CLASS3103 三十三組

しがない個人ホームページ管理人の日記です。

【読書】迷子手帳

2024-10-30 20:55:10 | 読書感想文とか読み物レビウー
迷子手帳  著:穂村弘

新聞連載をまとめたエッセー集
まったく知らないで読み始めてしまったのだが、
著者が短歌の人のようで、その割にエッセーの中でそこまで短歌が出てこないのが
不思議といえば不思議だったんだが、逆にいうと短歌の本ではないけど
そのニュアンスや、雰囲気を知ることができる本で
とてもよかったのでありました

日常のあれこれを切り取ったエッセーで、
何か気になった話しとか、誰にでもありそうな、物忘れだとか、
勘違いだとか、早起きできるとかできないとか、そういう感じのことで
自身の考え方というべきか、スタイルを表現してて
結構ずぼらそうな人だけど、それでいて神経質なのかもなと思っていたところに
ぽんと、短歌がでてきて、その説明が情景とか人情描写のそれでもあるけど、
こういう気分の時に、詠みたいそれとして紹介しているから
また、凄く身近な感じがしてよかった
最小限というか、短歌でどうしても色々まとめたという感じでないのが
不思議といえば不思議なんだけど、それでも、凄くいいなと思える内容でありました

これだけ読んでいると、ある短歌にまつわるエッセーみたいな
そういう感じでまとめたものも読みたいなと思えるほどだったわけだけど、
これもまた、この一冊におさめられている、それ以外の言葉が、
その表現を支えているだろうし、なかなか、
やっぱりこの形が正解なのかしらとも思ったりしつつ
文章表現というのは、読み手を育てるという側面もあるべき、
または、そういう使い方、表現方法もあるんだなと思わされたように
感じ入って読んだのでありました

そんなに難しくないというか、本当、そこらにありそうな話しばっかりだけど
いい気持ちで、嫌味なく読めるというのがいいのだわ

【読書】ユニクロ

2024-10-28 21:05:01 | 読書感想文とか読み物レビウー
ユニクロ  著:杉本貴司

タイトルの通り、ユニクロの半生記というか、
始まりから今までを柳井正をはじまりにして、発展に携わった人たちの
栄光と挫折を描いたものでした
世代的に、ユニクロとともに年を食ってきたといった感じなんだが、
ファッションに疎かったので、こんなことがあったり、
そんなこんなだったのかと知らないことも多くて
大変面白かった

ユニクロのなりたちも面白いのだけども、
柳井正という人の経営哲学や、ユニクロが成功した事例、失敗した事例それぞれの紹介が
なかなかに読み応えがあってとてもよかった
ここに書かれていない失敗がもっとたくさんありそうなので
そのあたりも興味深いと思わされたのだが、
特に、野菜販売事業失敗のくだりとか、服を売る以外の部分のことが
結構気になったというか、知りたいなと思ったのだが
服を売るということだけでも、相当に失敗と成功を繰り返していて
大したもんだなと感心しきりであった

学生時代は、わりと、のらりくらりというか、
そんなすごみの在る人ではなかったようだけども、
ユニクロを形作っていく途中で、柳井正という人もまた形作られていくというのが
いささか、物語にすぎると思いつつも、非常に面白くて
成功は結局のところ、ユニクロという概念をちゃんと発揮した時で、
それを上っ面だけで動かしたときが、だいたい失敗という
わかりやすいといえばわかりやすいんだが、
これもまた、観念的な話しだから、もっと現実的というか
理論に落とし込んで理解しないと、商売というものはわからんのだろうなと
読みながら、頭を使ったのでありました

世界戦略も、まだまだ一進一退のようだし、
凄いメジャー企業というイメージかと思っていたけど、
未だに危ない橋を渡るでもないが、結構危なっかしい戦いをアメリカで続けていたり
大変なんだなと、それをまだまだ率いている柳井正の凄さと
そこに見いだされてきた男たちのすごみが感じられたのでありました

少し前に読んだ本で、これからは何社も転社してこそという話しがあったけど、
ユニクロを支えている人たちが、まさにそんな感じで、
自身の仕事というものを理解して、それをしにきている、
していくというのが重要なんだなと思い知らされるのであった
また、その対比のように、かつての苦しい時代を支えてきた人たちが、
立ち去っていく姿というのも、必然であり、悲壮もあるのだけど
そういうものだよなと思わされて、非常によい本だったと思うのである

【読書】「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?

