京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

遅まきながら

2017年03月27日 | こんな本も読んでみた

2月19日に亡くなられた林京子さん。追悼文を読んだのをきっかけに、『長い時間をかけた人間の経験』と『希望』の2作品を読んでみた。

五十有余年の長い時間を被爆者として生きてきた経験。被爆死した同級生たち、恩師たち、生き残って原爆病と闘いながら無念の内に亡くなっていった被爆者たちへの鎮魂。
「国連軍縮長崎会議」参加のために日本を訪れた23か国の代表者たちが原爆資料館を訪れた。その時のパキスタン外務省軍縮担当局長・シャバス氏の言葉が引用されている。「あの時に何があったかよくわかった。あってはならないこと。インドが核を持ったので私たちも自衛のために持たざるを得なかったが、インドとパキスタン両国は政策を変えなければならない」。一方、インドのサビトリ・クナディ氏の言葉としては、こうある。「五大国に核を独占させてはいけない。どの国も核保有しないことこそ、本当に安全な世界を実現できる」。

S氏の言葉をもって作者は、核のない世界へ希望をつないでいるように思えた。33カ所の札所を巡り終え、自分が幸せだった子供のころと変わらない風景が眼前にあることを記して終わる。

以前、大庭みな子の『地獄の配膳』を読んだことがあった。広島に移住して間もなく、14歳の女学生だった作者は原爆後の救援に動員された。その時の壮絶な体験が記された短い作品だが、描かれた様子には息をするのを忘れてしまう、と言っても決してオーバーではないほどの衝撃を受けたのを覚えている。戦争や原爆にまつわる作品を読むということをしないできたから、なおさら印象は強烈だったのだろう。昨年は、戦争体験者のお話を聞く機会にも何度か足を運んだりもして、遅まきながら、まずは知ることだと思いを改めている。

『希望』の末文にあった〈一人で頑張ることはないんだよ。一緒に歩いていこう〉の言葉には、熱い思いが満ちてきて、眠気が飛ばされた。
睡眠不足に、「寝る前に読む本じゃない」と言われて…。
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柳が芽ぐむ

2017年03月25日 | こんなところ訪ねて

昨日、猿沢の池のほとりを五重塔を観ながら歩きました。
若い頃に母と二人で奈良・京都を旅行して、宿をとったのはこの付近でした。東京で生まれ育った母ですが、学生時代に猿沢の池で膝小僧にケガをした、とよく口にしていました。巡らされてあった鎖を跨ぎ損ねたのがケガのもとだったとか。ここに来るたびに思い出すことです。

芽吹く柳の芽。位置によっては、浅緑のすだれ越しに五重塔が眺められます。僧正遍照の歌ではありませんが、「柳の糸」とはまたまた美しく讃えられたものです。「萩の錦」「紅葉の錦」…、緑と紅があわさっての「錦」。間もなく京も〈見渡せば柳桜をこきまぜて都は春の錦〉となっていきます。
小さな孫たちとどこでお花見をしましょう。
今日も風が冷たいです。
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阿修羅・興福寺国宝特別公開 

2017年03月24日 | 展覧会

昨夜、NHKで「阿修羅1300年の新事実」が放映された。ご覧の方も多くおいででしたでしょう。
矢も楯もたまらなくなって、興福寺仮講堂で公開中の「阿修羅 天平乾漆群像展」を拝観に出掛けることにした。この群像での展示は前期のみ〈3月15日~6月18日〉だそうな。そのうち、の予定を大幅に繰り上げた。

阿修羅はインド神話に登場する戦闘の神で、仏教に帰依してその守護神となった。三十三間堂の阿修羅像に見られる闘い、怒りの顔が番組内で紹介されていたが、興福寺の像にはそういった怒りや激しさが見られず、繊細で内面的で、少年のような姿で現されている。
阿修羅像、八部衆像、十大弟子像、金剛力士像、四天王像、等々、仮講堂内部の群像配置は下図のようになる。


734年に不比等の娘・光明皇后によって建立された西金堂は、1717年に焼失。今回、その旧西金堂の内陣を意識した形での群像安置になるそうだ。


                                                     (テレビ映像)
1歳に満たないわが子を亡くした光明皇后は、6年後に像を作らせているが、〈八部衆像にわが子の成長を重ねて見ているのではないか〉と推し量っている。仏教の功徳で国を守ろうとした聖武天皇、皇后は庶民の心身の癒しを福祉の面で救い上げようとする人だった。〈苦しい時代を生き抜く人たちを励ますには、強く、荒ぶる神が合掌する姿は最大の祈りの形であった〉と番組では解説されていた。
       
