・入倉隆
私たちを取り巻く世界はなぜ色づいて見えるのか。これは一義的には、光がいろいろな波長の成分を含んでいるからだ。人が見ることができる光の波長は、380~780nmの間。物体が特定の波長の光を反射して、それが目に入ってくることにより、物が色づいて見えるのである。
しかし色が見える仕組みは、そのような物理的な現象だけから成り立っているのではない。人の目には、3種類の錐体と1種類の桿体という神経細胞が存在する。このうち桿体は、暗い所で働き、光の強さだけしかわからないが、3種の錐体は、赤、緑、青の光に反応し、これらの組み合わせで色を感じることができるのだ。
この錐体のうち1種類でも機能しないと、色の見え方が違ってきて色弱の原因となる。これに加えて脳による補正も入ってくる。例えば、白い色は、照らす光の色が変わっても白く見える。これは、脳がそういうふうに補正しているからだ。つまり色を感じるというのは、純物理的な現象ではなく、物理現象と人間の生物としての仕組みが組み合わさったものだと言えよう。
色を感じるというのは生理的、心理的現象でもあるのだから、色により人間の生理や心理が影響を受けるのは当然だろう。食器の色で食欲が変わってきたり、ファッションの色あいで、人に与える印象が変化するというのは、経験した人も多いのではないかと思う。これ以外にも距離感、大きさ、重量感、温度などが色によって違ってくるのだ。
本書は、このような色についての不思議さ、面白さを新書一冊にぎゅっと詰め込んだものである。記載されている内容は、色の見えるしくみ、色の表し方、色による見え方の違いからユニバーサルデザインについてまで。どの章を読んでも、興味深い話題が満載である。
若干補足が必要だと思うのは、xy色度図のところだろう。本書にはこのように書かれている。
<このようにして定められた3つの原刺激を、X,Y,Zとし、それらを混ぜる量の割合で色を表そうとするのがXYZ表色系です。一般に、原刺激Xの占める割合xと原刺激Yの占める割合yの組み合わせで色を表します。>(p84)
これを読むと、普通の人は、
「あれ!? Zはどこにいっちゃったの??」と思うのではないだろうか。これはx+y+z=1の関係があるので、xとyが分かればzも自動的にわかるということだが、本書の記述だけでは分かりにくいのではないか。
また色を扱っているのに、色のついた図が最初の口絵の部分にしかないのは残念だが、これは新書という性質からやむを得ないかもしれない。
ともあれ、色に関する基本的な知識は身につくと思うので、照明工学や色の認知に関係した心理学などの分野を学ぼうとする人は一読しておけば役に立つだろう。ただ前述のとおり、色のついた図が少ないので、カラーページの豊富な、カラーコーディネーターや色彩検定などのテキストと併用して読めば効果が高まるものと思う。
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※本記事は、書評専門の拙ブログ
「風竜胆の書評」に掲載したものです。