2024-10-26 20:55:35 | 読書感想文とか読み物レビウー
「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?  著:今井むつみ

とてもいい本だった
認知科学という見地によって、コミュニケーションのキモの部分が
とてもわかりやすく書かれていて
伝えること、伝わること、その仕組みが理解できた
そんな気分になってしまう、危うい本だ
なんせこの本によって、わかりやすいというのが
認知を歪めている可能性を指摘しているのだから、もう入れ子だとか
わけわからないことはさておき、
本当に、とてもわかりやすい本で、感激したのである

前提であるスキーマの存在とか、
そうだろうなと思うところも多いのだが、
様々なバイアスが、どのように働くか、
どのタイミングでやってくるかも解説されているから
誤解を招く瞬間や、起こる要因というのがわかりやすくてよい
読んでいて、思い当たるところばかりなので、
これもまた、ある種のバイアスがかかった状態かと思いつつも読むのだが
誰かに説明する際のポイントが難しい言葉ではなく説明されていて
本当にもう、とてもよい

相関の誤解や、バックボーンの違いによって理解できないことがある
その認識を持つことの重要さと、
結局のところ、要件定義時の単語のすり合わせに似たことが
コミュニケーションというか、伝えることにとても大切であるのだが
細かくすればよいというわけでもなく、
記憶に負担をかけない程度に抽象化することとか
まぁ、ポイントはいっぱい並んでいるんだが
じゃぁどうしたらいいのかというと、当然のごとく正解はないんだなと思わされて
うなってしまうのである
が、なんか、伝えられる気がしてきたから頑張ろうと、そんな気分になった本であった

誰かを理解する、理解してもらうという
コミュニケーションのそもそもの目的を達成するためのスキルというのは
学んで損なわけがないとも思うのだけど
こういうのをうまいこと理解できたら、外国語習得が楽になったりしないかしらとか
考えたり思ったりするのである

人間の直観がおおよそ正しいというのが、
それまでのコミュニケーションで培ってきたある種の練習が、
なんとなくまずいという形を覚えているという
まさに、将棋のそれと同じということが書かれていて
本書としても、棋士へのインタビューでそのあたりの裏付けをとっていて
まさにまさにと、頷いてしまったわけだけども
その直感を鍛えるために、よく考えるも繰り返していき
より、直観を鋭くしていくことが、理解への近道だというのが
なんとも頼もしいというか、たゆまぬ努力をと思わせる内容で
とてもよかった

【読書】今夜、喫茶マチカネで

2024-10-23 21:05:05 | 読書感想文とか読み物レビウー
今夜、喫茶マチカネで  作:増山実

まもなく長い歴史に幕を下ろす喫茶店で、
月に一度、その街にまつわる話を語り合う会が開かれるようになった
その、様々な語り手による話しを聞くという物語
色々な人が、それぞれの思い出を語っていき、
思いもよらぬ縁や、事実がわかるといった感じが
いかにもありそうで、本当に喫茶マチカネにいるような気分になって
ずいずい読まされて浸った読書になった

語り手が変わりながら、まるで違う短編のような話をする
こういうオムニバスとも異なるジャンルをなんと呼ぶのかわからんが、
こういう手法、仕掛けの小説は、なんだかんだ読まされてしまうなと
今まで読んだのが、どれも当たりだったような覚えがあるところ
今回のこれもまた、基本人情話しなんだが、
その土地、マチカネに関わるあれこれがずいぶんと面白くて
その歴史に触れるような錯覚もあって、
なんとも愛着がわいてくるのがとてもよかった
実際は、こんなにうまく語る人ばっかり集まらないだろうと思ってしまうんだが
それは野暮というもので、そのもってくる物語の面白さが、
恋愛や、思想や、ある種の歴史やといった感じで
様々なジャンルがごたまぜになって、でも、一本筋が通っているというか
ちゃんと、マチカネの話しという囲いがあるといったところが
とてもよいと思うのであった

個人的には、物語中の物語になってしまうが、
ワニの化石を見つけたという話しの中で、想い人が作った嘘というか
物語としての、「化石となったワニは流されてやってきたワニで、
いつか同じように離れてしまった恋人(ワニ)が流されてくるだろうと
それを待つために石となった」、なんていう夢十夜的な挿話がよくできてていいなと
強く印象に残ったのである

