北の心の開拓記  [小松正明ブログ]

 日々の暮らしの中には、きらりと輝く希望の物語があるはず。生涯学習的生き方の実践のつもりです。

渋沢栄一氏が新紙幣に ~ 「論語と算盤」と二宮尊徳と

2019-04-09 23:55:55 | Weblog

 

 日本の紙幣が新しいものに変わるそうです。

 実際に新紙幣が出回るのは数年後のことのようですが、新たな年号の発表と合わせたように紙幣も刷新されるというのは、新しい時代が来る期待を強めそうです。

 特に、新しい紙幣に描かれる人物は、一万円札が渋沢栄一、五千円札が津田梅子、千円札が北里柴三郎となるそうで、それぞれを縁にしたブームも起きそうです。

 私が特に注目したいのは、一万円札の渋沢栄一さんです。

 彼が選ばれた意義を「近代資本主義の創始者」というような言い方をして、明治から昭和に至るまでの間、実に多くの企業を立ち上げたことを称賛する記事が多いようですが、私は利益最優先に凝り固まった現代資本主義へのアンチテーゼとして見るべきではないか、と思います。

 彼のもっとも有名な著書は「論語と算盤」で、その大要は「(論語で)人格を磨き、(算盤で)起こした経済を社会に有意義な使い方をせよ」ということに尽きるでしょう。

 この思想の元は、私も掛川で学んだ二宮尊徳さんの報徳思想に極めて近いものがあります。

 報徳思想では『道徳と経済』という言い方をして、実際に掛川にある大日本報徳社の大講堂の前には『道徳門』と『経済門』という二つの門があります。

 そして『経済なき道徳は寝言であり、道徳なき経済は犯罪である』という教えが伝わっています。

 二宮尊徳と言い、渋沢栄一と言い、ある時代にときどき「経済は大事だがもうけすぎてはいけない。経済を生かすためにも自分自身の人格形成を大切にせよ」という声が沸き上がるのですが、いつしかそれもまた「やはり儲からなくてはだめだ」という経済至上主義にとって代わられてしまうことが繰り返されています。

 GAFAの独占的な儲かり方や、カルロス・ゴーンさんの事件をみても、経済と道徳のバランスを改めて大事にしたいものです。


    ◆


 家にあった「論語と算盤」を取り出してきました。

 この中に、渋沢栄一と二宮尊徳の教えが交差する場面があります。

 それは、かつて二宮尊徳先生の弟子がその教えを福島県の相馬藩へ持ち帰って、相馬藩興国安民法として地域づくりを行っていたのですが、それが明治新政府によって廃止されようとしているという事案でした。

 相馬藩の重臣が西郷隆盛を訪ねて、この興国安民法を廃止しないでもらいたいと陳情したのですが、その西郷が「今の新政府の面々では自分が主張しても聞いてもらえないかもしれないので、渋沢さんから訴えてもらえないか」と相談に来たというのです。

 渋沢が、「話の趣旨は分かったが、では西郷さんあなたはその相馬藩の興国安民法がどんなものかご存知か?」と尋ねると、西郷は「いや存ぜぬ」という。

「やれやれ、相馬藩の興国安民法というものは…」と渋沢は西郷に興国安民法について説明をして、さらに「そのように、相馬の興国安民法が続けば相馬一藩は今後ますます繁盛するであろう。しかし西郷参議ともあれば、我が国の興国安民法をいかにすべきかについてご賢慮が必要ではないか」と説教までかましています。

 渋沢と西郷のエピソードはそれで終わっていますが、その感想として彼は「維新の豪傑の中で、知らざるを知らずとして全く虚飾のない人物は実に西郷殿で、まことに敬仰に堪えぬ人物であったなあ」と書いています。

 「令和」で万葉集が売れているように、渋沢栄一氏が注目を浴びたことで、「論語と算盤」も売れるでしょう。

 この機会に、まさに今日の『儲け過ぎ資本主義』に対する彼の思想哲学を学んでみてはいかがでしょうか。

コメント
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