文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
執筆依頼、献本等歓迎。

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2021-10-28 08:18:04 | 書評:その他

 

 

 本書は、著者がこれまで色々な媒体に発表してきた短編小説や紀行文、エッセイを一冊の本にまとめたものだ。どんなものに発表したのかは、巻末に「初出一覧」があるのでそちらを参照して欲しいが、雑誌や新聞、企業の広報誌など本当に幅広い。企業からの依頼で、雑誌に掲載したものも目立つが、企業PRのためのページなのだろうか。

 本の紹介(帯)には以下のように書かれている。

数多の賞を受賞し、世界的にも注目を集める著者が、芥川賞受賞から20年にわたり広告で描いてきた、単行本未収録の贅沢な作品集。
エプソン、エルメス、大塚製薬、サントリー、JCB、ティファニー、日産、パナソニック……
錚々たる企業の依頼で描いてきた小説、紀行、エッセイを収録。(以上本の紹介文)



 この文からは、、普通、話の中に、依頼したブランドに関する物語が入っているように思うだろう。しかし、例えば冒頭の「写真/新年/絆」と言う話は、初出一覧によれば、セイコーエプソンの依頼によりAERAと言う雑誌に掲載されたものだ。作品中にセイコーエプソンのブランドに関することが入っているかと思って読んでいた。しかし、セイコーエプソンのことは書かれておらず、書かれているのは、著者の思い出に関するエッセーの様なものだ。まあ、セイコーエプソンといえば、プリンタ複合機も作っている会社なので、文中に、年賀状や写真、パソコンなどが出てきており、全くの無関係とはいえないだろうが。

 続く「世田谷迷路」と「東京湾景202X」は日産自動車の依頼によって書かれたものだ。それぞれ「週刊新潮」と「別冊週間新潮」に発表されている。「世田谷迷路」には車名の「日産ティーダ」が入っていたものの、続く「東京湾景202X」には車を運転している場面しか出てこない。ただこちらは、「充電用パーキング」と言う言葉が出てくるので、「ティーダ」ではなく電気自動車だと推測される。

 「東京の森」と言う話は、大塚製薬の依頼で新潮社の「yomyom」に発表されたものだ。東京の神宮外苑を走るランナーに関するエッセイだ。ここでは、スポーツドリンクという単語は見えるが、具体的なブランド名はない。大塚製薬のスポーツドリンクと言えばポカリスエットなのだが、この文章を読む限りそのことは分からない。ただ、巻末の初出一覧で依頼主の名前を見れば推測できるだろう。

 「山崎という町の気配」は、著者がサントリーの山崎工場を訪れたときの紀行文だ。サントリーの依頼によりサントリ―クオータリー(サントリーのPR誌:現在は休刊)。しかしサントリーの文字はない。ウィスキー好きなら「山崎」ということだけで「サントリーの山崎」だと分かるのだろうが、そうでない人にはどうだろう。

 だいたいがこんな調子なのだが、思うに、これらは、なんらかの広告と組み合わされてこそ本来の目的を達するのではないか。その一部である文章だけを切り出しても効果は薄いように思う。どの企業の依頼で何の広告の一部として書いたのかを本文ではっきりさせた方がいい。

 

 

 

 

 

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