CLASS3103 三十三組

しがない個人ホームページ管理人の日記です。

草枕

2005-08-26 08:46:20 | 読書感想文とか読み物レビウー
もう一本の読書感想文
夏目漱石「草枕」であります
こちら、わたしの持ってる文庫本で
夢十夜とセットだったのでありますが、いやはや
どっちも物語の筋道自体はよくわからないが
ただ、圧倒的に美しい描写をしよう、
難しい言葉や観念や哲学をひけらかしつつ
それをバカにしようといった様子が
おいらには見てとられて、面白い作品であります

漱石が相当の頑固もので、また
自分が高等であり、下等なものはまったくけしからん
そういったスタイルの人だったと伺っておりましたが
それを体現したかのような文体と
主人公である画工の台詞や心情描写
おんなのくせにだの、教育が足らないだの、
我輩は猫であると並ぶほどの、知識層をバカにした風がステキで
その知識層側である画工のあれこれが面白く書かれています

途中、この画工が、ヒロイン(ちょと違う)である
那美さんに、あれこれと哲学をぶるんですが
そこで「小説なんてぱっと開いたところをいいかげんに読むのが
ちょうどよいんです」などと言っているわけですが
草枕も、どうやらそうやって読んでよい小説にしたのか
そうでもないのか、ともかく、どっから読んでも
とりたてて凄い物語が出てくるわけじゃないが
しつこいまでの美しい風景描写が沸いて出てきます

オフェーリアの有名な絵についても
これそれと書いてあるんだが、それに似たものを
書こうというか、書いたら面白いかもみたいなことを
思ったりしつつ、ツバキのある鏡ヶ池の描写が
息を呑むすばらしさで、ここは必読であります

と、ばらばらとした感想になってしまうんだが
実際のところ、上で述べてきた全てを覆すようなことだが
草枕の本質は、わたくしが十回くらい読みなおして
まぁ、確信した、年を追うごとに信条を深めたことを
一言であらわすと、那美さんがいい女だ

やはり、漱石は萌え小説家であります
三四郎の美禰子しかり、それからの体弱い女しかり、
虞美人草の藤尾しかりと、強烈な女と
自立とは違う、個性を確立した女が抜群にうまい
というか、草枕の那美さんも当然その域に達しております

草枕について、ほとんどが画工の
一人ごちで終わっているにも関わらず
他人と関わる描写が、生々しさというか、読んでいて
ここ気合入れて書いてるなぁ漱石先生・・・と
思わせる部分が、いずれも那美さんとの邂逅
まぁ、ヒロインなんだから当然なんだが
逸話の数々(気狂いだとか)と併せて抜群に面白いのですよ

他人から聞く話なので鵜呑みにしてはいけないが
坊主が那美さんに惚れて恋文を送ったところ
返事の変わりに読経してる最中の坊主に抱き着いて誘っただとか
そんな萌えエピソードというか、鋭い強さが
マジでステキであります、実際はそういうことはしない
いたって常識人のような気がするんだが
それでも、風呂で出会ったときの様子、
美しい体つきをせつせつと描写して、湯煙の中から出てくる様、
もう、たまらん、那美さんステキ

と、そんな強く美しい女として描かれていたが
どこか心もとない、もうひとつつかめない女像をして
最終のところで、別れただんなとのあれこれ
そこで初めて、憐憫を宿すことにより
完成された、一人の女の描写が終わったのであります

思うに漱石が考えて、これは萌えるだろうという女を
とりあえず書ききることを年頭においただけで
別段、この物語から凄い人情だとかそういうのを
引き出そうとした作品ではないのだろうななんて
えらそうなことを思ったりしつつ

今日もまた、公に提出するような感想文になってませんが
夏目漱石の女描写について、せつせつ方ってみたりしつつ
草枕も、短いのでとっつきやすいというお話