雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

便なきところにて

2014-04-07 11:00:56 | 『枕草子』 清少納言さまからの贈り物
          枕草子 第二百九十七段 便なきところにて

便なきところにて、人にものをいひけるに、胸の、いみじうはしりけるを、
「など、かくある」
といひける人に、

    逢坂は胸のみつねに走り井の
         みつくる人やあらむと思へば


都合の悪い所で、男と逢っていたのですが、気がかりで、胸騒ぎがひどくしたのを、
「どうして、そんなにそわそわするのか」
なんて言う男に、

    逢坂は胸のみつねに走り井の
         みつくる人やあらむと思へば


この章段も何だかぼんやりしている感じですが、前段と同じく橘則光との思い出のようです。
つまり、男女の逢瀬に神経を使っている少納言さまと、そのあたりのことに無頓着な則光との関係を描いているようです。
和歌が全く苦手だという則光に対して、技巧に満ちた和歌を詠んでいるのも、いかにも少納言さまらしいといえます。

なお、この和歌には、「逢坂」と「走り井」は歌枕で、それぞれ「逢う」と「はしる(痛む)」の掛け詞になっており、「みつ」と「水」も同様で、技巧が加えられています。
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