西東京市という地にそびえる時計山病院と呼ばれる廃病院。そこは自殺の名所として有名だった。そこが廃病院になったのは11年前の医療ミスに端を発する。そして10人以上の人が、時計台から飛び降り自殺を行っているのだ。そして時計山病院の院長だった、時山剛一郎の娘、恵子と兄の文太が時計台から飛び降り自殺をする。果たしてそれは本当に自殺だったのか。
本書の魅力は2つあると思う。一つ目は小鳥遊優とその天敵たる鴻ノ池舞との掛け合いや小鳥遊と鷹央の掛け合い、鷹央とその姉の真鶴との掛け合いなどいろいろあるが、どれもユーモラスなのだ。特に面白いのが小鳥遊と舞との掛け合い。舞は研修医なのに、小鳥遊をからかうのが生きがいのようだ。だから小鳥遊と鷹央の恋バナには熱心である。そしてちょっちゅう彼に関節技を決めている。そう舞は合気道女子なのだ。
鷹央と真鶴との関係も面白い。傍若無人な鷹央だが、唯一恐れる人物がいる。それが姉の真鶴なのだ。でも単に厳しいだけではない。、鷹央がインフルエンザで倒れたときなど、傍で看病するという妹思いの一面もあるのだ。
もう一つの魅力は、作者が現役の医師らしく、医学的な知識を駆使してトリックを考えているところだ。現にこのトリックも、相当医学に詳しくないと解けないだろう。そういった意味で医療ミステリーらしいといえよう。
ただこの部分はいただけない。
「その扉に高圧電流が流れていて感電したか・・・」(p342)「高圧電流」というのは俗語として、すっかり広まった観があるが、電気工学を多少なりとも学んだものなら、まず使わない言葉だ。私なら「高電圧がかかっている」と書く。「高圧電流」というのは、電流の大きさについては何も言っていないのだ。ついでに言うと電流は常時流れている訳ではない。そもそも電流の通り道が確立されないと電流は流れることができない。このあたりに同じ理系でも数物系と医学・生物系の間には大きな谷のあることを感じてしまう。
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