CLASS3103 三十三組

しがない個人ホームページ管理人の日記です。

【読書】死んでから俺にはいろんなことがあった

2024-08-12 21:14:22 | 読書感想文とか読み物レビウー
死んでから俺にはいろんなことがあった  作:リカルド・アドルフォ

大の大人が迷子になる話し、
で、間違いないわけだが、家に帰る帰れないというのが比喩というか、
故郷(くに)に帰れないという意味でもあるような、
そういう境遇と、どうしようもない運命というのを描いた作品と
かっこよく解釈できそうでもあるんだが、
やっぱり、ただ、迷子になって、路頭に迷っていた家族の話しだよなと
改めて思うのであった、崇高ではないとした方が価値があるというか
教訓めいたものなんてくそくらえだと、そんなメンタルで読むべきもののように思う

「くに」と呼ぶところから、亡命のようにして「島」へやってきた、
移民親子のお話なのだけども、主人公はその逃げている父親で、
これがまた、やることなすこと酷いことにしかならない男で、
のっけから、そのやらかしが始まって、気づいたら家に帰れなくなるという
そんなことあるかなという展開で驚く
これがまた、ろくでもないというか、本当にツいてもいないし、
何より、浅慮甚だしいので、おおよそ悪い結果しか招かないことばっかりやって、
どんどんと路頭に迷っていく物語で、
ただただ読んでいると、なんか、イライラしてくるというか、
哀れであるんだが、憐れむ気持ちにはならないし、
なんならむかつくといった感じだけど、最終的には憎めないというか、
もう、どうと考えたらいいかわからない感情を抱いてしまう

なんだかんだ、かっこいい場面があったりなかったりしながら、
ただ、根っこのところはいい奴と言っていいのか、
妻と子供のことは本当に愛していて、そのために、なんとかしようと空回りしてという
笑えそうで、笑えない哀れをはらんでいるわけだけども、
最終的には、凄いたくましいので、心配して損というわけでもないが、
もう好きなように生きていけお前わ!と送り出したい気分になって終わったのである

酷い目というか、なかなか困難に見舞われているんだが
その原因が間違いなく、本人にあるので、仕方ないともとれつつ、
でも、ものすごく大きな目で見ると、移民というものの哀れというか
異邦の民という生き方の辛さみたいなのが見てとれるようでもあって
趣深く読んだのでありました

まぁ、楽しいと手放しで喜ぶタイプの小説ではなかった

【読書】台湾漫遊鉄道のふたり

2024-08-10 21:05:28 | 読書感想文とか読み物レビウー
台湾漫遊鉄道のふたり  作:楊双子

発売された台湾で、売り方、作り方でも話題となった作品だったそうで
読み終えて、種明かしを見るまで、そうなのか?なんて騙されてしまったんだが
非常に楽しく読めたのでありました
公式からして、グルメ、鉄道、百合とうたって、百合ってそんなメジャーな単語になったのかと
いわゆる、女性同士仲が良いことのたとえで、ヲタクがよく使うそれだと思ってたんだが
まぁ、その割にはずいぶんとライトな感じで、女学生の友情でもない、
恋情があったかというと、そこまででもなかったような
そういう関係を描いていて、まぁ、そこらはさておき、面白い小説でありました

二次大戦前の統治時代における台湾のお話で、
台湾本島へやってきた、日本本土の女流作家が、現地で通訳をかってくれた女子と
鉄道旅をぐるぐる続けるといった物語、
途中、様々な土地の食べ物の紹介があって、それをかたっぱしから食べていくんだが
実際、そんなに食えないだろうと思ってしまうが、
まぁ、そこは物語と割り切って、とめどなく、美味しい美味しいと食べる姿が
実によいなと、実際食べてみたくなるものばかりで楽しかった

料理名などの単語も、基本的には台湾語発音で読み仮名が表記されているので
最近流行のあれこれとは異なるわけだけども、いずれも今もって
各地で作られている伝統的なそれこれ、いや、もっと通俗的に
ただ食べられている日常の食べ物というのがよいところで
独特の味や風味を面白味として満喫していく姿が実によいと思うのである

物語は、そうしながら、女流作家が、なかなかこころをひらいてくれない通訳女子に
あれやこれやと気をもむという話しでもあるんだが、
種明かしでもない、真実の部分については、そういうのはおいといて
世間一般に、今も様々なところで持ち上がりそうな問題にもならない問題、
無意識の差別とでもいうような、厳然とした格差とそこを超えるということで、
日本人として平等をうたうのに、うたう本人が気づけばその人を貶めていたのではないか
そういう気づきを得て終わるというのがすごくよいところで
切ない物語ではあるものの真実とはこういうところにあるなと
感心してしまうのでありました

