雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

ある女房の遠江の子なる人

2014-04-08 11:00:18 | 『枕草子』 清少納言さまからの贈り物
          枕草子 第二百九十六段 ある女房の遠江の子なる人

ある女房の、遠江の子なる人を語らひてあるが、
「『同じ宮人をなむ、忍びて語らふ』とききて、恨みければ、『親などもかけて誓はせたまへ。いみじき虚言なり。夢にだに見ず』となむいふは、いかがいふべき」
といひしに、

   誓へ君遠江のかみかけて
        むげに浜名の橋見ざりきや


ある女房で、遠江の子息である男性と深い仲になっているのが、
「『同じ宮に仕えている女房を、内緒で口説いている』と人から聞いたので、彼に文句を言いますと、『親の名誉にかけても誓わせて下さい。そんなのは、とんでもない嘘ですよ。夢でだって逢ってはいない』というのですが、何と返事をすればいいでしょうか」
と相談してきましたので、私はこう代作してやりました。

   誓へ君遠江のかみ(神と守をかけている)かけて
        むげに浜名の橋見ざりきや
(いくらでも誓いなさい、遠江の守{神}にかけて。絶対に浜名の橋{女}にあったことがないかどうかをね。なお、「浜名の橋」には、「逢瀬を渡る」「下行く水の恋心」等の意味がある)



どうということもない内容にも見えますが、「遠江」は少納言さまの前夫、橘則光と思われ、この頃遠江権守でした。その息子となれば、少納言さまの息子でもありますから、ある女房が相談してくるのも、その力になってやっているのも納得できます。
少納言さまの、数少ない母親姿といえます。
コメント
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