これも半七捕物帳の話の一つだ。他の話と同様に、作者が明治になって、半七老人から昔目明しだったころの話を聞く形になっている。
さて、このお話の方だが、佐倉領にある村から、金右衛門、為吉という百姓がそれぞれ、娘のおさん、妹のお種を連れて、江戸にやってくる。ちなみに、おさんは来年為吉の嫁になることになっている。
ところが青山六道の辻で、浪人風の男が若党風の男を切り殺すのを目撃する。浪人風の男のいうことには、敵討ちだというが、その男は逃亡。そして言っていたことも嘘だと判明する。
そして、金右衛門たちは、その夜何者かに襲われ、金右衛門は負傷、おさんはどこかにつれさられる。
この事件を調べるのが、我らが半七親分という訳だが、2つの事件は果たして関係があるのか。この半七親分、どうも勘で調べを進める傾向があるようで、今回も、金右衛門の親戚の米屋で米搗きをしている藤助が臭いと、部下の庄太に指示している。
「おれの眼についたのは藤助という奴だ。越後か信州者だろうが、米搗きにしちゃあ、垢抜けのした野郎だ。あいつの身許や行状を洗ってみろ」
操作をする者は、予断によってはいけないというのは大原則なのだが、半七親分、予断ありありである。つまり今でいえば、チャラ男は悪い奴だと。実は、藤助は意外と善人で、悪い奴は他にいたのだが、善人は垢抜けしていてはいけないらしい(笑)。この話の教訓は、チャラチャラしていると、悪い奴だと思われかねないということなのだろうか?
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※初出は、「風竜胆の書評」です。