京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

 「地球交響曲 第八番」

2015年08月30日 | 映画・観劇

誘っていただいたことで龍村仁監督によるシリーズ作品「地球交響曲 第八番」を見る機会を得た。八作目で初めてになる。

奈良県吉野にある天河大辨財天社の宝物庫に600年間眠り続けてきた能面「阿古父尉(あこぶじょう)」の写しが新たに打たれることで蘇っていく。
この能面のことをどこかで聞いたような気がすると思い始めた。何かで読んだのかもしれない…。気になって、帰宅してからずっと探していた。あったのだ。白洲正子の『夕顔』に収められている「石押分之子(いわおしわくのこ)の神語り」というエッセイにあるのを見つけた。

戦後間もない頃、古い能面を探して天川あたりを当てどもなくうろついていたことが記されている。
ー古びた弁天様の社で、何十年も何百年も日の目を見ていないような室町時代のものと思える能面や装束がみかん箱のようなものに押し込められてあった。その中から、観世十郎元雅の銘のある「尉」を発見した時は涙もこぼれんばかりに感動した。吉野の山びとの顔をしていたーなどと。

歌人、前登志夫の『森の時間』の話題に多くが割かれているこのエッセイだが、そこから「大いなる生命の再生」「神の言葉を聴く」といった言葉を借りると、「第八番」の世界と通じ合うものを感じる。ただ、「神の言葉を聴く」のは「純な心の持主だけが」と言葉が付されている。
映画は「宇宙の声が聴こえますか」と問いかけてくるのです…。
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 露草に似て…

2015年08月25日 | 日々の暮らしの中で

いつのまにか勢いよくはびこってしまった裏の露草を、朝早いうちに引き抜くことにした。茎は高く立ちあがり葉も伸びて、一面の緑の分量からすればもう草むらとなんら変わりがない。けれど、そこに咲いた小さな花の造形美に、鮮やかな青色も魅力だ。まして露などをつけてはいっそう愛らしい。地面が湿っていて事ははかどるのだが全滅させてしまうには忍びなく、花つきのものは残すことにした。

午後7時半、東横線が不通だとニュースで聞いたので、親切にも息子にメールでお邪魔をしたところ、まだ撮影中だったらしく知らなかったという。渋谷から数駅のところだから、なんとでもするだろうが、こんなことでもきっかけに少しのやりとりを期待してはいるのだ。「ありがとう」と返ってきた。
人の心の変わりやすさ…。息子の気まぐれにも、つかのま何やらほっとしている。

強かった風はようやく落ち着いたが、時折激しく雨音を立てている。
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 「心をとらえる色」

2015年08月20日 | 日々の暮らしの中で

図書館の入口へと向かって歩いていたとき、丁寧に呼び止められて、「あの白い花の名前はなんていうのですか」と尋ねられた。ちょうど見ながら通り過ぎた直後だったから、男性がどの花をさして言っているのかは察することができた。

訪れるたびに見かけるこの花の美しさに感じ入ったのだろうか。花の底の紅、きめ細やかな美しさをたたえる花を、単に「白い花」とだけでは片付けたくない。名前を知りたいと思うのが、人の常なのだろう。名もない花などないと言うようだが、花に限らず何にでも名前が付いている。
とりわけ白い花が好きな私のひいき目かもしれないが、純白の木槿には気品がある。もっとも、そろそろ花期も終わりに近付いているので、今、花の美の質そのものは落ちていると思うけれど…。とは言え、その時々の美しさを見て取りたいと思う。

「ムクゲ、ですか?」と返された。図書館の近くに咲いていた白い花、名前を覚えてくれたらいいのにな。

きらびやかでも、目を射るほど鮮やかでも、「心を染めるにおい立つ色合い」とはならないようだ。「色は心を染め、ひたし、しみ入る力のあるもの」と篠田桃紅さんが書かれていた。


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 訪れる人もなく

2015年08月18日 | 日々の暮らしの中で

五山の送り火には、本来の魂送りとしての宗教行事の意味合いを強く感じているが、浄土真宗では迎え火を焚くこともないので、送り火の習慣もない。ご先祖様があの世とこの世を行ったり来たりの考え方もないわけだけれど、心情的には、亡くなった近かった者たちを身近に感じて過ごしていた。

帰省したからと報告を兼ねて寺に立ち寄られる人も絶えた。行事ごとから人がひいた「とき」もまたよいもので、こうした後の時間を愉しむことで人心地を取り戻す。落ち着いて日常に戻ろう、9月までの2週間余りを無駄にすまいと気持ちを向けている。