百合とされていたけども、その淡い恋情めいたものが
はたしてあったのか、それは誤解であったのではと思うような
上述の話しもあったりするので、和気あいあいと女の子がごはん食べて楽しいと
そういう物語になっていないのがよいところと思うのでありました

最近問題になっているというか、どうも誤解してしまいがちな
台湾は仲良しという日本からの一方的な思い込みが
この関係に詰まっているようにも読めて、
襟を正す想いを抱くのであった

【読書】八秒で跳べ

2024-08-07 20:50:52 | 読書感想文とか読み物レビウー
八秒で跳べ  作:坪田侑也

バレーボールを扱った青春部活小説でした
読み終わって、いかにも、思春期というか青春の時期にありそうな
浮き沈み、心の動きを描いた小説で、
ああそういうことが、あったような、なかったけどあるようなと
気持ちよく青春疑似体験できるのが素敵で
バレーボールなんてやったこともないくらいだけど、なんとなし、
男子学生が部活で、怪我で離脱してという不安と呼ぶのかわからない
自身がどうなのかわからなくなる状態というのを体験して、
その戸惑いの内に、同じような境遇の仲間が見つかったり、
あるいは、今までの友人とも異なる面から繋がるようになったりと
本当、よくある青春の一ページが、それこそ何ページもでてくるといった感じで
大変よかったのでありました

バレーボールに対する疑念ではないけども、
主人公が自分の立ち位置、生き方に疑問を持つというきっかけになっている、
でも、それはきっと、怪我というものによって表面化させられただけで
前からそうだったとは、本人は決して気づかないのだけども、
その中で、はっきりと自分を見つけ出していく、あるいはそう見えるように
成長のようなそれまでとの違いが生まれる瞬間が切り取られていて
凄くよかった、象徴的である、バレーボールにおける八秒というものが、
そのきっかけを与えるものになってるのも
なんというか、とてもかっこよくてステキだ

一方で、恋仲とはまた異なる感情を抱く、自身の夢に押しつぶされそうになっていた漫画家志望の女の子と、
その創作に行き詰ったところのやりとりだとか、そういう、異なるものとのふれあいもまた
自身の何かを埋めていくような、新たな部分を見出すような感じになっていて
まぁ、青春時期は全部が全部、そういう風になるもんだよなと
まばゆくてしかたないと思いつつ見るのだが、
どれも、まっすぐで、純粋な悩みであり、揺らぎであり、
そしてそれが不安というものだと改めて思い出すような
実によい青春小説を読んだと、しみじみかみしめたのでありました
気持ちがいい物語だった

【読書】DV8 台北プライベートアイ2

2024-08-05 21:06:48 | 読書感想文とか読み物レビウー
DV8 台北プライベートアイ2  著:紀蔚然

1が、ちょっと前だと思ってたら、10年越しの2にあたるのだそうで
そんな前のものだったのかと衝撃を受けつつ、楽しみにして読んだ
1990年前後くらいの台湾、台北を舞台にした物語なんだが、
その頃の風俗というか、暮らし、治安、様々なものが見えて
とても面白い小説でありました

諸々あって、淡水に移り住んだというところから始まり、
また、怪しげな私立探偵として、のらりくらりの仕事をこなしていくのだが、
今回も、依頼としては一つなんだが、解決したのは、2つ、あるいは3つといったところで
割と長いけど、それぞれ面白いお話でありました
それぞれとか書いてしまうが、実際は連続事件みたいなものなので、
1つであるのだけども、解決までの道筋が、すんなりしているけど
答えの方が複雑で時間がかかるというのが
珍しいというか、面白い内容だなと思うのであった

舞台として、現在の新北市にあたる、三重(サンチョン)が舞台になってて
まぁ前の話しでも、そのあたりからバイクでやってくるやつは
だいたい悪い奴(不良)しかいないみたいな扱いだったので、
あんまり変わらない気がせんでもないが、
現在の三重あたりからは想像もつかないような田舎、畑なんかもいっぱいあって、
やくざ者がごろごろしてて、治安最悪というのは興味深いところ
そこにちょうど開発が始まるくらいというので、
まさに今の台湾に繋がってくる話しだなと、近代史ものとしても面白いと感じるところ

とはいえ、史実を扱うわけではなくて、
その頃に誘拐が流行っていたという、台湾の犯罪史的なものが興味深く、
実際そうだったんだろう様々な事件、その中の架空の一つとして
今回の依頼の発端があったりして、心理学的なアプローチとかも織り交ぜて、
過去と現在の、様々な点がつながっていくというのが面白かった

