第91回高野山夏季大学開講式を終えた直後の「笑いはこころのビタミン」と題した桂文枝さんの講演は、和やかな笑いにつつまれ緊張がほぐれる時間になりました。面白い、これはわかっている?ことでしたが、やはり面白おかしく上手な話ぶりです。笑いを誘うに計ったような間のとりかた、展開、構成、それがまた面白く思えます。「笑いは気の薬」、大いに笑って泣いて感情を発散させストレスをためない。これが身体によいのであって、パワーが人間の生命を燃やしてくるのです、とお話でした。
二日目には、元NHKアアナウンサーで知られる山根基世さんが、「ことばを学び、自分のことばで考えることが話せる、考えを伝えられる子供を育てたい」と朗読の活動に力を入れてることをお話でした。
ことばで思いを表現できない、ことばの力が欠落した子供が増えている。日々の暮らしの中で、すぐ隣にあることばを学ぶことが必要なのに、今は家や学校、それ以上に地域も崩壊していて、異年齢の多様な大人のことばを「聴いて」、真似て、学んでいく場がない。ことばを知ることは、人間を知ること。そういう場となる朗読の活動の輪を広げていきたいと。
知識はしゃべり、知恵は聴く。聴くことは謙虚さの表れであり、大切な言葉の力に数えるべきだと考えておられるのです。
そして、戦争で孤児となり、日雇労働者として働き続けて作った2800万円で
「銀の雫文芸賞」を創設した雫石とみさんの生涯を紹介されました。日雇いの劣悪な環境下で渦巻く思いをことばに出せないでいたが、それでは生きていけないと日記をつけ出したとみさん。著書『荒野に叫ぶ声』。書くことで、ものを考えるようになり、振り返り、行く末への祈りも生まれてきた、と。山根さん自身が、86歳のとみさんに取材しテレビ放映を企画。大きな反響があったことを添えられました。
品格を疑いたくなるような講演もあれば、「華やかな共演者」の顔をつぎつぎにビデオで登場させ、『紀の川』のワンシーンの朗読とその場面の映像で講演とされた女優さん。エピソードを話してくれるでもなく、自分のひいきが作ってくれたというビデオのナレーションをなぞるだけのような原稿をみながらの話を少し…。昨年の佐久間良子さんに続き、もう女優の登場など結構だと思うのでありました~。
最終日を迎えた朝、5時半過ぎからゆっくり大門に一人向かいました。東西に広がる高野山の総門で、この西の入り口へは宿坊から15分ほど。
驚いたことに、ちょうど門が額縁となって東の空に太陽が顔を見せました。時折雲間に隠れるのですが東の空は明るさを増していき、高野の町並みは静かなたたずまいですが、坊内では多くの僧侶が動き出しているに違いありません。私にとって一年の始まりかな…と思えるような瞬間でした。
帰りの車中で隣り合わせた高齢の女性と話が弾み、「沢山のエネルギーをもらっているの。もったいないから浪費したらダメよ」のことばをいただきました。「お別れを言いに来たんだけど、また来れそうな気がすする」と。来年もお会いできますようにと別れましたが、いろいろなつながりに縁さえ感じる出会いでした。