晴れ、4度、福岡
3月も下旬、この時期に日本に帰るとなれば、口にしなくても、心の奥底で桜に会えると思い抱いています。下りたのは夜、まあ、明日の朝まで待ちましょう。
朝起きると、何やら肩先に寒いものを感じます。朝のニュースでは、気温4度と言っています。あれ?外にでると、見事なお天気ですが、思わず薄手のコートの前をしっかりとしめました。
福岡の何処のどの桜の木とは決まっていませんが、福岡城趾のお堀端、一重の桜に始まって、八重の桜まで見事に咲き続けます。寒いのにちょいと足を伸ばします。桜の木、花芽は膨らんでいますが、花が付いていません。これまた、口にしませんが、がっかりです。桜の木の間には、3月26日から桜祭りなどと書かれています。
いいお天気の中、昼過ぎに実家のお墓に向かいます。先月は家族3人が参ったお墓ですが、ちょうどお彼岸にはいつものように、クスノキの落ち葉で一杯だったに違いありません。
大きなクスノキの懐に抱かれるように建つ実家のお墓です。クスノキは常緑樹、新しい葉を付ける早春に大量の葉を落とします。つまり、この時期です。木を見上げると、葉は無く丸裸、お墓に向かう道も、お墓に近付くにつれガサゴソと靴の下で大きな音がたちます。春彼岸のお参りの時には、この音はつきものです。一人でお墓に向かうのに、いい道連れです。
もちろん、我が家のお墓だけ、落ち葉をすっぽりと被っていました。あらあら、他所のお墓はお彼岸の後ですから、お花もきれいに飾られています。日差しを楽しみながら、落ち葉をかき集めはじめました。
この大きなクスノキには、博多の町中のこれまた大きなカラスが住んでいます。カアカアと大きな声を上げて夕方はお戻りになります。このカラスさんたち、木の上でいろいろなものを召し上がります。一度は、我が家のお墓に白骨が散らばっています。鶏ではありません。ネズミか子猫でしょうか、か細い白骨でした。
これは千両。昨年末、この3倍もあった丈を刈り込みました。この千両は、植えたものではありません。この千両が芽を出したとき、母が残そうといいました。下向きの花を付け、下向きの赤い実をつける千両が墓の横にあるのはなんとも微笑ましい。
こちらのシュロの木、シュロなんて墓に植える人はいません。これも自然に芽を出しました。母の納骨のとき、墓守のおじさんにこれは抜かないかん、と言われましたが、新芽が出ると根こそぎ抜く気にもなりません。可愛いじゃないの、などと思ってしまいます。今日はこのシュロの下に紫の小さな花を見つけました。タツナミソウです。落ち葉に埋もれず、きれいな緑の葉っぱを伸ばしています。よしよし、と落ち葉を払ってやりました。
いつもこの墓の前で手を合わせて、上を仰ぎ見ます。クスノキの清々しい香りが上からおりてきます。そして、心の中で、これらの草木の種は、このクスノキの住人、カラスの落とし物に違いないと思います。
クスノキは樟脳の木です。まん丸の黒いいい香りのする実を秋には落としてくれます。秋も深まると、クスノキのにおいは深くなるように感じます。春は、涼しげな香りも陽気とともにフワフワと何処かに飛んで行っているのでしょう。
カラスの落とし物、時折迷惑なものもありますが、このまま放っておくつもりです。 これはカラスのいたずらではありません。花入れの横に水を落とす小さな穴があります。ここにはずっと、苔が付いています。これも、母の納骨のとき、墓守のおじさんに抜かれてしまいました。でも、また見事に復活しました。1センチにも満たない苔が墓についていようが、お構いありません。それよりこんなもの達が息をしていてくれること、墓の中の者に外の息吹を伝えてくれることでしょう。