そのほかも競馬やら、阪大との関わりやらと、
マチカネはともかく、大坂のそういう下町に住んだ人なら
なんとなく思い当たりそうな話しの作りが嫌味なく見事で
気持ちよく読めたのでありました
まぁ、最後の章で、マチカネの謎も解かれるというか
ちょっとしたSFになってしまうのだけども、このあたり、
大阪に住んでるとぱっとわかったんだろうなと思うと、知らなかったのが少々悔しいと思うのであった

【読書】地面師たち ファイナル・ベッツ

2024-10-16 21:05:10 | 読書感想文とか読み物レビウー
地面師たち ファイナル・ベッツ  作:新庄耕

なんか、ドラマが流行ってるそうだが、見ることがかなわないので
とりあえず小説を読もうと最新作を読んだのでありました

ある地面師が、新たなチームを作って、
次の詐欺を始めるというお話だったのだけども
個人的にはちょっと消化不良というか、気になるところが
置き去りになってしまったように感じて、もやっとしたんだが
全体的には、結構はらはらして、大変楽しめたのでありました

今作のある意味主人公といえるであろう
元Jリーガーのギャンブル狂いの男というのが面白くて、
この男が地面師のチームに入って、その仕事に手を染めていくと
まぁそういう話ではあるのだが、
その知能犯的なそれを割とそつなくこなしつつも、
生来のギャンブラー気質がよくない方向に発揮されそうになったり、
なんというか、この危うさというのが、見ていて大変楽しいのでありました

そのぎりぎりをなんとかくぐりぬけて、
それがまた、彼をギャンブルに駆り立てるみたいなことが
なんとなく、読んでいて手に取るようにわかるのも楽しくて
ラストシーンとか、いかにもそういう舞台だなという
ちょっと、さすがにそれはどうかと思うみたいなオチになるんだけど
それはそれとして、一貫してるなと思わされるキャラクタで見事だったと感心したのであった

金を稼ぐという方法や手段としての地面師だと思ったが、
登場人物の大半が、金というよりも、そのスリルを楽しむためにやっているような
大変不純な危険さをもっているのが魅力的で、
おいかける警察方面も、地道な捜査で追い詰めていくという
実によい仕事をしているけど、それをあざ笑うでもなく、
追いかけられているのを知って、なんとか逃げながら、でも、
獲物からは離れないという、とっとと逃げればいいのにそれはしないという危うさが
また、なんだかんだ楽しくさせられるのでありました

オチというか、まぁだいたいこんなところに落ち着きそうだなと
そういう感じで実際落ち着いた物語ではあったんだが、
不審死が多すぎるのと、あの人その後どうなったのというのが
何人か投げっぱなしになってるのがものすごく気になってしまい
たぶん今後補完されることもないだろうし、そのオチだけ知りたいなと思ったりしたんだが
まぁ、とりあえず、楽しんで読み終えたので、よい小説だったと
メモっておきたい

【読書】谷から来た女

2024-10-14 21:05:46 | 読書感想文とか読み物レビウー
谷から来た女  作:桜木紫乃

アイヌを扱った現代小説
アイヌにルーツを持つ少女が、
伝統素材をリメイクしたオリジナルのアート作品で注目を集めつつある、
その周辺や過去の話しが連作短編になっていて、
一言では言い表せない強いメッセージ性のある物語になってて、とてもよかった

ありていな言葉にしてしまうと、
アイヌという出自においての被差別という問題を扱っているんだが、
そういう「問題」とした取り上げ方が、そもそも、シサム(アイヌの言葉での本土人)の言い分や、
その地位からの言葉でしかないということを喝破しつつ、
作られた被差別みたいなのではない、出自と関係なくあるものを信じる
そういう強さを描いていた
まぁ、この強さという言葉もまた、どこか立場が違う人間の言葉でしかないと
随分ばっさりやられてしまうけども、
確かにそうだよなと、いわゆる被差別というものを語るときは、
当事者以外は全員が他人事で、それぞれの思惑のこもった
事実と異なることをうたうものだなと気づかされるのでありました