昨日今日と、半月ぶりのウォーキングに出た。祖霊を迎える灯火となる鬼灯が地蔵さんにたくさん供えられていた。地蔵盆も控えている。洗い物などに子どもたちの声が大きくなるのも近い。これが終われば、いよいよ夏休みも終盤。
一つ一つ行事ごとをこなしながら季節は巡っていく。
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 いのちはつながって

2015年08月12日 | 日々の暮らしの中で

義妹から電話がかかってきて、娘に女の子が生まれたと言う。難産だったらしいが順調で、14日には退院の予定だという。
夏の風物詩ともなった下賀茂神社糺の森での古書市から帰って汗を流し、ひと息つきながら買ってきた本を開き、初めてページが開かれるのではないのかと感じるような「ふるほん」に一人にんまり、満足の笑みを浮かべてくつろいでいたときである。

三人娘の末っ子で、すぐ上の姉とは5歳離れて生まれている。「伯母ちゃん、お父さんは私が男の子だったらいいって思っていたんだって」、と本人が言うが、父親は自分の仕事を継いでほしいと、文香と命名。
三人の娘を育てた義妹に、初孫もやはり女の子だった。「なんとなく女の子ぽかったでしょ?」と。
弟が55歳で急逝して今年で8年に。実家に戻っての出産とあって、赤ちゃんの泣き声が加わる賑やかな良いお盆を迎えることだろうと嬉しく思っている。

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 「手仕事の喜び」

2015年08月10日 | 日々の暮らしの中で

中里恒子に「仕事の楽しみ」というとても短いエッセイがある。

料理に裁縫、刺繍、編み物、その他家事一般、女の手仕事と言えば手と心をわずらわさぬものはなく、時間がかかり根気もいる労力だが、そんな中にも「女の心の深さや、可憐さや、忍耐や、性情を感じ」て、楽しまずにはいられないとある。不機嫌だったり、イライラしたり泣いたりしていてできるものではない。「自分の心が静かな、やわらかい愛情で満たされて」、心がそこにあれば、喜びが生まれる。廃物利用も、継ぎはぎもすべて幸福なのだ。「女の手仕事の喜びは、女の生活の象徴であると言える」、と。

修理がきくのか、新調しなくてはならないのか。ふっと思いついて出してみたミシンの調子が悪い。さて、とそれから長いこと思案が続いているわけだが、こんな文章に触れて、思い切って新調してしまおうかと思ってみたりする。電源を入れても、その動力が伝わらないと言うか、動きが悪い。修理できるものなら最後まで使い切りたいと一方で思う。何が問題なのか。自分がさっと行動すればいいだけのこととわかっている。
使わないときには押し入れの中で眠ったままなのに、降ってわいたように心が向かう思いがけない時は起こるもの。にわかに気持ちが揺り動かされた。

先月『時雨の記』を読んだその続きでエッセイ集を手にしているのだが、小説の女主人公・多江像がより立体的になるようでもあって楽しくなってくる。
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 暑い日に「日本のいちばん長い日」

2015年08月08日 | 映画・観劇

「毎年のことながら八月を迎えると、八月十五日の日本降伏を告げる天皇放送の日のことが思い出される。もう我々に明日の希望はないんだと、中学三年にして生まれてはじめて煙草を吸った。…」
「ときの鈴木貫太郎内閣の、ちょっと遅すぎたキライはあるが、とにかくポツダム宣言受諾はお手柄であった」
などと、半藤一利氏が歴史エッセイに書かれていた。

映画「日本のいちばん長い日」(原作は半藤一利著「日本のいちばん長い日 決定版」)
戦争の終結に向けて、天皇の玉音音放送が流されるまで。さまざまな立場での人間がよく描かれていると思った。もっとも、知らない事(人物)が多く、終戦に向かういきさつでも初めて知ることばかりだった。これから多くの方が観られるだろうと思うので、そのお邪魔にならないように…。

友人と一緒に映画を見て、お昼をいただいてから四条通に出た。歩道拡張工事に伴う渋滞が大きな問題をよんでいるが、広くなった歩道も大半に日差しが照りつける。強い照り返し、車の排気ガス…、市内38度を記録した今日だったが、まあまあなんとも言えない熱風地獄にめまいがしそうだった。炎天下久しぶりに街歩きをしたせいか。それともお昼のビールのせいなのか、ふらふらしながら地下道に入ってセーフ! 