      発願者・光明皇后の心に思いを馳せながら、同性として、1300年の時を超えた親交、心交??で、八部衆像の顔だち、表情をとくと拝観した。国宝群が一堂に会した、貴く静謐な、それでいて気に満ちた空間だった、ような。今後、拝観のためには長い列を作りそうな予感が…。


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目が覚める

2017年03月21日 | 日々の暮らしの中で

『奥の細道』を通読したのは学生時代のことで、以来、必要に応じての拾い読みするばかりだった。それがこの1年、光田和伸先生の講義で初めて深く、広く学ぶ機会を得て、その「芭蕉と旅する『おくの細道』ー旅の真実に迫る」も本日が最終の講義となった。

お話を聞きながら、資料を読みながら、メモだけは走り書きであっても取ってきたが、話題は広範囲に及んだ。その時は一つ一つに興味深く耳を傾けるが、頭の中は飽和状態で、歩けていない気がする。通常の読み取りなら市販のもので解釈の助けを得ればよいことなのだ。

〈奥羽北陸の旅を終えた芭蕉は、元禄二年九月から二十五箇月の長期にわたって上方にとどまる〉
日本の古典文学の神髄を庶民にわかる言葉で俳句の中にとかしこもうと、新境地開拓に骨を折る2年間は最も充実した時期で、『猿蓑』につながっていく。今日は、この元禄2年(46歳)を、9月7日から日を追って足跡をたどり、句を読み、…「それからの『おくの細道』」的講義だった。満腹! 消化しきれない。幸いメモだけは、たっぷりなので(あり過ぎるけど)、忘れないうちに整理しておこうかな、と…。

雨が上がった帰り道、冷え込んだ御苑の中を歩いた。来月からは同じく光田先生の「『徒然草』その真実」を受講していくことにした。
新しい見地から読み直す。目が覚める。午後のひと時とはいえ、眠くなるはずもない。これまでも次年度も…。
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彼岸のころ

2017年03月18日 | 日々の暮らしの中で

親しくお付き合いのある知人のお父様が亡くなられた。斎場の都合で葬儀は少し先になるのだとか。
遠方でもあり、手紙を添えてご仏前にお線香を送らせていただくことにした。
東本願寺に近い店で整えていただき、発送。

両親のお墓参りもしなくては…。

   手に持ちて線香売りぬ彼岸道  高浜虚子

お墓参りに向かう人に線香を売る人がいたらしい。
お彼岸どきに残る習俗として、今はどのようなものがあるのかしら。

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頬染めて

2017年03月14日 | 日々の暮らしの中で

低い目線で、見上げるのです。
すると、寄り集まった可憐な小花が小さなお口を開き、楽しそうにしています。
風に揺れるさまは、頬を染めながら少女たちが笑い興じているかのよう。
それを見るのが好きです。馬酔木の花。

       花馬酔木山深ければ紅をさし  福田蓼汀

20日ぶりにウォーキングに出ました。


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はるのかぜ

2017年03月12日 | 日々の暮らしの中で

足先が一晩中冷たくって寝付けなかった。加えて何かゾクゾク寒気がする。節々が痛む。おかしいなあ、熱でもありそうだと思いはしながら起きるのが嫌で、布団にもぐったまま朝(11日)を迎えた。明るくなってきたのを機に体温計を取りに布団から抜け出たわけだが、なんとまあ、8度の熱が出ていた。

風邪をひいたという自覚はない。あえて言うなら10日…。
嵐山に向かう電車の中で隣の席に座った人が大きなくしゃみをした。彼は持っていたパンフレットのような薄い紙のもので前を覆った。ということは脇から漏れ出るものがあるってこと。私は即、息を止めた。しばらく息を止めていたが苦しくなって、そっと気づかれないように大きく息を吸い込んだ。ところに、また、2回目の大きなくしゃみをした。勿論すかさず息を止めた。

あの時だ、なにかもらいもんをしたのは…。電車を降りてからマスクをしたのでは遅かった。あの時、マスクをしてなければならなかったのだ。
どこの誰とも知らない人のせいにして、風邪薬を飲んでうがいをして、昼間は次第に熱も下がり落ち着いていった。今日は平常に戻った。

薬のせいで眠気て眠くて仕方がない。春のような陽気に、家で横になってはウトウト過ごした日曜日でした。少し鼻がぐずぐずするけど、やはり風邪なのでしょうか…。
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「キモノ フォレスト」

2017年03月10日 | こんなところ訪ねて

市営地下鉄東西線の太秦天神川駅で降りて地上に出れば、嵐電(嵐山本線)の乗り場は目の前。
嵐電天神川駅から蚕ノ社、太秦広隆寺、帷子ノ辻、有栖川、車折神社、鹿王院、嵐電嵯峨という名の駅が続いて、嵐山に至る。
久しぶりに嵐山駅に降り立ってびっくり。これは何…?