まぁ、そんな難しい話しを書いているというよりは、
ただの現代恋愛小説みたいな雰囲気で、実際そういう色恋があり、
惚れた晴れた、逃げた追ったみたいな話しが続くのだけど
その背景というか、気づくと、上述したような問題が
静かに近づいてくるといった感じで、押しつけがましくなく、しっかりと問題をとらえていて
凄い小説だと舌を巻いたのでありました

問題はあるが、その根幹がどこにあるか、
何がそうなのかを見極めて語ることの難しさ、
他人ごとを自身のように騙ることの愚かさというか
気づかぬ刃があると気づく物語であった
凄くよい小説だ

【読書】クスノキの女神

2024-10-12 20:55:33 | 読書感想文とか読み物レビウー
クスノキの女神  作:東野圭吾

想いを預けることのできる、不思議なクスノキがある神社を舞台に
いくつかの想いをつなげる物語になっていた
ラストシーンが切なすぎて、思わず泣いてしまったわけだが
一定以上年を食うとこれはきくなと
しみじみ、いつか来るかもしれない未来として
それを読んだのでありました
ただ、この本のテーマというか、ある種の主張に沿うなら
そういうことはおいといて、今、現在というのを大切にしようと思う

そんなわけで、ストーリーとしては2つ、3つくらいが
同時進行しているといった感じではあるんだが
登場人物がそれぞれ、何かしらそれはどうかしらと思わせる行動をとったり
ある意味人間くさいけども、自分が偏狭なのか、
特に主人公のそういう部分が、気になるというか
赦せないとまではいわないが、よくないなと思うところが多いのだけど
それこそが人間だというキャラクタ作りなんだろうか
ともかく、物語を進めるために、盗み聞きみたいなことをいくつかやるので
どうもよくないという気持ちで読んだのである

ある事件が起きるのだけど、その犯人もかばった人物も
なんか、それぞれよくないところもあってという感じで、
一見美談みたいな感じにも見えなくもないといった感覚になるが
どう考えても、よくない、これまた、赦されないのではないかと
思ったりしてしまうのだが、それについては
一応の決着を見るので、まぁいいかと、なんかやっぱり心がささくれるような
そんな気分になってしまったのである

と、まぁ、そんな事件や人物たちをのらりくらり読んでいたわけだが
最終的には、神社のオーナーというでもないが、
主人公が頼りしきりの叔母の状況が変わってくることによって
その姿と、そのありようが、なんというか感動的すぎる
いや、ただただ生きているというそれなわけだが
主張にあったような、今をというものとものすごくリンクして
また、そこに至るまでに一人の少年のこともあったりして
「想い」というものについて深く考えさせられる
凄くいいフィナーレを迎えたなと思わされたのでありました

最終的には、よかったなという印象で終わってしまうので
ちょろい読者だと思ってしまうところでもあるけど
ミステリという部分ではなく、人間の生き方という部分について
はっきりと別れて描かれていて、
そして、生き方の方が、とても印象に残る小説だったと思うのである

【読書】なんで死体がスタジオに!?

2024-10-09 21:05:00 | 読書感想文とか読み物レビウー
なんで死体がスタジオに!?   作:森 バジル

テレビ放送を扱ったミステリ小説
テレビで人狼ゲームの生放送を放映するのだが、
その裏で、殺人事件が起きていて…といった感じで、
生放送に無理やりのっけて、かつ、人狼ゲームと殺人犯人あてゲームとかが
いくつか絡み合って進んでいくので、
あれやこれやと考えるとなかなか楽しいトリックを味わえたのでありました
ミステリとして謎解きが、
人狼ゲームのそれとリンクしているのも楽しいわけだが、
それはそれとして、生放送ならではの、各出演者の読みあいや、リアクションも楽しく
本当にこんな放送あったら、面白そうだなと思いながら見たのである
割と犯人はわかりやすい感じだったけど、
それはそれとして、この番組どうなるんだという興味に
ぐいぐい引っ張られた感じだった

テレビがオワコン化してきている昨今だが、
そこに何か可能性がないかを書いた本とも読めなくもないが、
実際はこんなにうまくいかないだろうし、
みんなが見てて、わくわくするというそれが、
今は起こし得ないものになってんだなという寂しさもありつつ、
テレビで育った世代としては、大変面白く読めた物語だった

