舞台は、1920年代のアメリカ・ニューヨーク。ハーレムに住んでいるアフリカ系アメリカ人のチャールズ・トマス・テスターは、ロバート・サイダムという白人老人から高額の報酬と引き換えに自宅でのパーティでギターを演奏することを依頼される。これが恐ろしい事件の幕開けになるのである。
著者はアフリカ系アメリカ人の血を引いており、彼の作品の大きなテーマとして人種差別問題が挙げられるだろう。
確かに読み進めると、「白人」と「黒人」は出てくるのだが、少し違和感が湧いてくる。東洋人のような黄色人種は出てこないのである。話の中には、「中国人」という言葉が出てくるが、それは集合名詞としてである。個体の東洋人は全く出てこない。まるでアメリカには白人と黒人がいればいいというようなのだ。
解説によれば、彼は、少年時代に、ラヴクラフトの作品を愛読していたが、ラヴクラフトが人種差別主義者であることを知り、裏切られた気持になったという。作者は、ラヴクラフトに対して愛憎入り混じった感情を持っていたのだ。だからこそ、次のように書いている。
「相反するすべての思いをこめて、H.P.ラヴクラフトに捧げる」(p3)
この作品はラヴクラフトの作品を語り直すことを目的として書かれたらしい。基になっているのがラヴクラフトの、「レッド・フックの恐怖」である。ラヴクラフトと言えば、クトゥルフ神話で有名だが、この作品はクトゥルフ神話の一部とは考えられていないようだ。しかし、本作品は、明らかにクトゥルフ神話を意識している。こんなフレーズがある。
「いつでも、おまえたち悪魔の上にクトゥルフを連れてくるからな。」(p151)
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