児童虐待は、小児科医師として重要テーマです。
それは、小児科医師だけでは無理で、司法との連携、地域との連携が欠かせません。
司法との連携で重要となるのが、その法整備。
以下、民法における親権の規定を、概観します。
児童虐待への対応の充実が見て取れます。
社会がなかなか良い方向に向かわないと思いたくなる日々ですが、少しずつ前進しているところも必ずあります。
この民法改正も然り。
改正に携われた皆様に、深く感謝申し上げます。
もちろん、法が変わっただけでよくはなりませんが、法は大きな後ろ盾です。
以下、親権に関する民法規定抜粋。注釈は、青字。
*****民法抜粋****
第四章 親権
第一節 総則
(親権者)
第八百十八条 成年に達しない子は、父母の親権に服する。
2 子が養子であるときは、養親の親権に服する。
3 親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。
→親権は、父母が婚姻中は、「共同」で行うことになっています。
(離婚又は認知の場合の親権者)
第八百十九条 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。
2 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の一方を親権者と定める。
3 子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母が行う。ただし、子の出生後に、父母の協議で、父を親権者と定めることができる。
4 父が認知した子に対する親権は、父母の協議で父を親権者と定めたときに限り、父が行う。
5 第一項、第三項又は前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。
6 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。
→
1項で協議離婚の場合
2項で裁判離婚の場合
3項で、子の出生前の離婚では、父は親権者になれません。出生後に協議します。
6項 「子の利益」のために、「子の親族」の請求で、親権者を変更できます。
第二節 親権の効力
(監護及び教育の権利義務)
第八百二十条 親権を行う者は、子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。
→「子の利益」のために、親権者は、監護、教育します。H23改正。
(居所の指定)
第八百二十一条 子は、親権を行う者が指定した場所に、その居所を定めなければならない。
→居所指定権
(懲戒)
第八百二十二条 親権を行う者は、第八百二十条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる。
<H23改正前の条文>
第八百二十二条 親権を行う者は、必要な範囲内で自らその子を懲戒し、又は家庭裁判所の許可を得て、これを懲戒場に入れることができる。
2 子を懲戒場に入れる期間は、六箇月以下の範囲内で、家庭裁判所が定める。ただし、この期間は、親権を行う者の請求によって、いつでも短縮することができる。
→懲戒権が必要な範囲を超えると親権の濫用になり、児童虐待になるため、H23改正。
(職業の許可)
第八百二十三条 子は、親権を行う者の許可を得なければ、職業を営むことができない。
2 親権を行う者は、第六条第二項の場合には、前項の許可を取り消し、又はこれを制限することができる。
→
参考:
第六条 一種又は数種の営業を許された未成年者は、その営業に関しては、成年者と同一の行為能力を有する。
2 前項の場合において、未成年者がその営業に堪えることができない事由があるときは、その法定代理人は、第四編(親族)の規定に従い、その許可を取り消し、又はこれを制限することができる。
なお、他人に雇われる契約(労働契約)は、親権者が代理で締結することはできません。(労働基準法58条1項)
(財産の管理及び代表)
第八百二十四条 親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。
→会社法人の代表者に近い意味で、代表と書かれています。
(父母の一方が共同の名義でした行為の効力)
第八百二十五条 父母が共同して親権を行う場合において、父母の一方が、共同の名義で、子に代わって法律行為をし又は子がこれをすることに同意したときは、その行為は、他の一方の意思に反したときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が悪意であったときは、この限りでない。
→親権は、父母の共同での行為であるが故、父母の意見が合わない場合の取り決め。