友人は芥川賞作品を読むためにと文芸春秋を購入。いずれ貸していただくことになる。『abサンゴ』が掲載された同誌をちがう友人から回してもらったことがあったが、結局読まなかった。『火花』にもあまり興味はないのだが、気が変わるかしら。
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 大塔の風鐸

2015年08月05日 | 講座・講演

ぼんやりと夕焼けの空の色に見惚れながら、暑かった一日が終わっていくのを感じている。今日もまた37度を記録した。

夏季大学二日目、午後からの開講までは壇上伽藍や霊宝館を見学して回っていた。根本大塔内部の立体曼陀羅を拝観しながら、こっそり背中を流れる汗をぬぐう。すずしい風が通り抜けるのが感じられるようになった頃、また外へ。中門、金堂、荒行経蔵と回りながら、果たして根本大塔の風鐸は鳴るか!? と耳だけは傾けていたのだったが…。昼下がりの炎暑の中で、そよりともせず!

夕食後7時を回って再度、ライトアップされた大塔を訪れてみた。
けばけばしい朱塗りの鮮やかさが自分の好みではなく感じていたが、飽きることなく仰ぎ見るようになった。
九輪の宝珠が天上にそびえ、風鐸が吊り下げられている。その風鐸が「あるかないかの風に吹かれて、清らかな音をふりこぼす」(寂聴さん)のを聞いてみたい。
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 暑い高野山でした

2015年08月03日 | 講座・講演

第91回高野山夏季大学開講式を終えた直後の「笑いはこころのビタミン」と題した桂文枝さんの講演は、和やかな笑いにつつまれ緊張がほぐれる時間になりました。面白い、これはわかっている?ことでしたが、やはり面白おかしく上手な話ぶりです。笑いを誘うに計ったような間のとりかた、展開、構成、それがまた面白く思えます。「笑いは気の薬」、大いに笑って泣いて感情を発散させストレスをためない。これが身体によいのであって、パワーが人間の生命を燃やしてくるのです、とお話でした。

二日目には、元NHKアアナウンサーで知られる山根基世さんが、「ことばを学び、自分のことばで考えることが話せる、考えを伝えられる子供を育てたい」と朗読の活動に力を入れてることをお話でした。
ことばで思いを表現できない、ことばの力が欠落した子供が増えている。日々の暮らしの中で、すぐ隣にあることばを学ぶことが必要なのに、今は家や学校、それ以上に地域も崩壊していて、異年齢の多様な大人のことばを「聴いて」、真似て、学んでいく場がない。ことばを知ることは、人間を知ること。そういう場となる朗読の活動の輪を広げていきたいと。
知識はしゃべり、知恵は聴く。聴くことは謙虚さの表れであり、大切な言葉の力に数えるべきだと考えておられるのです。

そして、戦争で孤児となり、日雇労働者として働き続けて作った2800万円で「銀の雫文芸賞」を創設した雫石とみさんの生涯を紹介されました。日雇いの劣悪な環境下で渦巻く思いをことばに出せないでいたが、それでは生きていけないと日記をつけ出したとみさん。著書『荒野に叫ぶ声』。書くことで、ものを考えるようになり、振り返り、行く末への祈りも生まれてきた、と。山根さん自身が、86歳のとみさんに取材しテレビ放映を企画。大きな反響があったことを添えられました。

品格を疑いたくなるような講演もあれば、「華やかな共演者」の顔をつぎつぎにビデオで登場させ、『紀の川』のワンシーンの朗読とその場面の映像で講演とされた女優さん。エピソードを話してくれるでもなく、自分のひいきが作ってくれたというビデオのナレーションをなぞるだけのような原稿をみながらの話を少し…。昨年の佐久間良子さんに続き、もう女優の登場など結構だと思うのでありました~。

 

最終日を迎えた朝、5時半過ぎからゆっくり大門に一人向かいました。東西に広がる高野山の総門で、この西の入り口へは宿坊から15分ほど。
驚いたことに、ちょうど門が額縁となって東の空に太陽が顔を見せました。時折雲間に隠れるのですが東の空は明るさを増していき、高野の町並みは静かなたたずまいですが、坊内では多くの僧侶が動き出しているに違いありません。私にとって一年の始まりかな…と思えるような瞬間でした。

帰りの車中で隣り合わせた高齢の女性と話が弾み、「沢山のエネルギーをもらっているの。もったいないから浪費したらダメよ」のことばをいただきました。「お別れを言いに来たんだけど、また来れそうな気がすする」と。来年もお会いできますようにと別れましたが、いろいろなつながりに縁さえ感じる出会いでした。
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