曇り、17度、91%
小さい頃から母に、「あなたは器量が良くないから、何か手に職をつけなければ。」と言われてきました。それだからでしょうか、小さい頃はお稽古が一週間びっしり。悲しいかな、結局、この歳になっても何一つ手に職などというものを持ちません。かろうじて、体が覚えた水泳だけは未だに泳げます。
器量の善し悪しなんて、人に言われずとも鏡を見れば分かります。人並みに、年頃になれば少しでもマシに見てもらいたいと思います。目元でニッと笑うと、まあ少しは可愛く見えるではありませんか。お金もかからず、簡単なことです。知った方に会えば、ニッ。で、ニッを続けてきました。おかげで30過ぎから、目尻にはシワが出来ましたが、そこそこに人様には不快感を与えずに済んで来たと思っています。
先日、市場に大根とシイタケだけを買いに行きました。大根を片手に、シイタケを計ってもらうのに順番を待ちます。私の前には、どこかの中華料理屋の厨房の人と思しきおじさんが、大きな袋一杯に野菜を注文しています。私が毎朝通う香港島セントラルの市場は、場所柄レストランや料理屋の人たちも買い付けにやって来ます。前日に注文し忘れたのか、前に並ぶおじさんの買い物の量の多いこと。大根片手に、憮然とおじさんの横でシイタケを待っていました。このおじさん、私の頭の先から足の先まで、二度もご覧になります。内心不愉快です、次に、もしかして、Gパンのジッパーが下がったままかと、そっと触りましたが大丈夫。おじさん全て野菜が揃ってお金も払わずに、ツケで買うのでしょう、店を出ようとした時に、私に向かって「チョウサン!」と朝の挨拶をしてくれました。ご挨拶を受ければ、私も失礼無きように、「チョウサン!」そして、ニッ。するとそのおじさん、重たい袋を持ったままもう一度振り返り、「ホウレンロイ。」と言って立ち去りました。レンロイ、はきれいなお姉ちゃん、という意味です。字面からするときれいなお姉ちゃんですが、ちょっと女性に声をかける時に使います。それに、「ホウ」が付いて「ホウレンロイ。」ホウは、良いという意味ですから、かなりの褒め言葉です。朝から、調子づく私です。
小さい頃から、カワイイだのきれいだの言われたことがありません。この歳になって、「ホウレンロイ。」などと言われれば舞い上がるのも無理からぬこと。ニッ、の効果はまだ有効のようです。
器量が悪い、不細工と言われて心がけて来たのは、ニッ、ともう一つ、厚化粧だけは避けて来たことです。不細工が厚化粧して、ニッ、では気味が悪くなりかねません。もっとお婆ちゃんになっても、ニッ、だけは心して続けるつもりです。ニッ。