この作品は、清原紘さんの描く表紙イラストに一目惚れしたようなところがある。私は、一次審査を、小説の場合には、表紙イラストで行うことが多い。(新書や専門書の場合は、テーマが面白そうかどうかによる。新書って、同じようなデザインの表紙のものが多いし。)
さて、本作の主人公の西有栖宮綾子という名前は、実は通称で、本名はメアリ・アレクサンドラ・綾子・ディズレーリという生粋のお嬢様。父親がイギリス公爵、母親が宮家(特例で女性宮家を認められている)という設定だ。ただ綾子の階級警視正というのは、大規模警察署の署長ができるもので、今の制度では、いくらキャリアでもさすがに20代ではなれないようだ。作品中にも歳の話があったが、ヒロインの年齢は・・・(以下略)。
収められているのは3つの事件。どれも検察の裏組織一操会が裏で糸を引いていて、綾子が箱崎警察庁長官の依頼で、「監察特殊事案対策官」として、それらに挑むというもの。
一つ目の事件「消えた八、五七二万円を追え」は、I県警の安芸中央警察署で拾得した現金が警察署の中で消えたという事件だ。正確には八、五七二万三、一一〇円。モデルは明らかに一時よく報道されていた広島中央警察署で特殊詐欺の証拠品八、五七二万円が消えうせたあの事件だ。私がネットで調べたところ端数があるのかないのか分からなかったのだが、ここでは三、一一〇円という派数がつけられている。実はこの端数が伏線の一つになっている。綾子には安藤隼警視が下にいるが、この事件で鳥居巡査部長という二人目の下僕いや、部下を手に入れた。
二つ目の事件「警察の不祥事なし」は、O県警の鹿川警察署という小規模警察署の署長が庶務嬢と署長室で不倫の最中腹上死してしまったというもの。検察から派遣されてきた「銀鷲の鬼池」という悪徳検事に一杯食わせる方法がなんともすごい。
三つ目の事件、「あの薬物汚染を討て」では、L県警で県警本部や所轄に覚醒剤が蔓延していた。そして御子柴県警本部長が鞄に仕掛けられていた爆弾で大怪我をする。御子柴本部長は、2週間前にこの覚せい剤汚染に対処するため、切り札として赴任したばかりだった。この事件の悪徳検事は、白蜥蜴の剣崎。この剣崎の化けの皮を剥がす綾子の方法が面白い。ところでL県警となっているが、作品を読むと舞台は明らかに京都府だ。
本作の内容を一言で言えば、ハチャメチャということだろう。何しろお金持ちのお嬢様で、やっていることは無茶苦茶。薬師寺涼子(田中芳樹:「薬師寺涼子の怪奇事件簿」シリーズ)と岬美由紀(松岡圭祐:「千里眼」シリーズ)を足して(2で割らずに)もっとハチャメチャにしたと思えばいい。1000億や2000億などは、はした金の扱い。父親のディズレーリ公爵からはもっと使えと発破をかけられるくらいの大金持ちである。
買収あり、拷問あり、殺人ありで、検察の中に秘密組織があり、平気で殺人を犯す。失敗は死。そして検事に銀鷲だの白蜥蜴といった二つ名がついているのだ。でもこんな作品は意外と好きかもしれない。なろう系の異世界ものでは主人公が無双するようなものが多いが、この作品も警察小説やミステリーとして読むとツッコミどころが満載なのだろうが、一種の異世界ものとして読めば結構読める。なんとも痛快なのだ。
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