事件の真相自体はさほどの話しでもなかったのだが、
最終的にそれでいいの?という終わり方だと読んでしまったんだが
まぁ、色々達成したし、それでいいのかと妙な納得をして
あまり深く考えず、プロデューサーとしてこの放送を成立させる知恵と
実際に行われるゲームの人狼探しと、本当に起きてしまった殺人犯探しが
なんだかんだ忙しく絡み合って
読んでいて楽しい小説だったとメモっておくのでありました

実際に放送するには、人狼というゲーム自体がニッチすぎて
ゴールデンにはやれないだろうなと夢もなにもないことを思ってしまったんだが
それぞれの思惑がぶつかりあうテレビという現場が
なかなか楽しく描かれていてとてもよかったと思うのである

【読書】黄昏のために

2024-10-07 21:05:11 | 読書感想文とか読み物レビウー
黄昏のために  作:北方謙三

久しぶりの北方御大の小説であります
短編集?短編連作?わからないまま読んだのだが
ある画家の話しで、その画家が描こうとしているもの、
その抽象を文章で表現しているといっていいのか、
もっと単純に、ただかっこいい、やっぱりハードボイルドなそれだったということか
自分ではよくわからないままに、でも、かっこいい雰囲気に酔いながら読んだのでありました
酒と女が出てきて、それをどうするか、
そこに男の選択が、言い訳のような言いざまとともに描かれる
やっぱりこれが、ハードボイルドというやつなんだろう

命のないものを描くことで、逆に命を描くことになるのでは
そんな、ありそうな題材で絵を描いているという描写で、
ある時は無生物を描き、ある時は動物の骨を描きとしつつ
何をもって生きたものを描いているといえるかと
そんな哲学めいたことも考えつつ
それと同時に、そういうものを商売として金にかえようというブローカーがいて、
でも、それを求めてもいるし、嫌ってもいるという状態にたゆたい
行きずりの女と関係をもったり、持たなかったりして
ただ漫然と生きて、時折絵を描いている、そういう情景が続く

結局、それも途中でしかないというのか、
そのあと、唐突に何かに出会ったようにして描くというシーンが二度ほどあって、
狂気とも異なる、集中、想起、没頭といったものがあって、
とてもよい絵が生まれたと、その描写だけで満足できそうな楽しさというのか、
読んでいて、満たされるといった感情を抱けるものだった

結局、何を書いていて、何が書かれていたか
そのあたりはさっぱり理解できなかったけど、
いい雰囲気をずっと読んでいる間感じられる、浸ることができる
そういう小説だと思った
多分、読み手の俺がハードボイルドをちゃんと読んでないから
入口が見当たらないという感想なのかもしれない

【読書】国道沿いで、だいじょうぶ100回

2024-10-05 20:55:31 | 読書感想文とか読み物レビウー
国道沿いで、だいじょうぶ100回  著:岸田奈美

相変わらずの楽しいコラム集であった
先日NHKのドラマも見たので懐かしくなっていたところ
新刊が出るというので早速読んだわけだが
他愛なく面白おかしく、日々のことを楽しく書いていて
いいなと思って読んだのであった

ドラマのエピソードとリンクしているような部分もあったりして、
実話をもとにしたドラマだから当たり前だけど、
なんとなしタイムリーに読めたという感じもあって楽しく、
弟さんがグループホームで暮らすようになった変化だとか、
お母さんが入院していたところの描写とか、
リアルの方の大変さと、それでも面白く楽しくの精神が生きた文章がよくて
なるほどなぁ、大変やなーと思いつつ読めるのである

電撃的な面白おかしいことは少なくなっているのかと思いきや、
同じような間違いとかを犯していることも相当あるようで、
前回読んだとき、このお姉ちゃんはちゃんとした人なのかと思ってしまっていたけど、
ドラマで見た通り、結構危ういというか、なかなかの困った人物であるなと
そういう感じのエピソードが多くて、より理解が進んだというか
そんなもん進める必要ないんだけど、わかったような気分になってしまうのであった
色々抜けてるところが多い様子だわ
本で読む分には楽しいし、実際すごく楽しそうな生き方でもあるが、
近くにいると、なんかイライラしてしまいそうだと思うのである

