今の若者には信じられないと思う人も多いだろうが、かって、日本の技術力は世界のお手本だった。どうして日本の製品はあんなに質が良いのかと研究の対象だった。今でもその残り火は残っているものの、次第に沈下していくことは避けられないだろう。
その原因は色々あるが、端的に言えば、無能な文科省が社会環境の変化についていけないというところがあるのではないか。少子化の進展により、優秀な学生の数は少なくなった。昔は家が貧しければ国立へ行くという選択肢があったのだが、しかし、国立大の授業料を大幅に値上げした結果、その選択肢は事実上なくなった。大学進学率は上がってはいるものの、多くは奨学金という美名の借金をして、勉強よりはアルバイトに励むということになった。
時代についていけないのは、企業の無能な経営者連中もいっしょである。これまで科学技術者を「やりがい詐欺」で縛り付けて大事にしなかった結果、優秀な人は国内にいても仕方がないと、頭脳流出に拍車がかかった。若者の権利意識は昔より高まり、海外へ移住するというハードルはずっと低くなっているのだ。
さて、本書の内容だが、タイトルの通り、SCMについて分かりやすくまとめたものだ。SCMとはサプライ・チェーン・マネジメントの略で、生産・流通のプロセスを情報という糸で結んで管理し、効率化を図ろうとするものだ。その源流はトヨタのかんばん方式、ザ・ゴール(ダイヤモンド社)などで知られるイスラエルの物理学者エリヤフ・ゴールドラット博士の制約理論などと言われる。
本書には、SCMとはどんなものかという紹介から、そのメリット、実例、導入にあたっての課題、将来展望などを簡潔にまとめたものだ。ひとつのテーマ毎に、見開きで、右に文章による説明、左側に図による説明が掲載されている。
それでは、SCMは万能で打ち出の小槌的なものだろうか。そんなことはない。SCMは単なるツールなので、使いかた次第なのだ。つまり、うまく使えば成功につながるが、無理につかっても弊害の方が大きいだろう。以前いた会社で、SCMのコンサルタントが、SCMで何でも改善ができるようなことを言っていた。そんな訳はない。明らかにコンサルタントのセールストークなのだが、やとった部署の人間はコンサルタントを奉っていた(心の中では何を思っているかは分からないが)。そりゃ、無理やり適用すればできないこともないだろうが、必ずしも効率的なものができる訳ではないだろう。
今は第3版まで出ているようだが、私の持っているのは第1版なので、それをレビューの対象としている。ただ、SCM自体は年とともに大きく変わるようなものでもないだろうから、古い版を持っている人は、あわてて買い替える必要はないと思う。これから買おうという人は最新版を買う方がいいだろうが。まあ、この班を読むだけでもSCMの概要は身につくものと思う。だから、自分の業務で改善したらメリットの大きいような部分は適用すればいいと思う。
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