京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

父と子

2020年06月21日 | 日々の暮らしの中で

「最近何か面白い本読んだ?」とでも聞いたのだったろう。20年ほども前になる。まだ学生だった息子が挙げたのが『エミリーへの手紙』だった。
これまで何冊かこうした形で購入したり、帰省の折の持参本を置いて帰ったりということがある中で、最初の一冊だった。

言うなら記念の書。内容はともかく存在を忘れることはなかったが、もう何年も開くことはなかった。探し物で書棚をのぞいている際、なぜか手が伸びた。内容の展開はしっかり覚えていないのだが…。
祖父が遺した詩集。詩の中にパスワードを見つけ、パソコンに入力するとフォルダー内の手紙が開く。孫娘エミリーに宛てて、「ディア エミリー」で始まり「愛をこめて、ハリーおじいちゃんより」と結ばれる手紙。またほかの詩を読み、パスワードを見つけ、手紙を読んで…。

男手一つで育てた子供たちと心が通わず、関係がうまくいかなかったハリー。孫娘宛てではあったが、その手紙を読み進めるうちに、息子も娘も父の「家族」に向けた深い思いを知るようになる。「ただの気の触れた老人ではなかった」。「無愛想な表向きの態度の下に…家族を気遣う人間がいた」。

どうしてこの一冊を読んだのか、どんな感想を持ったのかは聞いたことはないが、今日はちょうど父の日でもあった。
父と息子。「お父さんはぼくのこと関心がないのかな」とつぶやいた言葉がよみがえった。高校教師でもあった父は、東京へ出たいという息子の進学問題に何一つ意見を言うことはなかった。口を出すのは祖母(義母)だったわ。求めもしないのに…。
未だに円滑とはいかないが、それでも親子。「遅くなったけど…」、とちょっとした祝い事ができた父親に息子の気持ちが届くことだろう。
コメント (2)
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