とりあえずなんも考えず、なんかできそうだというところには
すぐに賭けるというか、投資とも違う、お金と労力を惜しまないという
曲がらないスタンスが見事で、それによって、
様々な問題というか、混乱を巻き起こしているので
まま楽しそうに見えるけど、相当大変だよなと
素人で、苦労とばかりが集まる免許や資格の試験をほいほい受けに行く
フットワークの軽さは、尊敬と恐怖が入り混じるばかりである
そういうものを畏敬と呼ぶようだが、なんか違うな

とはいえ、当然のように難儀も多いようで
「だいじょうぶ」100回は自分へのエールでもあるようだし、
なんも大丈夫ではないけど、がんばりや、という気持ちを奮い立たせるというか
無理やりそう思い込むための呪文のようでもあり
強さなのかなと思ったりして、笑いながらも考えさせられるのであった

ともかくパワフルに生きていただきたいと思っていたら
ドラマのおかげなのかしらんが、
出てきた赤い車に乗ってるとのことで、
あんな旧式のVOLVO大丈夫かと不安で仕方ないのだが
まぁ、楽しそうだしいいかと思うのであった、すでにボコボコになってそうだな

【読書】利休の茶杓

2024-10-02 21:05:37 | 読書感想文とか読み物レビウー
利休の茶杓  作:山本兼一

幕末頃の古道具屋さんを舞台にした人情話し
落語の演目にでもありそうなやりとりと筋なんだけども、
様々な骨董や道具が出てきて面白かった

ただの骨董話しなら、それだけで済むのだけど
剣呑な時代の京都を舞台にしているので、お客で新選組が出てきたり
勤皇浪士がでてきたりとあやしからんところもあるんだが
政治向きの話しはまるでなく、さりとて、京都の市中では
実際こんな感じで、普通の人が志士とすれ違ってたのかしらんと
思ったりもしながら読めるのでありました

鉄細工やら、茶碗やらもでてくるのだが、
楽家代々の茶碗を展示していたら、どんどんと筋のよい客が寄ってくるようになったと
まぁ、当たり前といえばそうなんだが、道具が人を呼ぶという話しそのものが
丁寧に書かれていて、なんとなし、そういう世界が見えるようでよかった
実際よいものがあると見に行きたくなるし、それで商売の幅がでてくるというのは
骨董ではポピュラーな手法なんだろうが、その茶碗の豪華さというか、
物としての強さというのが軸に語られているので
古道具好きとしてはよい小説だなとにやにやしながら読むのであった

表題作が〆の一本になっていて、
道具箪笥の中に大量の茶杓が入っていて、
そのうちの一本だけが利休のそれなんだが、その行方を追いかけると
そんなお話で、芹沢鴨が出てきたり、なんだかんだと
ばたばたしながら面白く物語が進んで、
なるほどというオチがまた、とても座りがよくて楽しかったのでありました
結局、気に入らないと物を壊すということをする人がいて
そういう人が本当の物をわかるものかというでもないのだが、
その順位への反感と打算というものが、
人によって、物への価値、品というものに転嫁、算段されるものだなと
改めて思うのである

随分高価なという話しもあるが、
結局それを買いたいという人がいてこその相場だし、
その値段には意味がないともいえるなと、不思議な業界だよなと思いつつ
まぁ、そんなことはさておいて、よいものを愛でるということが
気持ちよいという感覚だけ教えてくれるような、やさしい物語にほっとしたのである

【読書】鮫言

2024-09-30 21:03:06 | 読書感想文とか読み物レビウー
鮫言  著:大沢在昌

週刊プレイボーイで連載していたものをまとめたのと
氏の小説に関するあれこれの短編コラムをまとめた一冊
時代といっていいのか、こういうジャンルの人、この時代の人、
そういう特有の空気があるなと、楽しんで読んだのである
悪いとかそういうことではなくて、それぞれ切り口が違うけど
結局、モテたかった話しと、未だにモテたい話しとに繋がってくるという
この感じ、文章というのが、嫌いじゃないなと
読んでほのぼのしてしまうのである、ほのぼのする話しじゃないんだけどもさ

