事で、オペラハウスなのにボックスが小さくてオーケストラを収容しきれない劇場とか客席を突っ切らないと大道具を搬入できない劇場など、何に使うか考えずに設計した劇場が至る所にあるということのようです。
 こんな情けない話は、ハコモノ行政の日本だけのことかと思ったら、有名なシドニーのオペラハウスも外観優先で舞台やオーケストラボックスや楽屋は狭くて使いづらいんだとか。そりゃあかんわなー。
 でも、作る人間が使うことを考えないものってのはよくあることで、たとえば「本棚をデザインする人間に愛書家はいない」とか言います。電子申告も使い勝手を考えてないし、パソコンやソフトのマニュアルなんてわかりにくさの代名詞。けっこうあるんですよね。自分も気をつけたいと思います。

【河童が語る舞台裏おもて】【妹尾河童】【大道具】【小道具】【長谷川】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「その名は新撰組」 砂田弘

2009-12-05 | 時代・歴史・武侠小説
 近藤勇や土方歳三の幼少の話から始まり、浪士隊の旗揚げ、新撰組の誕生を経て五稜郭の戦いまでを1頁450字そこそこの110頁ちょいで語ってしまうという、小学生向けの入門書。それなりの内容でしかないけれど、新撰組の暗い部分までも一通り語っているので、自分の記憶のおさらいをするにはちょうどいいかもしれません。

【その名は新撰組】【砂田弘】【伊藤勢】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「激戦!蒼橋跳躍点~銀河乞食軍団 黎明篇3」 鷹見一幸

2009-12-05 | ミリタリーSF・未来戦記
「いいことが起きたら、いや、悪いことが起きるかもしれないと考える。悪いことが起きたら、いいほうに転がることを考える。そうやってプラマイゼロに持っていくことを考えていれば、人生、結構うまくいくもんですよ」
 デュマ級軽巡航艦<アトス>の中年オペレーターの言葉

 状況の悪化にともなって撤退命令が出た連邦宇宙軍蒼橋平和維持艦隊に、紅天の全艦隊が襲いかかる。
 辺境星域では有力勢力ながら、もし真正面から連邦宇宙軍と戦うことになればとうてい太刀打ちできない連邦非加盟国が、何故今さら撤退しようという艦隊を襲撃するのか?
 その理由に思い至った平和維持艦隊のキッチナー中将は、あえて6倍の敵に立ち向かうことを決意した。たとえ、それが艦隊を壊滅させることになろうとも……。

 宇宙艦隊戦が繰り広げられる話というと最近ではジャック・キャンベルの『彷徨える艦隊』があげられますが、艦隊戦の迫力という点ではキッチナー艦隊の相対速度で秒速50キロを超える戦いも優るとも劣りません。
 あとがきも何もないのでなんですが、これで完結でも、まだまだ続くでも通用しそうな黎明篇の3巻は「軍隊とはつまるところマンパワーの集合体であり、最後に支えるのは人間なのだ」とばかり全篇艦隊戦が繰り広げられます。同時に、蒼橋の職人集団、取材に訪れて戦闘の渦中に放り込まれた天然女性記者の物語とも絡み合って急転直下の結末へ。
 ただ、いかにも急いで一気に畳みましたという結末なので、爽快感はあるけれど1巻冒頭のプロローグからの輪は閉じません。まだまだ続くと言うことでしょう。そして「冒険」よりも「戦争」テイストの強い話でした。

【激戦!蒼橋跳躍点】【銀河乞食軍団 黎明篇】【鷹見一幸】【野田昌宏】【鷲尾直広】【索敵哨戒】【機雷戦】【ダミー】【バブル経済】【三銃士】【十五少年漂流記】【ドリトル先生航海記】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「インナーネットの香保里」 梶尾真治

2009-12-04 | その他SF(スコシフシギとかも)
 小学生対象の青い鳥文庫ですが、定番の児童文学や名作ばかりと侮ってはいられません。こういうシリーズの定番でもある『怪盗ルパン』や『巌窟王』だって元は立派な大人向けの作品。上橋菜穂子や宮部みゆきの作品が含まれていたって何の不思議もありません。昔、私らあたりは岩崎書店の名作SFシリーズやポプラ社の少年探偵シリーズなんかを読んで育ちましたが、今はこういう新書サイズのジュニア文庫で育っているんでしょうか?
 イラストレイターもかなり今風になっています。もちろん昔ながらのいかにも「児童文学」「童話」「むかし話」的なオーソドックスなものも少なくありませんが、ライトノベル調のものも目立っています。30年前と同じイラストの『だれも知らない小さな国』や『ムーミン谷の彗星』と並んで緒方剛志イラストの『ねらわれた学園』やHACCANイラストの『赤毛のアン』が並んでいるのはある意味壮観です。
 調べてみると、CLAMPとか藤田香とかにしけいことか見覚えのあるイラストが並んでいます。眉村卓の作品はどれも緒方剛志の絵になってますね。定番を大事にしながら新風もしっかり入れているといったところでしょうか。

「生きていれば、どんな奇跡だって起こりうるからね」
 インナーネット開発の深水の言葉。

 家出少女が出会った青年は、逃亡中の超能力者だった。家出少女と青年は追っ手を振り切りながら九州を目ざした……。

 梶尾真治です。鶴田謙二のイラストです。迷わず買うしかありません!と新刊で即行購入したくせに、いつの間にか子供の本棚に紛れ込んで5年間放置とは情けない……。

【インナーネットの香保里】【梶尾真治】【鶴田謙二】【青い鳥文庫】【山童】【白鳥山】【森の少女】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする