京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

 街の匂い

2013年09月05日 | 映画・観劇
映画をみ終え、地上に出たところが四条烏丸の南西角。信号待ちをしながら、また歩きだしてから、街の匂いがすっかり変わっているのを感じていた。縦横に通りを吹き抜けていく風が心地よい。背中に浴びる陽が、ピンポイントでブラウスを通して肌に焼きつく強さであっても、確かな季節の移ろいが感じられる。流れる空気には一瞬の冷やかさが含まれていた。


「クロワッサンで朝食を」をみてきた。85歳になるジャンヌ・モロー演じるフリーダ、自由奔放に生きてきたがゆえに周囲とは軋轢が生じ、老いても歯に衣着せない物言いはまことに辛辣だ。パリの高級アパートでひとり暮らしていても、親しく心通わす相手がいないことには観ていて孤独さがつのってくる。家政婦としてやってきたアンヌにやがては心を開いていく…のだろうか。
息子ほど年が離れたステファンをずっと心の支えにし、愛した思い出を大事にしているフリーダ。

自分に視線を向けてもらおうと常に自分の魅力を磨いているのがフランス人女性だと、昔、何かで読んだことがある。
フリーダには、自分がいつも主役。その場で一番美しい女性であるかのような振る舞いも、周囲の人間の思惑などお構いなし。それでも、アンナと二人でお洒落をして、愛しいステファンのいるカフェに出向く彼女は素敵だった。そんな彼女に「いつもあなたを中心に世界は回らない」と言ったステファンの言葉は、まさにズバリなのだが、残酷だ。彼女は不快さをむき出しにしていた。

このまま孤独なさびしい老女で終わって終うのか…。アンナに心を寄せる姿が描かれていく。「ここはあなたの家よ」、この言葉に二人のそれからを予感し託したい。フリーダには演じる女優の実年齢がそのまま出ているが、少しも嫌みではない。

エッフェル塔を前に、パリの街に訪れた朝焼けが美しかった。
ステファンに寄り添って眠るフリーダがとても安らかに見えた。素直だな…とも。
コメント (10)
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