曇り、17度、87%
三月に入って、少し肌寒いなと感じますが、これは例年、香港がこの季節お日様を見ないためです。雨が降っているわけでもないのに、朝からどんよりと曇っており、その上、時には100%近い湿度を記録します。急に気温が上昇した日など、結露で道路も滑るほど湿っています。この冬は12月に寒波がきて寒かったのをのぞき、概ね、冷え込みの少ない冬でした。日本のように、ゆっくりと訪れる春を楽しむ間もなく、夏になってしまう事も屢々です。山の木々も例年より青さを残しています。春に落ち葉する木たちは、風の強い日などに音を立てて枯れた葉を落とします。日本に帰った時に見た、桜の堅いつぼみ、イチョウの新芽、そんな風情は感じられない香港ですが、黄緑の小さな葉が曇り空の中芽吹き始めるのを見ると、ようこそ、とため息混じりに見上げます。
毎月初め、香港島東のマウントバットラーに上ります。それほど高い山ではありません。この山に初めて上がったのは、香港に来て間もなくの事でした。どこまで上がっても舗装された山道は、私にとっては不自然に感じます。香港トレイルにしても、舗装、階段と山道が整備されています。ありがたいような、やはり土の道を歩きたいとも思います。
毎月上りますが、町中とは違って、小さな季節の変化を私に伝えてくれるのは、やはり山道だからでしょうか。先月は、旧正月の花、香港満天星のピンクの花が咲いていましたっけ。永年の経験で、今日はこんな植物や動物に逢えると期待して出かけます。2月下旬に送ったハードな日々の疲れからでしょうか、いつもより足の運びが重く感じます。それでも登るにつれて、ペースが上がってきました。
目的の頂上の手前は600段ほどの階段になっています。その階段の脇にタチツボスミレを見たのも、随分昔の事。日本のタチツボスミレより葉の形はやや長め、花の色も薄いタチツボスミレです。日本で見るように群生しているわけではありません。ぽつんぽつんと咲いています。咲く時期も毎年違わずこの時期です。腰を落として、この小さな花に見入ります。あれ!うぐいすの声がします。雨上がりの山道に私ひとり、足元の可憐なタチツボスミレを見ながら、澄み渡るようなうぐいすの声を聞きます。
この山頂からは、西を見れば モモさんが一人留守番をする我が家が、小さく見えます。九龍サイドの東側、昔の啓徳空港の跡地も見えます。 右端にはライオンの形をした獅子山。島の南側、サウスチャイナの海も遠くに見えています。 少しずつ姿を変えている香港です。高いビルも増えました。気が付くと、ビクトリア湾は狭くなっていました。 一番変わったのは、九龍サイド東側。 初めてこの山に登った時は、きれいな山の姿だったこの一帯、緑を切り崩してマンションが建ち並んでいます。赤い山肌が痛ましく見えていたのは10年前の事。変わらないのは南側サウスチャイナの景色ばかりとなりました。
月初めに登る山は、心も体もリセットしてくれます。