・R.M.ガルフォード、B.フリッシュ、C.グリーン、(監修・訳)越智啓太、(訳)国重浩一、バーナード紫
本書は組織防衛のためのノウハウが詰まったものだ。本文中によく「サボタージュ工作員」という言葉が出てくるが、別にどこかのアブナイ国が企業に工作員を送り込んでくるという訳ではない。(というか、一企業に工作員を送り込めるほど暇な国はめったにない。)ここでいう工作員とは、企業にかけなくてもいいブレーキをかけるような人たちのことだ。つまり、こんな連中がいると組織がダメになるということである。
ここでは、9つの典型的な「サボタージュ工作員」の類型が示され、どのようにすればそれに対応できるかが述べられている。ここに書かれているような連中は意外に多く、皆さんもきっと「あるある」と頷いてしまうに違いない。そういった連中ほど口だけは一丁前なのだから始末が悪い。本書中に書かれている類型を紹介してみよう。
1.従順によるサボタージュ
2.演説によるサボタージュ
3.委員会によるサボタージュ
4.無関係な問題によるサボタージュ
5.論争によるサボタージュ
6.以前の会議での決議を再び持ち出すことによるサボタージュ
7.過度な用心深さによるサボタージュ
8.「それは我々の仕事か?」によるサボタージュ
9.<関係者すべてにCC>による現代のサボタージュ
どうだろう。これらの項目を見ただけでも、自分の職場にもそんな人がいると、ほとんどの人は思うのではないだろうか。これらについては詳しくは本書を読んで欲しいのだが、いくつかコメントしてみよう。
まず1番目にある「従順によるサボタージュ」である。これは、規則で決まっているから絶対にそれを守らなければいけない(多くは自分たちに都合の良い社内やローカルルールであるが)という連中のことだ。私も最近は「間違っていてもマニュアルに書いてあればその通りにやるし、書かれてなければ正しくてもやらない」というのを聞いたことがある。しかしそれでは物事の改善もないし、結果的に組織が衰退していくだけだろう。もっとも法律などで決まっている場合にはそれをきちんと守ったうえで、異論を唱える必要があるのだが(罰則もあるしね)。
6番目の「以前の会議での決議を再び持ち出すことによるサボタージュ」は、以前こう決まったからというのではなく、その反対に以前に決定されたことに意義を唱えて、会議を後退させるというものだ。つまりは、以前のことを蒸し返す連中である。
8番目の「「それは我々の仕事か?」によるサボタージュ」というのは、どこに行っても割と普通に見られるのではないかと思う。つまりは特定の案件に対してたらい回しをするということだ。
最後の「<関係者すべてにCC>による現代のサボタージュ」というのは、今のように仕事はほとんどPCを使って行うという現代に特有のものである。もちろん報連相は大切だが、何でもかんでもCCで送られては、それを見る方も大変だろう。行き過ぎれば何のために下位の職位に権限移譲しているのか分からなくなる。
本書に述べられているのは、多くはいわゆる「大企業病」と共通しているものだと思う。その処方箋の一つとして考えれば、ビジネスマンは一読していても損はないだろう。しかし、ある程度権限がない人が読んでも空しくなるだけだ。ぜひ上級管理職には目を通していただきたいと思う。
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※初出は、
「風竜胆の書評」です。