学生の頃どうであったかというところや、
自身の哲学とまではいわない、色々なこだわりや、
やっていることなんていうのをまとめているだけで、
高所に立ってぶった文章というわけでないので、ともかく読みやすくてよい
それでいて、侘しさではないのだが、どことなく寂しいと思わせるところもあったりして
これはモテるために、わざとやってるのではないか
などとうがってみてしまうのだが、そうだとしても、あるいは、そうじゃなくても
どちらにせよ魅力的だと思うばかりである

結構若いころにやんちゃをしていた時もあったようだし、
なんだかんだお姉ちゃんとの振った降られた話しも数多く持っていて
それが、いい感じに熟成されていると伺わせる内容が
自慢ではなく、また、直接的には語られず
なんとなし、クラブでそこのおねーちゃんと話をしているときの会話のなかに
ちらちらと見えたり、見えなかったりするというのがいいなと思うのであった
そういうのはまるで縁がない世界なので、憧れというほどでもないというか、
自分がやりたい、なりたいかというと、そんなことはないんだが
自分にはないもので、強くよい個性というか
いいなーと思うものが光っていると思うばかりであった

夏に海で遊ぶということに対しての
徹底した遊び、仕事を持ち込まない
その姿勢のすばらしさはさることながら、そうしなくては生きていけない
オンオフであったり、色々なところに折り合いをつけるための
一種の暴言めいたものですらあるのかもと
そう思えるような感じが、氏の小説家たる部分なんだろうなと思いつつ読んで
そうかと思うと、男として、ある時ふと夏が終わったと感じるのと
まったく同じ感覚で、何かが終わったと感じた話しが
物凄く迫ってくるというか、自分にもいつかあったような気すらすると
記憶にないが、理解できてしまうそれに強く惹かれたのでありました

まぁ、そうかと思うと、ユーミンに関するあれこれが、
まさに自分が、氏に感じているそれと似ているようにも思えて
色々とつながるなぁと思って読んだわけだが
ともかく、ハードボイルド作家であること、作品のそれこれを裏切ることなく
それでいて楽しく、軽く読めるのが大変よかったとメモっておく

【読書】とんこつQ&A

2024-09-25 21:00:29 | 読書感想文とか読み物レビウー
とんこつQ&A  作:今村夏子

相変わらずとんがった短編集だと思いつつ
凄く楽しく読み終えた、読み終えてから少し怖がっている
そんな終わってからくる不気味さがたっぷりの、いい小説だった

恐怖とは異なると思うのだけど、読み終わって、ごく普通の話しだったという余韻のまま、
絶対普通の話しちがうじゃないかという部分を徹底的に無視している
そういう状態が浮かぶような感覚が、実に素晴らしくて
一見すると結構いい話しだったり、ちょっとした嘘をごまかしていただけだったり
どこにでもありそうな、居心地の悪さといったらいいか、
未必の故意に近い悪意といえばいいか、なんか、うしろめたいものを隠し続けて
そのまま過ぎ去る、その感触、感覚をトレースするような寒さがあって
大変面白いのでありました

表題作は、ひょんなことから働き始めた中華料理屋で、
おかみさんのようなことをしていたら、第二のおかみさんのような人がやってきて、
そのコントみたいなんだけど、グロテスクな関係性が見事で
また、そのスイッチみたいなのが、メモを読まされたということで
すかっと解決するとか、
そういう、なんかひょんなきっかけで、できないことができるようになると同じ感覚が
秀逸すぎるというか、誰でも覚えがありそうなそれを、
そんな不気味なスイッチに使うのかよという、作者のグロテスクさ(褒めてる)が
まぁ見事すぎて素晴らしいと感激して読み終えたのである
なんとなく、いい話しだったっぽい終わりだけど、全然よくないだろと思わせるところが
実にすばらしい

この他も、よかれと思って子供におやつをあげていたら、
なんか怪我をさせてしまう事態になってその場から逃げて鳥繕いのあげく
梯子外したというか、子供に最低のことをしてしまう
でも、それはなんとなくふわっとなかったことというか、うまいこと
その間違ったままで処理されておとがめなしでしたみたいなのが
まぁ、なんというか、凄いな
悪いと思っていながら、その重さがないというか、
申し訳ないと思っているけど、その事態のひどさと釣り合ってない感じ
これもまた見事でありました

人間観察からくるものではないと思いたいのだが、
物凄く人間を描写している、こういう感覚、感じ、瞬間があるなと思わされる
その切り取りが、軽妙にされているけど、重い事実として書かれていて
本当、読むと面白いんだけど、落ち込みそうになる加減が見事で
大変よかった

