「中央区を、子育て日本一の区へ」こども元気クリニック・病児保育室  小児科医 小坂和輝のblog

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子どもをB型肝炎・肝がんから守る:B型肝炎ワクチン定期接種化を怠る立法不作為に司法手続きに則った訴え

2012-06-23 23:00:00 | 小児医療
 6/23は、“葛飾の闘う小児科医”(小坂が勝手に命名、本人承諾なし)松永貞一先生らが主催する感染免疫懇話会が開催され、私も参加してきました。

 成人及び小児領域の肝炎治療で日本をリードする講師からの貴重なご講演、その後の意見交換会を通じ、強く感じたことのひとつは、早く日本もB型肝炎ウイルスワクチンを定期接種に取り入れることの必要性でした。

 B型肝炎は、血液を介して、また、性交渉から、それだけでなく、汗・涙・よだれ・尿などにもウイルスが検出され、その濃厚な接触からも感染することが考えられます。
 講師の乾先生らのグループは、実験によりその証明をされています。近々欧米の医学雑誌に掲載予定とのこと。

 そしてB型肝炎は、最悪肝硬変、肝がんへと経過をたどっていきます。

 B型肝炎ウイルスワクチンは、肝がんを予防するワクチンです。


 B型肝炎ウイルスの定期予防接種化は、何度も何度も、小児科医を中心に提言されているところです。


 定期接種化の立法措置を取らないという立法不作為は、国の怠慢ではないかとさえ考えられます。
 世界では定期接種化として組み入れられ、組み入れることをWHOも提言している中、この潮流から大きく後れをとって、この不作為を続け、結果、子ども達をB型肝炎感染のリスクにさらし続けることに対し、それでも動かないというのであれば、司法手続きに則った法的手段で訴えるのもひとつの手段ではないかと思われます。


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 第52回 感染・免疫懇話会 講演会 
 
 4月のこの会では、C型肝炎を東大医科研の加藤直也准教 授にお話いただきました。とても素晴らしい御講演でした。本当は、欲張ってその日に B型 肝炎もお話いただこうと考えていたのです。しかし、事前に予習の積りで聴講に行った薬剤師会での加藤先生の1時間半のB肝とC肝の両方を講じた 講 演を拝聴し、単細胞な頭の僕は、B肝とC肝が入り混じり混乱してしまったのです。そして、内容自体も濃かったので、これは2回に分けたほ うが 良い だろうと考え、まずはC肝だけをお話いただいたという経緯と 内部事情がありました。そこで、今度は、B型肝炎についてお話いただくと いう事になり ました。最近、B型肝炎を巡る状況は大きく変化してきているように思えます。特に、小児科領域では、幼少時からB型肝炎ワクチンを 開始し よう とい う考え方が話題となっています。これは国民全員にHBVワ クチンの接種を行おうという動きで、約170カ国で採用され、WHOはこれをユニバーサ ルワクチンと呼んで推奨しています。しかし、先進国でもこれを導入していない国が日本を始め幾つかあります。日本は1985年6月から 「B型 肝炎 母子感染防止事業」に基づく「母子垂直感染予防プログラム」が実施されており、このプログラムの徹底のほうが大事ではないかという意見もあるようです。事実、16歳初回献血者のHBs抗 原陽性率の調査をしている茨城県、栃木県、東京都、神奈川県および福岡県の1都4県では16歳 初 回献 血者 のHBs抗原陽性率は、1995年から直線的に低下し、2003年 にはゼロとなっています。その後、遺伝子型が検索されるようになってくると、最近は、もともと日本に多かったのはジェノタイプのCやBが減って欧米型のAの占 める割合が増えてきて首都圏ではなんとこれが70%を占め るよ うに なっているとのことです。このため、成人のB型肝炎を治療されている内科の先生の中には、B型肝炎=性病と捉え、肝を見たらHIV検 査も必ずする という先生もおられるようです。ユニバーサルワクチンも必要だが性教育も大事ではないのだろうかと考えてしまう今日この頃です。このように、 B型 肝炎という同じ病気が内科と小児科では受け取られ方がかなり違うように思われます。そこで、今回は、内科からと小児科からそれそれB型肝炎では本 邦の第一人者とされちる2人の先生をお招きB型肝炎を皆さんと一緒に考えてみたいと思います。入場無料。今回も、講演会の後、講師を囲ん での 会費 制の食事会を企画しております。これも誰でも参加できます。参加をお考えの方は、(松永)までFAXで 事前連絡をいただ ければ幸いです。(文責:松永)


B型肝炎の最近の話題
最新の治療・ユニヴァーサルワクチネーション・性病としてのB肝  etc 

子どもに関して 済生会横浜東部病院こどもセンター          乾あやの先生 
大人に関して  東京大学医科学研究所 疾患制御ゲノム医学ユニット  加藤直也先生

