この話は、平次の新年を描いた作品です。年始廻りを終えた、平次と子分の八五郎。その帰り、平次は、「さざなみ」という新しくできた料理屋の前でこう言います。
「旦那方の前ぢや、呑んだ酒も身につかねえ。ちょうど腹具合も北山だらう、一杯身につけようぢやないか」
これを聞いて八五郎は喜びながらも不思議がります。
ツヒぞ 斯んな事を言ったことのない親分の平次が、與力笹野新三郎の役宅で、屠蘇を祝ったばかりの帰りに、飲み直そうという量見が解りません。
平次、与力の笹野のところで振舞われた屠蘇が効いたのか、完全な酔っ払いです。例えばこんな具合です。
散々呑んだ足許が狂って、見事膳を蹴上げると、障子を一枚背負ったまゝ、縁側へ転げ出したのです。
そして帰りに、店が落とし玉として配っている手ぬぐいを、白地のやつではなく浅黄のやつをよこせと言い張ります。
ところが、神田が近くなると、急に平次がしゃんとします。
「俺は三猪口とは呑んぢやいねえ」
実は平次は、「さざなみ」の変な所に気が付き、一芝居うったのでした。もちろん八五郎は気づいていません。ちょっとした異変に気付く、これが名探偵の条件なのでしょう。これが、大捕物に繋がります。でも平次に欲はなく、この事件を自分の手柄にはしませんでした。
☆☆☆