最終的に、ある種の運命論のような話しにまとまっていくのも
時代と地域性といったものを感じられて面白く、
そういうものかという、合点がいったのでありました

サポートしてくれる仲間たちというのが
これまたなかなか楽しくて、別に、アクションが派手に起こるわけではないので、
地道に情報を集めてくれるという様々な人たちが、
まさにその人間だからこそという特技というか、行動によって
色々な事実を集めてくるというのが面白い
武侠っぽさとは違うんだが、人の縁による解決というのが根っこにあって
とても楽しく読めるのであった
前回みたいに、もうちょっと民間信仰とかが溶け込んでる姿とか
多分この当時はもっと濃かったんじゃないかなと思うので、
そういうところが見たいようにも思うのであるが、これは私が外国人だから願うことなんだろうか
でも、18×2の時も、出社前にお参りしていく話しとか突っ込んでたしありそうなんだけどなぁ

また、続きが執筆されているとのことで
是非読みたいと思うばかりだが、
はたして刊行がいつになるやら、ともあれ、楽しく読んだとメモっておく

【読書】なぜ皆が同じ間違いをおかすのか 「集団の思い込み」を打ち砕く技術

2024-08-03 20:55:06 | 読書感想文とか読み物レビウー
なぜ皆が同じ間違いをおかすのか 「集団の思い込み」を打ち砕く技術  著:トッド・ローズ  

いわゆる集団心理や、同調圧力といったものについて語った本でした
序盤で、どういう種類の「思い込み」が存在するかという話しがあり、
それを打破したという事例をいくつか並べて、
最終的には、そういったものがあふれているので、
勇気をもって、自分が正しいと思うことを信じようと
まぁそういう話しで終わったと思うのだが、
確かにその通りと思うと同時に、これを悪用することが
最近増えてるんだろうなと思わされるばかりでありました

なんとなく、早合点というわけでもないが、
SNSによる弊害の一つに数えてしまいそうな、
なんとなくそういう雰囲気というやつなわけだけども、
SNSに限らず、昔からそういった迷信めいたものはあり、
また、古くなって今となっては役に立たない規約だけが、形骸化して残り続けるということも
この範疇にはいるわけで、そう考えれば、
世の中そういうことがいっぱいだよなとも思うのである
これの難しいところは、それが、形骸化したものなのか、
実際は未だ正しく機能していることなのかがわからないというあたりで、
この本の通りに、あれこれを打破してしまうと、
割と、倫理とでもいうような、暗黙のルールによって保たれていた治安なり、空気なりが、
文字通り破綻して、悪化というか、化けの皮がはがれてしまうといった感じに
なりかねないという恐怖も覚えるのでありました

とはいえ、これを悪用して、信じさせよう
あるいは信じてしまうというカルト化みたいなことも常態化しているので、
基本的には打破することありきで考えた方がいいのか、
でも、そんなことばっかりだと、話し合いや協調といったものが存在しなくなる
それらの有益なものと、害悪による思い込みの区別がつかないまま
すべて駆逐されるという酷いありさまが浮かんでしまうのだけども
そこへは言及がなく、なんとも、もやっとしたのでありました

そういう難しい思想的な話しはさておいて、
すっかりできないと思ってしまっていた、そういう空気を解消するというのは大切で、
盲目的に何かを当たり前に受け入れるということに
ワンクッションおく、そういう人がいるという事実をもう一度見るというのは
とても大切なことだなと思わされたのでありまして、
なかなかためになる本だったとメモっておくのである

【読書】定食屋「雑」

2024-07-31 21:05:31 | 読書感想文とか読み物レビウー
定食屋「雑」  作:原田ひ香

大仰ではない、女性が生きていくうえで自立をする話し
と読んだけども、どうだろうか

旦那が家に帰ってこず、居酒屋で美味しくもないものを食べている、
そういう現実に、美味しい物を正しく食べないとと、やや押しつけがましい妻が、
想いではなく、生き方を新たにしていくというお話で、
キャラがうまいというか、こういう人、いっぱいいそうだなという
ほどよいわがままさというか、自分正義の強さみたいなのが
実にリアルで、そこで折り合いが合わないという、心の狭い男もまたと
思わなくもないのだが、その陰に女があったりするという
これまた、しょーもない感じも含めて、今そこにある問題っぽくて
とてもよかった

結局はそういう夫婦間のそれこれというよりも、
居酒屋「雑」の女主人との関係、そこで得るもの見るものというのが重要で
不思議な縁もあわさって、人生そのものが大きく変化していくというのが
ドラマチックというには、ノー天気すぎる感じだけども
コロナのこともあいまって、色々と変化せざるをえない、
受け入れていくといった感じが、それぞれのキャラクタがうまく補完しあっているようになって
難着地したというのが面白かったと思うのである
基本的に、なんだかんだ、前を向く内容で終わるというのがとてもいい