京友禅の生地をアクリルで包み、高さ約2mのポールにしてある、と。ポールの数は600本。友禅の柄は32種類。「キモノ フォレスト」ということを帰宅後に知って、なるほど~と納得した。
森田恭通氏(妻は大地真央)のデザインによるものだそうだが、LEDが仕込まれているというので、夜間は見ものかも。美しく映えることだろう。


3月も10日だというに寒さに負けて、冬物のコートで外出だった。4月から娘さんが京都で一人暮らしをするという友人と待ち合わせ、どこというあてもなく嵯峨野を散策。冷たい時雨れに合って傘を買う羽目に。案の定、15分もしたらスッキリな空模様だ。

普段使いに、和装のバッグを買ってしまった。15年ほど前になるか、長く愛用していた物と形が似通って、好みの色合いだ。
どちらにしようか鏡に合わせて迷っていると、「こちらの方がたくさん入りますし、これも人気ですよ」と上品な女店主の薦めがあった。けれど、バッグを膨らませていっぱいの荷物を持ち歩くことを好まない性分が決め手になった。無くても間に合うけれど…。まっ、いいか。
以前のものも、この店で買ったかもしれない。
                                                (写真は常寂光寺の山門)
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「LA LA LAND」 ラ・ラ・ランド

2017年03月07日 | 映画・観劇

3日に友人と『ラ・ラ・ランド』を見にいきました。
「本年度アカデミー賞大本命」との呼び声も高かった作品です。まあ、そういうこととは全く別次元で、楽しみ方は個人のものという意味で、大いに楽しんだ作品でした。面白さをどこに見出したか、何に心が動いたか、どこに興味関心を持ったかなどは、全く個人的なものだからです。

夢追い人が集まる街、L.A(ロサンゼルス)。夢の国。
女優になりたいという夢をかなえたミアが歌い上げます。その歌詞に「どうか乾杯を 夢追い人に」という一節がありました。そして、素晴らしいラストでした。
見終わって友人は、「私も夢を持とう」とつぶやいていました…。

「孤独な人生を生ききるには、自分で自分の炭をつぎいれるほかはない」と中里恒子が『花燈篭』の中で書いていたことを思い出しました。
――衰えた人生の火を途中で何度でも継ぎ足して、生き生きといきたい――。
映画の余韻を楽しみながら、この気持ちを少しでも長く維持し続けて、日々の力にしていきたいと思います。もう一度見に行くつもりでいます。


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「三月の声のかかりし」

2017年03月01日 | 日々の暮らしの中で

2月末をもってとりあえず課題を仕上げ、長く途絶えたブログを開く余裕が生まれました。
時間は絶え間なく経過、たちまち締切日は来てしまいました。
「何歳になっても学び続けること、磨き続けること。生まれ持った才能は問わない。ひたすら素直に、まじめに、一つのことをやり続けること。これが何の道においても成就のコツなんですね」。91歳でも育ちざかりだった清川妙さんの、優しい言葉での語りかけに力づけられて。

解放されて、気が抜けてしまったような一日。
とり散らかした机の周辺を片付けて、取り出しては積み重ねたままにした本も元に戻して…で、気持ちの切り替えです。今日から三月。

飢餓地獄がこの世に起きている一方で、美食やグルメ雑誌が氾濫。そんなに美味しいものを食べて、みんな幸せになれたのか。「うまい~」「おいしいィ~~」などとぱくつく姿を見るのは好きではありませんが、あっちでもこっちでも。

新書の帯に書かれた「グルメ自慢はおよしなさい」の言葉と、品のある優しそうな表情をした岩下尚文さんの写真に惹かれ、思わず手に取りました。かつて木内昇の『漂砂のうたう』を読んで、登場人物の一人、ポン太のイメージがテレビ画面を通して見知った氏に重なってなりませんでした。ふらりと入った書店で、『大人のお作法』(インターナショナル新書)と題した一冊を購入して帰りました。

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