雨、11度、63%
毎朝、15センチほどのフランスパンを焼きます。1本だけ焼きます。朝起きて冷蔵庫で寝かせておいたパン種を出して来て、ベンチタイムをとっている間、こうしてPCの前に座ります。
小さなバゲットは私の朝ごはんです。時にはお昼に残しておくこともあります。時にはお夕飯にそのまま取っておくこともあります。美味しい賞味期限が短いフランスパンです。焼き上げると、毎日写真を撮ります。すでに100枚以上の毎朝焼いたパンの写真があります。札幌、香港に旅行した日以外はほとんど毎日です。
先日、主人とスーパーに買い物に行きました。レジに並んでいると隣のパンコーナーのパンを指差して、「手ごろな値段で美味しいパンが種類もいっぱいあるのに、パンを焼くのがバカらしくならない?」と言います。即答だったと思います。「面白いのよ。」私の答えです。主人は、私がパンを焼くことを非難しているわけではありません。
ホームベーカリーが香港にも普及したのはここ数年のことです。毎日の食事ですら作ることの少ない香港人女性が、だんだんと家での料理や菓子作りに目覚めて来ました。そこにホームベーカリーが登場です。30年前の香港、パンのための強力粉すら手に入りませんでした。日系のパン屋さんに頼んで分けていただきました。イーストもそうやって手に入れていました。日清製粉の「カメリア」が日系のスーパーで売られるようになって大喜びしましたが、すぐに売り切れてしまいます。そのうちベトナムや韓国、タイの小麦粉が入って来ました。イギリスの強力粉もありますが、どうも匂いがいただけません。そんなふうにあの粉この粉と試す私に、主人は出張のたびにあちこちの強力粉を買って来てくれました。シンガポールから持ち帰ってくれたのはアメリカのキングアーサーの強力粉でした。富澤商店ができてここ3年ほど、やっと香港でも欲しい強力粉が手に入るようになりました。香港という土地柄、世界中から物が集まります。その上、主人のお土産強力粉がありました。香港にいた30年、おかげでいろんな国の強力粉を使うことができました。
パン屋さんになるわけではありません。自分の食べたいパンを焼くだけです。100枚近いバゲットはみんな違う表情をしています。同じ顔をしているものは一枚もありません。使う粉も決まって来ましたが3種類使い分けています。どれもフランスの小麦を使った粉です。コクや香りの深さが気に入っていますが、3つともそれぞれの特徴があります。日本の粉のうまさも体験しましたが、フランスパンはやっぱりフランスの小麦が一番かと思います。
パンの顔ばかりか必ず切り口も写真に収めます。 気泡の色、艶、皮の薄さを見るためです。
澄ました顔のバゲット、おでこが破裂したようなバゲット、もしかしたらその日の私の気分そのままかもしれません。こうして家で焼くパンが買ってくるパンよりお高くつくことに気づいたのはごく最近です。強力粉を探すという精神的負担が日本ではありません。美味しくないパンもありました。黙って食べてくれた家族(テツ、モモ、ココも含めて)、重い粉を運んでくれた主人、みんなに支えられて、さあ、今日もパンを焼きます。「面白いのよ。」この一言は本音です。