狂気の科学者たち (新潮文庫) | |
アレックス・バーザ、 (訳)プレシ南日子 |
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新潮社 |
本書を読んで一番感じたのは、色々ヘンな研究をしている人もいるんだなあということ。
興味深かったのは、「ヒトとサルは交配可能か」(pp43-48)という研究。これは、イリヤ・イワノフ博士という人による実験だが、要はチンパンジーとの交配実験だ。
皆さんオリバー君を覚えているだろうか? 人間とチンパンジーの混血だと騒がれた、あのオリバー君だ。確か、オリバー君の花嫁も募集され、実際にこれに応募した女性もいたと記憶している。もっとも最後には、オリバー君は、正真正銘のチンパンジーだったことが判明したらしい。
この実験は、リアルオリバー君を作ろうというもの。チンパンジーと人間が交配可能かどうかということだが、繁殖できるかどうかを別にすれば、おそらく私は可能だろうと思う。何しろライオンと虎やヒョウが交配できたのである。
人間とチンパンジーの遺伝子は、その99.4%が同じなのだ。出来ないと思う理由はないだろう。むしろ科学的なものより、宗教的、倫理的な忌避感の方が強いのではないだろうか。実験者の名前から分かるように、宗教を弾圧した旧ソ連の人間により計画されたというのは納得できるところだ。
ユーモラスな研究も多い。例えば、「『くすぐったい』のは気のせい?」(pp65-70)は、「どうして自分で自分をくすぐってもくすぐったくないのか」という疑問を解明するために行われているし、「ワインの専門家は赤く染めた白ワインを見抜けるか」(pp75-79)という研究などは、芸能人を格付けする某番組を思わせる。
また、「目に見えないゴリラ」(pp93-98)や「なぜドイツ人はユダヤ人の強制収容に反対しなかったのか」(pp347-357)はどこかで読んだり、見たりした人も多いだろう。
前者はバスケットの試合で、なんの脈絡もなしにゴリラの着ぐるみを着た人が出てきても誰も気が付かないというものであり、後者はアイヒマン実験とも呼ばれており、普通の人でも権威者の指示があれば人を殺しかねないというものだ。どちらも多くの心理学関係の本に出てくる。
確かに、今の基準からはマッドサイエンティストのような実験もある。例えば、人間の脳に電極をさして、同性愛者を異性愛者にする実験「性的指向を変える快楽ボタン」(pp252-259)などだ。
タイトルに科学者とあることから、理工系の事例を想像したのだが、収録されているのは、医学・生理学的なものや、心理学的なものである。それはそれで面白かったのだが、理工系にはヘンな研究はないのだろうか。
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