小雨、28度、85%
カズオイシグロの8冊目の本、「THE BURIED GIANT』(忘れられた巨人)をやっと読み終えました。春先、出たばかりのこの本を求めて以来、旅行の時はバックに入っていましたが、なぜか読み進まない、気持ちが本を読むムードではない数ヶ月でした。本を読むって、やはりそれが仕事ではありませんから、その時の気分で放ったままになってしまいます。ひょいと再び取り上げたのは5日ほど前でした。
カズオイシグロ、日本人の名前につられて彼の本を買ったのは20年近く前の事です。「THE REMANIS OF THE DAY」(日の名残)アンソニーホプキンス主演で映画化された代表作です。カズオイシグロの本を読んだことがある方ならお分かり頂けると思いますが、この英国育ちの日本人が描く世界は、色彩的に暗いイメージです。書かれている事が暗いのではなくて、まるで夜明け前の明るさの中で話が進んでいるように感じます。ちょうど、この本の表紙のような色合いです。
今回の時代背景はアーサー王が亡くなったあとの事、アクセルとベアトリース、この老夫婦の話です。しかも、何やら童話のような人食い鬼や魔物まで登場します。魔物が吐き出す息がミストとなってこの国の人たちの記憶を薄れさせています。もちろんこの老夫婦も途切れ途切れの記憶、そして一人息子に会うための長い旅に出かけます。
暗い色彩にミストがただよい時代は遥か昔、なんともこの老夫婦でなくとも歩みが遅くなるような雰囲気がたれ込めています。最後にはこのミストは晴れますが、本の最後の3分の一、解き明かされる様々な謎がいっきに本の中に引き込みます。老夫婦の記憶が薄れる、私は老人性の痴呆症を考えてしまいました。楽しい記憶は残って欲しいものですが、嫌な記憶は、ミストが晴れずに忘れたままの方がいいかもしれない、などと思います。ましてや長年連れ添った夫婦です。いい思い出ばかりではないはずです。ふと我が身に振り返って考えます。
「THE BURIED GIANT」8冊のうちでいちばん話の展開が面白いのではないかと思います。私個人的には処女作「A PALE VIEW OF HILLS」(遠い山並みの光)日本を舞台にした話が好きです。坦々とした話ですが、懐かしさを感じます。
先日、日本に帰った折、本屋に(忘れられた巨人)が山積みされていました。今回はあっという間に訳本が出ています。書評で知った事ですが、今までの本全部が文庫本になっているそうです。
いつも思うのですが、カズオイシグロの本の題名、日本語になるとどうもいけません。映画の題名のようにして欲しいとまでは言いませんが、もう少し、人が興味を持ってくれるような題名にならないものでしょうか。この「THE BURIE GIANT」も映画化されるかも知れません。映画化されてもいいようなプロットです。一人で配役なんか考えてしまいます。