(利益相反行為)
第八百二十六条 親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
2 親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
→利益相反に対しての規定、適正な手続きを考えた場合、当然の規定であり、代理行為でも同様の内容(民法108条)になっています。
比較参照:民法108条
(自己契約及び双方代理)
第百八条 同一の法律行為については、相手方の代理人となり、又は当事者双方の代理人となることはできない。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
(財産の管理における注意義務)
第八百二十七条 親権を行う者は、自己のためにするのと同一の注意をもって、その管理権を行わなければならない。
→管理権。ややゆるい注意義務となっています。
普通の場合、他人のものは、善管注意義務が求められます。
(財産の管理の計算)
第八百二十八条 子が成年に達したときは、親権を行った者は、遅滞なくその管理の計算をしなければならない。ただし、その子の養育及び財産の管理の費用は、その子の財産の収益と相殺したものとみなす。
第八百二十九条 前条ただし書の規定は、無償で子に財産を与える第三者が反対の意思を表示したときは、その財産については、これを適用しない。
→第828条の見なしをしない場合が、829条。
(第三者が無償で子に与えた財産の管理)
第八百三十条 無償で子に財産を与える第三者が、親権を行う父又は母にこれを管理させない意思を表示したときは、その財産は、父又は母の管理に属しないものとする。
2 前項の財産につき父母が共に管理権を有しない場合において、第三者が管理者を指定しなかったときは、家庭裁判所は、子、その親族又は検察官の請求によって、その管理者を選任する。
3 第三者が管理者を指定したときであっても、その管理者の権限が消滅し、又はこれを改任する必要がある場合において、第三者が更に管理者を指定しないときも、前項と同様とする。
4 第二十七条から第二十九条までの規定は、前二項の場合について準用する。
→4項は、取引法分野の規定
(委任の規定の準用)
第八百三十一条 第六百五十四条及び第六百五十五条の規定は、親権を行う者が子の財産を管理する場合及び前条の場合について準用する。
(財産の管理について生じた親子間の債権の消滅時効)
第八百三十二条 親権を行った者とその子との間に財産の管理について生じた債権は、その管理権が消滅した時から五年間これを行使しないときは、時効によって消滅する。
2 子がまだ成年に達しない間に管理権が消滅した場合において子に法定代理人がないときは、前項の期間は、その子が成年に達し、又は後任の法定代理人が就職した時から起算する。
(子に代わる親権の行使)
第八百三十三条 親権を行う者は、その親権に服する子に代わって親権を行う。
→未成年Bが子どもCを生んで、「親A→その子B→Bの子C」の関係の場合、Bの親であるAが、Bに代わって、孫(Aからみると)Cに対する親権を行使する。
第三節 親権の喪失
(親権喪失の審判)
第八百三十四条 父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権喪失の審判をすることができる。ただし、二年以内にその原因が消失する見込みがあるときは、この限りでない。
<H23改正前の条文>
(親権の喪失の宣告)
第八百三十四条 父又は母が、親権を濫用し、又は著しく不行跡であるときは、家庭裁判所は、子の親族又は検察官の請求によって、その親権の喪失を宣告することができる。
→親権喪失を請求できるのは、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官。
二年がひとつの基準。
H23全部改正。
(親権停止の審判)
第八百三十四条の二 父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権停止の審判をすることができる。
2 家庭裁判所は、親権停止の審判をするときは、その原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間、子の心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して、二年を超えない範囲内で、親権を停止する期間を定める。
→親権停止の審判の規定で、H23改正で条文が追加された。
(管理権の喪失の宣告)
第八百三十五条