ちょっと、一人称が入れ替わりすぎて
一瞬わけわからなくなったりとしたんだが、それはそれとして、
出てくるキャラクタそれぞれの心情が、言葉ややりとりに出てこず
内面での言葉として出てくるのが、小説的でいいなと
こういうことあるなーと思いつつ読んだのでありました

生きていくのは簡単ではないという話しでもないのだけど、
割とうまくいっているように見える、今はそれで充分という
そこで生きていくという姿が見える小説で
非常によかったとメモっておく

【読書】イタリア女子が沼ったジワる日本語

2024-07-29 21:05:29 | 読書感想文とか読み物レビウー
イタリア女子が沼ったジワる日本語  著:テシ・リッゾーリ

翻訳じゃなくて、自身で書かれているというのが凄い、
完璧な現代日本語使いが見事で、読んでいて感心してしまった
こういう偉そうな物言いで読むのはどうだと、自分でも思うのだが、
言葉の研究をしているということが、
こういうところに発揮されてんじゃないかと思いつつ、
表現のそれこれよりも、言葉選びと、文章の流れの見事さ、
日本語のナチュラルっぽいそれに驚いたのであった

内容としては、自身の半生を語りつつ
日本を、日本語を好きになったという話しをつらつらと書いていて
とりとめのない内容でもあるんだが、旅日記めいた内容としても面白く読めた

やはり良いのは、言語的に不思議という指摘の部分で、
日本語特有の表現やオノマトペへの感激だったり、
推察と研究がさらりと挿し込まれているのがすごく面白かった
「おなら」に関する話しが実に興味深く、
聞いた瞬間に、「なんらかの【なら】なる単語に、丁寧の【お】をつけているな」と、
すぐに気づいていたらしいというのが衝撃的で、
日本人として、そんな由来考えたことも、気づきもしなかったので面白かった
結局調べてみれば「鳴る」の変形であるというところまでたどり着いたらしく
まあ、それが本当かどうかというのはよくわからんところだが、
言語に対する敏感さといったらいいのか、敏い感じがすごく読んでいて面白かったのである

言語から文化、人との付き合い方への波及というか、
色々と考えさせられるところもあるようで、言葉による距離の詰め方とか、
間合いを図るものなんかの指摘が興味深く、
マッチングアプリで出会った人から受け取る「愛している」という単語については、
民族、言語もさることながら、男女差も様々教慮すると
興味深すぎて考え込んでしまった

そのほか、省略がやたら多いところやら、多言語が入り乱れているところなど
学ぶ上では障害になりそうなことが多い言語であるというのが
日本語の面白さでもあるなと思い知らされたのであった
話者である自分ですら、時代に取り残されるとこの言語を使えなくなるんじゃないかと
現代日本語を操る著者に敬意を覚えるばかりであった

【読書】マネーモンスター

2024-07-24 21:02:56 | 読書感想文とか読み物レビウー
マネーモンスター  作:黒木亮

空売り屋シリーズとのことだが、そんなに既刊あったかしらと思いつつ
前読んだときは、どっちもどっちの集団の話しだなと感じた覚えだけあったのだけども
今回は、空売りの矜持といっていいのか、潰れてもいい会社を狙って空売りを仕掛けると
そういうお話になっていて、3本のマネーゲームが短編連作となっていました

どっかで聞いたことあるような話しやら、ないような話しやらといった感じながら
実際に、こんな感じの会社がいっぱいあったりするのかと思いつつ読む、
シャープを模したそれの話しは、読んでいて悲しい気分になってしまったのだが、
そのあとのEVに乗っかって、嘘八百でのし上がっていたアメリカ起業の話しについては
こんな感じの事件が実際あったんだろうかと、
あったとしたらとんでもねぇなと背筋が凍るような気持ちになって読んだのである
さらに、日本の地方銀行の話しとかも、なんか似たようなことがあったようななかったようなと
感じつつも、その内実のひどさというのが、なんとも読んでいて気が滅入るレベルで
なかなかどうして楽しいと言い難いが、面白い小説でありました

実際はもうちょっとわかりづらいものだろうと思うのだが、
空売り屋のレポートというのは実に興味深いので
ちょっと読んでみたいもんだと思わされたりしたのである
こういう仕手とは異なる一種の投機を呼び込む投資戦略というのは
実際あるのかどうか、世直しはさておいて、こういう値動きで儲けるというのは
実際ありそうだなと興味深く読むのでありました
とはいえ、虚業といってしまったら、元も子もないのだが
物語上ちゃんとやっている人たちが少しは救われるような気分になれるという感じが
よいようにも思うのだけど、結局そのどさくさで大儲けしている空売り屋というのは
やっぱり好きになれない業だなと思わされるばかりでありました