【読書】日台万華鏡 台湾と日本のあいだで考えた

2024-09-23 20:54:09 | 読書感想文とか読み物レビウー
日台万華鏡 台湾と日本のあいだで考えた  著:栖来ひかり

台湾在住の著者が、台湾で暮らして得る感覚、文化、人間、様々なものを紹介しながら
日本との関係や、思想よりも柔らかい哲学のように難しいわけではないそれを
昨今の問題に照らし合わせながら語ったエッセー集でありました

現代台湾がわかるといっては言い過ぎだろうが
ジェンダーの問題に早くかた取組、現段階でのこたえを出しているところや、
二二八事件の結果どうなったかという政治へのかかわり方、
お年寄りと妊婦へのいたわりなどという、ごく近しい部分だとかで
台湾がどうあるかという実際のお話と、
日本との違いのようなものが浮き彫りになって、
いいところはとてもよく、学ぶべきところがわかりやすくと
そんな感じで紹介されていてよかった

日本と台湾だけではなく、
そもそも台湾という国そのものが複雑な歴史をたどっている
そのうえで今、この台湾があるということが基本なので
なるほどなと思うところも多く、
ある種の多様性が、歴史の結果必然であるような部分もあったり、
その帰結としてか、今こそ台湾というアイデンティティーが
映画をはじめ、文化の面で大きく影響を及ぼすようになっていることなど
なんとなく知っていたことが、生活している著者だからこその手触りとともに語られていて、
これもまた、文章上のある種形而上のそれだけども、
知ったような、触れられたような気分になって、よくよく学べる内容だった

難しい話しばかりではなく、ちょっと前に私も気になっていた「山本頭」のことやら、
意外にフグを食べるということの共通点など、妙な文化交流というか、
交錯している部分も面白くて
より身近に感じられるようなものも楽しめた

ほのぼのいい気分で読み終えて
また行きたいなと思うばかりである

【読書】さくら日和

2024-09-18 21:05:11 | 読書感想文とか読み物レビウー
さくら日和  著:さくらももこ

さくらももこのエッセー本
中学生くらいの時に「〇〇の〇〇〇〇」シリーズをよく読んでいたが
そのあとくらいに出たもので、著者であるさくらももこさんが離婚した頃だそうで
そこも笑いにしつつ、相変わらずの語り口で、なんということもない日常が描かれている
まんま、ちびまる子ちゃんの世界だよなと思うのである

どの話しも面白いのだが、やはり、父ヒロシをはじめ
家族を描いたものががぜん面白くて、ちびまる子ちゃんのリアル版といっていいのか
内容が劇画タッチみたいな感じで楽しかった
熱が入ってるのか入ってないのかわからない、珍妙な語り口が素晴らしいので
久しぶりに読みながら笑わされてしまった、凄い力だ

息子に自分がさくらももこであることを隠して過ごしているという話しが頻繁に出てきて、
その息子とも対決が大変面白いのだが、その息子のダメなところというか
きかん坊なところが、完全に子供のころの自分と一致していることに慄いていたり、
そのきかん坊がおばあちゃん、つまり、ももこの母と喧嘩しているという様が
完全に自分が通った道だという発見があるとか
そういう話しはいいから、さっさとなんとかしろよという
どっからつっこんだらいいかわからないが、気づいたら、自分もさくら家に飲み込まれてしまうような
不思議な家族の力が感じられて大変よい

これを書いたのはまだ若かりし頃ながら、自分に何かあったときのためにという話しが
これまた面白おかしく書かれていたんだが、
先日まだ若いのにお亡くなりになられたという事実が
なんともしんみりさせるなと思ったのである
とはいえ、この時心配していた息子氏のことも、いくら若くして亡くなったとはいえ
しっかりと成長してからのことであろうと思えば、心配は取り越し苦労であったのかと
しんみりしてしまった

姉も含めて、しかし、辛辣な口喧嘩をする家族だなと思いながら
ヒロシの偉大さを改めて感じる、おっさんになった自分である
家族内でこういうおおらかに構えてられるというか、
何も考えていないようで、ちゃんと気を遣えているヒロシという存在の偉大さが
ちょっとわかるような気がしてしまうのである