父又は母による管理権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、管理権喪失の審判をすることができる。
<H23改正前の条文>
第八百三十五条 親権を行う父又は母が、管理が失当であったことによってその子の財産を危うくしたときは、家庭裁判所は、子の親族又は検察官の請求によって、その管理権の喪失を宣告することができる。
→管理権喪失。H23全部改正。
(親権喪失、親権停止又は管理権喪失の宣告の取消し)
第八百三十六条 第八百三十四条本文、第八百三十四条の二第一項又は前条に規定する原因が消滅したときは、家庭裁判所は、本人又はその親族の請求によって、それぞれ親権喪失、親権停止又は管理権喪失の審判を取り消すことができる。
<H23改正前の条文>
(親権又は管理権の喪失の宣告の取消し)
第八百三十六条 前二条に規定する原因が消滅したときは、家庭裁判所は、本人又はその親族の請求によって、前二条の規定による親権又は管理権の喪失の宣告を取り消すことができる。
→請求できるのは、本人又はその親族。H23改正。
(親権又は管理権の辞任及び回復)
第八百三十七条 親権を行う父又は母は、やむを得ない事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、親権又は管理権を辞することができる。
2 前項の事由が消滅したときは、父又は母は、家庭裁判所の許可を得て、親権又は管理権を回復することができる。
以上、
DVを絶対になくす姿勢。
私達、小児科医にも求められています。
なぜなら、DVは、児童虐待にも緊密につながっているから。
以下、「ジェンダーと法」の講義も参考にしながら、対策も含め書きます。
対策については、今後も考察を深め、施策につなげていかねばならないと思うところです。
講義でひとつうれしかったことは、中央区行政の結婚・離婚のサイトhttp://www.city.chuo.lg.jp/vestibule/PNClass1Servletが講義資料(別紙7)として紹介されていました。
中央区は、女性センターブーケ21を機能させ、積極的に取り組まれていると思います。更なる取り組みをお願いしたいところです。
第1<DVの現状>
(弁護士会「夫からの暴力110番」調査などより)
*離婚調停申し立ての動機のうち、夫の暴力の占める割合
身体的暴力、経済的暴力、精神的暴力を合わせると70%を超える
*暴力を受けてきた期間
10年以上が30%以上
*暴力を振るう夫の職業
会社員、公務員、教員等、普通の社会的地位を有する者が多い
*暴力時の状況
アルコール、ギャンブル、薬物依存等は半数に満たない
*暴力の内容
傷害を負わせる、殺意を感じるものも
*警察の対応
取り合ってくれない、何もしてくれないが70%以上
*家から避難の状況
実家、知人宅が圧倒的、公的機関利用は3%未満
第2<DVの背景・原因>
*性的役割意識の基本的傾向
「男は仕事、女は家事育児」
*経済的自立の困難
*母子福祉政策の貧困
雇用促進制度
児童扶養手当
保育所整備
公的住宅整備・提供
*バタードウーマン症候群
夫が反省して、もどってきてという。夫の優しいそぶりに今後こそは変わってくれると妻は思いもどる。一時はよいが、また、DVが始まり、前よりひどいけがを負う。暴力のサイクルから抜け出せなくなっている状況。
第3<対策の方向性>
Ⅰ離婚後の生活再建
*養育費支払いが確保されない現状があります。
例えば、国が一括して養育費を支給し、その後夫に国が支払い分を夫に請求していく形で実効性が担保できます。
*避難してもその時の生活資金に困ります。
一時金を得られる仕組みが必要です。
*保険証、銀行引きおろしの形の配慮
保険証使用、銀行引きおろしから、居場所が夫に探知される危険性があり、それらを使えない現状があります。
*生活保護申請
証明書類がそろい辛い状況があります。
親族間保護ができるということの理由や、離婚調停などに至っていない場合夫がいることで、受給できない。
*公的住宅整備・提供
*保育所整備
*離婚後の就職の壁
雇用促進制度 雇う側も雇われる側も利用しやすい制度設計を。
Ⅱ援助システムの整備
*緊急一時避難所(公的シェルター)の設置を増加させる必要があります。
*母子支援生活支援施設の充実
ケースワーカーを非常勤よりは、きちんと配置し、かつその専門性を高める必要があります。
*相談体制
24時間相談を受け付けることができる機関が少ない。
あったとしても、広報が十分でない。必要とされるひとにしられていない。
Ⅲ医療機関との連携
*医療機関での早期発見とその後の連携体制
例えば、応急診療所でも対応できる体制整備と司法との連携
実際に、私は、某所応急診療所で、DVの患者診療の経験があり、対応整備の必要性を強く感じました。
以上