しかし、ひところ流行ったEB債というものの仕組みが、
ここにきて初めてわかったというか、
ここに書かれていた通り、ブレイクして大損こいた身分としては
ああ、そういうことだったのかと、プットオプション売りの意味を初めて知って
なかなか衝撃的というか、お金かかってんだから
ちゃんと勉強しようよ自分と反省ばかりつのったのである
本当、ちょろちょろ儲かっているような気分で、最後にやられるというのが
まさに書かれていた通りの動きをした自分を顧みる一冊となった

【読書】存在のすべてを

2024-07-22 21:03:42 | 読書感想文とか読み物レビウー
存在のすべてを  作:塩田武士

新聞記者が昔の未解決事件を追いかける
そういうスタンダードな小説なんだが、そのど真ん中を進む内容で
期待通り、期待以上、とてもとても楽しい読書になった

ある誘拐事件が起きたという冒頭から、
やがて月日が経ち、その事件に関わった刑事の死をきっかけに、
かつてを思い出して、ロートルとなっていた新聞記者が、地当たりで真実に近づくという
お決まりなんだが、とても楽しい、頼もしい内容で、
少しずつ真実に近づいているような、空振りのようなといったところを
ふらふらしつつも、着実に進んでいると思わせる筆致が見事で
次々と読みたくなるお話でありました

事件の真相部分が不思議というか、謎に包まれているのがポイントで
少しずつ関係者があぶりだされてきて、それが細く細く繋がっていき、
ちょっとしたきっかけで、途切れたかと思った真相の糸を紡いでいくのが
まぁ本当、ただただ楽しいと思えるのでありました
謎を解く、謎に迫るということの面白さといったらいいか、
そういうことに挑んでいて、前に進んでいるという物語そのものが
とても楽しいと思えて仕方ないのは
俺がそういうのを求めているからか、あるいは、人間そういう成功につながるものというのが
単純に好きなのかわからんのだけども、連綿とつづく追跡の日々がよいのである

やがて真相がとなってくると、そこからはまた、
人情話しとしても秀逸な感じで、事件の是非はおいといて
人情として、それはわからんでもない、さらにいうなら、情緒判決で不問にしたいとか
そう思えるような事件背景があらわになってくるのもまたよろしく
事件そのものと、そこに巻き込まれたといってもいい、背景の様々が、
明らかに悪いとされてしまうことをしているが、
そうとも言い切れないような事情がというせめぎあいもあって
最後まで、読む手が止められないようなよい小説でありました

最後がまた、救いと切なさがごたまぜになって
余韻も素晴らしく、月日が積み上げたものが、写実主義の絵のそれと同義なのかと
錯覚してしまいそうな、ある種の美しさを描いていると感動して読み終えたのでありました

【読書】昨夜の記憶がありません アルコール依存症だった、わたしの再起の物語

2024-07-20 21:05:05 | 読書感想文とか読み物レビウー
昨夜の記憶がありません アルコール依存症だった、わたしの再起の物語  著:サラ・ヘポラ  

タイトルの通りなんだが、もっと実用書的な感じで笑えるものを期待してたんだが、
実際に過酷な状況に陥っていた実録で、ドキュメンタリというよりは
私小説といった感じの内容で面食らってしまった
酒におぼれている姿については、なんというか、擁護のしようがないくらいダメになっているところを
赤裸々に語っているし、そこから再起というか、
お酒辞めるということを何度も繰り返してはだめになっているというのが
ブラックコメディのようでもあるけど、多分そうではなくて、
本当につらいというか、恐ろしいことだなとまじまじ
読んでしまったのであった

そもそもアルコールを美味いと思ったのが、6歳とかそんなところかららしく
生粋のアルコール好き、これはもう、依存症というレベルを超えてしまっていないか
いや、こういうのを依存症というのか、とあっけにとられるほどなんだけども、
深刻なのが、飲むのはいいとしても、そのあとブラックアウトするまで飲み続けて
そういうことがすごく何度も繰り返されていて
その度に、知らない男と寝たり、危険な状況に陥ったり(主に怪我とかなんだが)、
命の危険が迫ることが多々あって、
また、アルコールがないと、他人とうまく付き合えないやら、
仕事がうまくいかないやらが、ごたまぜになって、
アルコールを正当化しているのか、本当にそうなのか、
もうそのあたりも滅茶苦茶になってしまっているというのが
可哀そうでもあるが、ひどい状況の人だという姿でもあって
恐怖するのでありました