平成24年6月23日 土曜 午後5時~ (今回は午後5 時です!)
会場 葛飾区医師会館 3階 講堂
東京都葛飾区立石5-15-12


B型肝炎はコントロール可能な病気になったのか?
-抗ウイルス薬の効能と限界-

東京大学医科学研究所 疾患制御ゲノム医学ユニット 特任准教授
加藤直也

 私が外来診療を始めた頃、B型慢性肝炎の診療では大変に 困らされました。活動性のB型慢性肝炎患者のトランスアミナーゼは300以上で 高止 まり しているのに、手持ちの薬剤(ウルソやグリチルリチン製剤である強力ネオミノファーゲンCな ど)ではトランスアミナーゼのコントロールができな かったのです。週2回の外来に来て頂き、その他の日は近医で強ミノCを打って頂き、それでもト ランスアミナーゼは下がらず、急性肝不全になり はし ないかとびくびくしていました。無理矢理入院させて、唯一の抗B型肝炎ウイルス薬であったインターフェロン治療など行ってみましたが、ことごとく 惨敗。それが今はどうでしょうか?核酸アナログ(ラミブジンやエンテカビル)の登場により、風景が完全に変わってしまいました。肝臓内科 医に とっ てB型慢性肝炎は核酸アナログが推奨されていない35歳未満の若年者を除き、3か 月に一度診させてもらえれば大丈夫な病気になりつつあります。と ころがそうは安心させてくれないようです。いまだに無症候性キャリアからの発癌が時に認められるように、コントロール良好と思っていた症例か らの 発癌が認められます。肝炎はコントロール出来ているのにもかかわらず、思ったほど肝癌が減っていない実状が見えてきました。わが国では今でも推定 年間5千人ものB型 肝炎患者が肝癌で亡くなっており、いまだに減る傾向は見当たりません。そのような核酸アナログの問題点が浮き彫りになって きた ところで、B型慢性肝炎に対するペグインターフェロン治療 が承認されました。どうせインターフェロンと同じ?ではなさそうです。
 一方、B型急性肝炎はと言うと、いまだに年間2千人程度が入院加療を受けていると推測されています。20代後半から30代前半 にB型急性肝 炎患 者数のピークがあります。従来欧米型と言われ、日本人ではHBVキャ リアの2%程度と推測され、感染者の10%程度が慢性化すると言われている ジェノタイプAが、都会の急性肝炎では今や70% を超えます。その感染経路は80%以上が性的接触です。ユニバーサルワク チネーションの 導入 が望 ましいと考えますが、今後ユニバーサルワクチネーションが導入されても取り残されるであろうハイリスク群のワクシネーションの推進が先決課題かも知れません。
 最新のトピックスを交え、乾先生と共にB型肝炎について もう一度考える機会を皆様にご提供出来れば、演者として望外の喜びです。

*****

もう一度考えてみませんか?-B型肝炎のことー
世界の現状そして日本の立ち位置

済生会横浜市東部病院 こどもセンター 肝臓・消化器部門部長
乾あやの

 わが国ではHBe抗原陽性のキャリアから3歳以下にB型肝炎ウイル ス(以下、HBVと略)の暴露をうけるとその多く(母 子垂直感染では 80%以 上)が キャリア化し、それ以外の状況では、急性肝炎あるいは劇症肝炎を含む一過性感染が約10%に みられます。近年の研究からHBV感染が成立し た場合、たとえ急性肝炎で治癒し、HBs抗体を獲得しても生涯肝細胞からHBV DNAは排除されないことも判明しました。
 WHOの報告によると、世界中に3億6千万人のHBVのキャリアが存在し、肝硬変・肝癌の危険にさらされ、年間50-70万人がHBV 関 連 疾患 で死亡しています。またHBVの感染者は実に20億人ともいわれています。1992年 にWHOは1997年までに世界中の全出生児を対象にHBワ クチンを接種すべきと勧告した(universalvaccination)にもかかわらず、この目標が到達 されていないともコメントしています。これを踏まえ、WHOはB型肝炎は予防法がほぼ確立してい る重大疾病であり、2010年を目標に各国が国民の90%にHBワクチンの定期接種をするように勧告しています。さらに、わが国が属している WHO西太平洋地域では2011年 に”Knock down Hepatitis B by 2012”と いうスローガンをかかげ新生児からのHBワクチンの徹底を呼び掛けていま す。2008年の時点でWHO加 盟国の約90%(193か国のうちの 177か国)が接種率は 異なるもののuniversalvaccinationを採用しています。現時点で、わが国はuniversal vaccinationをおこなっていない数少ない国です。Universal vaccination導入には必ず「費用対効果」が重きを置かれます。しかし、「費用対効果」には、①入院・診療・薬剤・ワクチンなどの直接費用、②疾病に罹患したために発生する診療費以外の間接費用(治療による社会的生産性の低下、合併症に対する費用;肝癌に対する化学療法費用や移植 費用 な ど)、③無 形費用(差別などによる患家の苦痛、家族生活の破たん)などがあり、これらをどこまで算定するかは容易ではありません。
 わが国では旧厚生省によるB型肝炎母子感染防止事業によ り小児期のHBVキャリアは10分 の1以上に激減しました。一方、社会環境の変化、 HBV母子感染予防の重要性の風化、などにより母子感染防止の不徹 底が目立っています。その原因の一つには煩雑な接種方法と検査があります。ま た、母親以外のHBVスクリーニングは行われておらず、わが国でのHBVキャリアの把握は献血者からの推測でしかありません。HBVは涙や汗、唾 液にも血液濃度と同等に存在し、感染力があることを私たちは証明しました。母親以外の家族内での感染、集団生活での感染などの水平感染につい ては 野放し状態です。
 B型肝炎は肝硬変・肝癌・劇症肝炎の原因となる得るウイ ルスであり、HBワクチンは世界初の癌予防ワクチンです。乳幼児期のHBs抗体 獲得 率は成人に比べて高いです。現行の母子感染防止プロトコールを完遂するとともに、医学的のみならず、グローバルな観点(接種率を80%以上にして疾患を撲滅するという集団免疫)からuniversal vaccinationの 導入を検討する必要があります。

(カリキュラムコード 2、11、15、27、73)
    感染・免疫懇話集談会/葛飾区医師会
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