かねやんの亜細亜探訪

さすらうサラリーマンが、亜細亜のこと、ロックのこと、その他いろいろ書いてみたいと思ってますが、どうなることやら。

唐招提寺への道

2022年11月08日 | Nara ( Japan )


本書は、上野誠さんの番組を見ていて、その存在を知り、即ゲット。
初版が1975年で、ゲットしたのは39刷。
名著だった。

著者の東山魁夷さんは、日本画壇を代表する画家で、蒼い森をバックにした白馬のデザインで有名。
唐招提寺の障壁画を描いたことでも知られており、あまり奈良を知らない頃に、鑑真和上像の特別展に行った時に初めてその絵を見て感動した記憶がある。
本書は、東山魁夷さんの半生と、唐招提寺の障壁画を描くことになってからの制作過程を描いているが、まずは、その文体のしっかりしていることにびっくり。
単なる絵描きではなく、物書きとしても、文化人としても、超一流であったことがわかる。
本書が、ロングセラーになったこともうなずける。

一番凄いと感じるのは、日本文化、特に、奈良や、日本の自然に対する洞察力。
私みたいに表面的でなく、心眼で見ておられることがわかる。
海外にも欧州中心に多く訪れ、日本のすばらしさを、さらに、認識されたそうだ。
特に奈良については、私も相当回っている方だが、それ以上に、隅々まで、様々な季節に訪れて、的確な感想を述べられている。
その縁もあって、唐招提寺の障壁画を描くことになった訳だが。

その大事業を引き受けてからの話がまた凄い。
お堂の全体の構造を踏まえた、絵の題材の検討から始まる。
そして、鑑真和上の生涯に深く関係する海、山を主テーマに決め、その題材を求めて、日本各地の海山を自ら訪れる。
そこまでするかという徹底ぶりだ。
行く先々で、さまざまな出会いがある。
波一つとっても、滝一つとっても、同じ物はない。
そして、理想の姿を探し求め、各地を回り、スケッチを続ける。
写真でも良さそうなものだが、実際描いてみないと、本当にいい題材なのか、判断しきれないのだろう。

構想をまとめて、本事業の依頼者の森本長老とすり合わせをして、全体配置を決めてから、小下図、中下図と、段々実物大に近づけていく。
一見遠回りのようだが、いきなり実物大で、描こうとすると、いろいろ迷って、先に進めなくなるそうだ。

昭和50年までが、第1次事業だったそうで、そこで、本書も終わる。
その後も、この事業は続き、完成したことを、我々は知っているし、その成果を、展覧会等で直に見ることができる(普段は、作品保護のため、公開されていない)。

平山郁夫さんの、薬師寺の障壁画も同じような経緯で描かれたと理解するが、その最後の一筆を、20世紀最後の瞬間にNHKの生放送で見たことを思い出す。
当時は、たまたま見ただけだったのだが、平山さんにとって、そして、日本国民にとって、重要な一筆であった。

奈良に興味のある方は、是非一読を。
本書片手に奈良を回るのも一考。
コメント
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