最終的にはタイトルの通り、克服するわけだが、
その過程が、なんか、何度も「もうやめる」といってやめられなかったのと
全く同じテンションで、「今度こそやめる」といって、本当にやめた
まぁ、やめて、半年、1年というその間の苦しさも書かれているんだが
結局何がきっかけだったかというと、仲の良かった友達との関係というのが大きいように思えたのだが
この人の場合は、メンタル案件だったということなんだろうかとも思ったり
その反動で、マッチングをやりだしてみたりとか、なんか、よくわからん
このあたりから、割と普通に酒が抜けてるだけじゃないかみたいな感じで
盛り上がりどころというのがなかったわけだけど
それがリアルなのか、どうなのか
この人の職業が、ライターということもあわさって、
特殊なような気もしてしまうし、そこと酒の失敗はリンクしてそうでしてなそうでと、
なんか、どうもちらかってるという印象で読み終えたのでありました

とりあえず、酒抜けてよかったという話しなのは確かなんだが
この感じだと、その内また、飲んでしまったりとかありそうだなと思うのだけども
何年か経った様子だし、ようやく、酒を眺めつつ人間の在り方というのに気づいたと
そういう心持になっているようなので大丈夫なのか
アル中の話しではあるのだが、医療医学的なものではなく、
体験記にとどまっているとしていいのか、まぁ、そういう読み物だったと
書いておくのでありました
ちょっとだけ、女性の地位との関係もほのめかしていたけど
そういう点もあろうかと思うが、また違うようにも思う
どうも、中途半端だなと書いてしまう

【読書】生きのびるための事務

2024-07-17 21:06:07 | 読書感想文とか読み物レビウー
生きのびるための事務  著:坂口恭平

実用書めいたエッセーっぽい漫画
生きていくために「事務」が必要だというお話を
かなりわかりやすく書いていて、そうか「事務」ってそういうことだったかと
改めて気づきを得ることができたよい本でありました

生きていくうえで、色々やらないといけないこと、
主に、スケジュール管理とお金の管理というのが発生するのだが、
それらをうまくこなしていく術が「事務」であるというお話で、
いわれてみればごもっともであり、会社でやっている仕事も
根幹はここにあるよなと、なるほど納得して読んだのでありました

手続き論というでもないが、色々なことを細かく決めて、
その方針に従って、特に考える間もなくやっていく
その通りにしていくということが大切だというのは
とてもわかりやすく、それを、事務という行為によって手助けする、
あるいは、調整しているというのがキモというわけで
非常によいことが書いてあるなと思ったりしたのであった
まぁ、そう思うということは、つまり、人生設計ができていないという話しなわけだが
それはおいておこう

どのような天才も、その天才を発揮するために事務が必要だった
その事務ということを分業化したり、ワークとして認識すると
会社というものになっていくというのが新鮮に思えて、
会社という存在って、意外とちゃんとしてるもんだなと
改めて思い知るばかりであったとさ
自分で開業とか、考えたこともないから、会社がどう立ち上がってきて
そもそも、それぞれの仕事がどういう意味に成り立っているかとか
考えることもなかったと、眼が啓く感じさえあった

いわゆる、働き方のハウツー本のようでもあるんだが、
それのさらに以前というか、根元的なところから触れていくので
結果として、よくある指南本と一緒のことが書いてあるようにも思うのだが
説得力というか、納得感が得られるよい本になってて
大したもんだと、しみじみ読んだのでありました
漫画だけど、時間がかかるというか、内容がちゃんとしていると
そういうことなのだろうと思っておくのである

【読書】板上に咲く

2024-07-15 20:57:58 | 読書感想文とか読み物レビウー
板上に咲く  作:原田マハ

リーチ先生に続いて、民藝の方面のお話
世界のムナカタこと、棟方志功と、その妻のお話でありました
例によってといったら失礼かもしれないが、事実と空想がごたまぜになっているはずなので、
どこが本当で、どこが創作なのか、さっぱりわからんまま読んだけど
凄くいい話しで、しかも、民藝とこれほど繋がりがあるとわと
感激したのでありました

個人的な興味としては、棟方先生のところへ、
私が敬愛する加藤卓男氏が訪れたことがあったはずなので、
そんな話しでも出てこないかなと淡く期待したんだが
まぁ、氏の作品に影響を与えたよりも、与えられた方が多かった話しのはずなので
出てくるはずもなく、ちょっぴり寂しかったのであるが
そんなものは余談である、もっとも、柳先生などとの出会いが
描かれなかった様々な人たちとの出会いを導いていたのだろうし、
そういう話しをすべて、柳先生たちとのあれこれに集約したともとれるので
棟方という人の芸術家、美術家としての歴史は
とても細やかに書かれていたのではなかろうかと、楽しんだのでありました

眼が悪かったという話しは、正直知らなかったので
なるほどと感心したわけだけども、それがあってこその、
あの版画のそれこれが出来上がったかと思えば、芸術というのは何が要素となるか
まるでわからんものだなと、改めて思い知らされるばかり、
ようは情熱が、内にある芸術がどれほどかというのが、
すべてを決めているのかもしれないなんて思わされるくらいでありました
その情熱の加減が、物語としてほどよく苦難と成功に彩られていて
本当はもっと悲惨であったり、成功も苦かったりといったことがあったろうけど
物語としてすごくよい塩梅になってて、読んでいて気分よく進められるのがよかった

途中でひょっとしたらと、様々な悲しい出来事の予感的なものがあったけども、
それらもうまく、悲しくならないように仕上がっていて、安心して読めたのも大変よかった
はらはらしながら、それでいてというのが、年を食ったのか
これくらいの起伏がちょうどいいとか思うのである

とはいえ、挫折といえる、柳先生に大作を認められなかった瞬間だとか、
その逆だったりとか、そういうものへの情熱の閃光みたいなものが
文章から伝わってくるようで、とても楽しく読めた一冊でありました

日本における民藝というものへの理解も深まるようでもあり
個人的に凄くためになった本である

【映画】フェラーリ

2024-07-13 20:52:43 | 読書感想文とか読み物レビウー
数年前だったかに見た、フォードvsフェラーリが凄い面白かったので
その同じ監督で、今度はフェラーリを描くのかと
楽しみにして見に行ったんだが、だいぶ思ったのと違ってて、
なんか、センチメンタルというか、寂しい気持ちになって帰ってきたのであった
人間ドラマとして面白い映画ではあったわけだが、
期待したのは、凄いカードライブシーンだったので、
まぁ、あれこれの旧車フェラーリが走りたくるので、
いいっちゃあいいんだけど、そのフェラーリがどうだという話しは一切なくて、
ただただ淡々と、フェラーリだから早いに決まってんだろとでもいうように
ぶいぶい走っていたのでありました

敵役というほどでもないけど、
相手になるのは、マセラティで、あとは添え物みたいな感じだったからか、
アルファロメオとベンツ、多分アバルト、くらいが見当たったように思うのだけど
そのあたりは、ぶっちぎられる役ばっかりなので、
カーシーンについては、まぁ、ただただ走るフェラーリを見るだけだったのであるけども
その始祖と呼べる、エンツォ・フェラーリ氏が、
なかなかの人物といっていいのか、会社が倒産危機にあるさなかに、
よそで子供作って、それを認知するかどうかで悩みながら、
現状の共同経営者である妻に、鉄砲で撃たれそうになったり、
そして、レースでは事故が多発して、人がバンバン死ぬと
正気でいられなさそうな出来事がてんこ盛りなんだが、
まぁ、ふんわり悩むだけで、とりあえずレース、そして勝つという
物語として、あんまり盛り上がりというか、
それぞれの事象が重たいけども、連動しているようでそうでもないし
解決もしたかといえば、そんなこともなく、
だからといって破滅ばかりかと思ったら、本当の愛めいたものも見えたりとかして
人間複雑すぎるだろうと、そんな感想で終わってしまったのである

現妻であるラウラという役の女優さんが、驚くほど美人だったなという感想と
それでいて、狂気が滲み出るような演技が抜群によくて
彼女の危うさにも似た怖さが、凄く物語を面白くしていたと
そこに見入ってしまったのでありました

今のフェラーリの副会長がキーマンとして、
私生児の子として出てくるんだが、なかなか、フェラーリ一族というのも
大変な一家なんだなと、かなり説明少なく死んだとだけ紹介されるディーノの話しとか
やっぱり、車に絡めたところの話しが見たかったなと思いつつも
長距離レースで悪路を走り抜けるフェラーリのかっこよさは
見る価値あったと思ったのでありました
なんだかんだ、あの大あんまき型のマシンもフェラーリマークついてるだけで
すげぇかっこいいんだよな

早い車はかっこいい、強いエンジンは美しい
そういうフェラーリの哲学が映像にされていた
そんな感想をメモっておく

【読書】いとエモし。

2024-07-10 21:00:29 | 読書感想文とか読み物レビウー
いとエモし。  著:koto

超訳というジャンルの本でありました
これは結構というか、かなりしっくりきたのでよい本読んだと
素直に感心したのだが、多分、大河ドラマのおかげが大半であった
そこに出てきて、藤原何某やら、納言やら、式部やら、
そういう人たちの歌がそれぞれ現代語訳されているという感じで
なるほど、今までもこういう感じのをいくつか見てきたけど
今回のは相当わかりやすかったように思ったのであった
訳がよいというと、多分今までと一緒なんだろうけど、
現代語訳の言葉選びが、本当にそこらに溢れていそうな感じで、
世の中、ツイッターとかのおかげで、短歌が流行ってるとか
絶対嘘だろと思ってたんだが、そういうのと親和性がすさまじく高いんだろうなと
思わされる内容だったと思うのである

当たり前ながら、基本的に恋歌が多いのだけども、
それの内容もとてもわかりやすい、ああそういうのありそうと、
自分の成熟がそこに追いついたからかもとも思ったりしたんだが
やっぱり、大河のおかげでもあるなと感じたのだが、
それ以上に、女性のこういった文章への理解が広がったというか、
そもそも、この昔から女性が書いてきたそれが、文章文化の下地にあったんじゃないかと
今更ながらに思い知った感じがするのである
気づいたら、ツイッターとかブログとかもそうだが、
女性のそういった創作や想いのさく裂したものを摂取する機会が増えていることが
短歌連歌への理解を進めてんじゃないかと自分を鑑みて思ったのである

と、まぁ、そういう感じで改めて書き下された枕草子とか読むと
中学生くらいで暗記させられたそれを思い出して、その深みに到達できたような感じがして
大層よかったというか、改めて、清少納言天才だなと思い知ったのであった
そして、西行法師がモテるであろうこともよくわかった

古典、とりわけ日本文化のそれに触れるという点において
こいつはなかなか、とてもよくできた本だったと思うのでありました
このテイストでなんとか日記系を読破できたら
日本史の成績あがるんじゃね?と、あさきゆめみしを読んだ世代に
今さらなことを書いておくのであった

【読書】みどりいせき

2024-07-08 21:05:55 | 読書感想文とか読み物レビウー
みどりいせき  作:大田ステファニー歓人

多分読めたと思うのだが、さっぱり意味がわからん?いや、
意味はなんとなくわかったけど、読めたかこの日本語?と
衝撃を受けてしまった
ひょっとして、口語体の小説というのが世に送り出されたときと
同じ衝撃なんだろうかとか勘繰ってしまったんだが、
前にも、似たような感じの小説を読んだようにも思うが
さらにそれが進んだような、「乱れ切った日本語」のオンパレードが凄くて
日本語という言語を音として認識するというのが、新鮮といっていいのか
そもそも、言語ってそういうものだったかしらとか
なんか、いらんことばっかいっぱい考えさせられたのだが
内容は、そういう乱れた日本語をしゃべる若者が、薬運びのやばい仕事でパクられるという
そんだけの話しであった

初っ端から、薬決めてんのかという感じの展開だし、
ずっと読みにくいというか、理解しにくい日本語だしと辟易しながら読むんだが
もしかしたら、薬決めて、そういう系の音楽聞きながら読んだら、
というか、そういう状態だと、こんな言葉が降ってくるんだろうかと、
そういう意味では割と昔からよくある表現だし、ジャンルじゃないかとも
思ったりしながら、楽しく読んだのである
大麻やってないと、真の意味がつかめない小説とか
昔あった気がするが、これは、それの現代版じゃなかろうか
と、思ったりするんだが、多分そんなことはなく、
青春の中で、友情とか、自分の境遇とかでいいちいち浮き沈みしながら、
仲間がいたり、いなかったり、悪いことしてつながった気持ちになっていたり
そうじゃなかったりということが、ある意味リアルなのか、
そういう世界を描いていることに価値があるのか
いずれにせよ、自分にはない世界観で、そこに対する蒙が開いたものを見たようなと
そういう小説だったとしておく

結局わかってないんじゃんと思うわけだが、
ただの友情小説というには、ちょっと友情部分が弱い気がするし
主人公が気弱なところが治ったとかそういうのでもないけど
成長ではないが、青春が少し過ぎたといった感覚が残る点は
青春小説だったと思うような気がする

読み方が悪かったせいか、本位かどうかわからんのだが
最後にある種明かしじゃないが、叙述トリックめいたものが披露されたと思うんだが
それも、最初の方でわかったというか、この言語体系だとそのあたりは
ずっと隠れてなかったようにも思うし、やっぱり隠してなくて、
そう勝手に読んでしまっただけなのか、わからんというあたり
読み込みが足らない