雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

さあ 大谷サーン 本番!! 

2025-03-18 18:47:31 | 日々これ好日

   『 さあ 大谷サーン 本番!! 』 

   いよいよ MLB開幕戦が始まる
   テレビの前で 準備万端
   当地では 先ほど 大きな雷鳴がしたが
   お茶の間観戦は 何の影響もなし
   大谷選手への 期待が大きいが
   個人的には 山本投手に注目している
   さあ セレモニーが始まる

            ☆☆☆

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

猿神と戦う犬飼の男 ・ 今昔の人々

2025-03-18 08:00:53 | 今昔の人々

     『 猿神と戦う犬飼の男 ・ 今昔の人々 』


美作国に、中参・高野と申す神が在(マシ)ました。
その御神体は、中参は猿で、高野は蛇であった。
毎年一度行われる祭りには、生け贄を供える習わしがあったが、生け贄には、その国の未婚の娘を立てるのが、昔からつい最近までの長い習慣であった。

さて、この国に、それほどの家柄ではないが、年のころ十六、七の美しい娘を持っている人がいた。父母はこの娘をたいそう可愛がっていて、わが身に変えても惜しくないほど大切に育てていたが、この娘がその祭の生け贄に当てられたのである。
生け贄は、今年の祭の当日に名指しされると、その日から一年間、大切に養いよく太らせて、次の年の祭には生け贄に立てられるのである。
父母は嘆き悲しんだが、逃れようもないことなので、月日が過ぎるにつれ、共に過ごす日が縮まっていくのを、親子共々に泣き暮らしていた。

ちょうどその頃、東国の方から所用があってこの国にやって来た男がいた。
この男は、犬山といって、多くの犬を飼い慣らして、山に入って猪や鹿を犬に食い殺させて猟をすることを仕事にしていた。また、男自身も、心は極めて猛々しく、物怖じすることなどなかった。
この男は、しばらくこの国に留まっていたが、いつしかこの事を聞きつけた。

そして、あえて用事を作って、この生け贄の娘がいる家を訪ね、話をしているうちに生け贄になる娘の話になった。
蔀戸の隙間から見える娘の姿は、色白でかわいらしく、髪も長くて田舎人の娘とも思えないほど品がある。それが悲しげな様子で髪を振り乱すように泣いている姿は、この犬飼の男の胸を打ち、たいそう哀れに思われた。
父親は、「ただ一人の娘を、このように生け贄に立てられて、嘆き暮らし、思い悩んで月日を過ごしているうちに、別れの日が近づくのが悲しくてなりません。このような国もあるのですねぇ。前の世でいかなる罪を作って、このような国に生れて、このような情けない目を見るのでしょうか」と言う。
犬飼の男は、「世にある人、命に勝る物はありません。また、人が宝とする物に、子に勝る物などありません。それなのに、ただ一人の大切な娘御が目の前で膾(ナマス)にされるのをご覧になるのは、何とも情けないことです。ご主人、いっそ死んでしまいなさい。だが、かわいい娘を取って食おうという者を前にして、無駄死にする者がどこにいますか。神も仏も、自分の命が惜しいから恐ろしいのです。子の為にこそわが身が惜しいのです。それに、娘御はもはやいないのと同じです。同じ死ぬのであれば、娘御を私に下さい。その代わりに、私が死にましょう。それなら、私に下さっても良いではないですか」と言う。

父親は、「それで、あなたは何をなさろうとしているのですか」と訊ねた。
犬飼の男は、「私には考えていることがあります。このお屋敷に私がいることを誰にも言わないで、精進するのだと言って注連縄を引き渡して置いて下さい」と言った。
父親は、「娘が死なずにすむのであれば、私はどうなっていい」と言って、この男に密かに娘を嫁がせた。
犬飼の男は、この娘を妻として過ごしているうちに、しだいに離れがたくなっていった。
そこで、長年飼い慣らしている犬の中から二匹を選び出して、「お前たちは、私の身代わりになるのだ」と言い聞かせて、さらに訓練を重ねた。山から密かに猿を生け捕りにしてきて、人のいない所で、迷うことなく猿を食い殺す練習をさせた。もともと、犬と猿は仲の悪いものなので、しっかり教えて訓練すると、猿の姿を見ると一心に飛びかかり食い殺すようになった。
男自身は、刀を研ぎ澄まして準備して、妻となったこの家の娘に、「私は、そなたの代わりに死ぬつもりです。死は前世からの定めなので仕方がないが、そなたと別れるのは悲しいことだ」と言った。
妻となった娘もまた、そのわけは分らなかったが、たいそう悲しく思った。

いよいよその当日になると、宮司をはじめ多くの人が迎えにやって来た。
新しい長櫃をを持ってきて、「この中に娘御を入れなさい」と言って、長櫃を寝室に運び込んだので、犬飼の男は狩衣に袴だけを着て、刀を身に引き付けて持って長櫃に入った。訓練を重ねた二匹の犬は、左右の脇に伏せさせた。
両親たちは、娘を入れたように思わせて長櫃を取り出すと、鉾、榊、鈴、鏡を持った者たちが雲のように集まって、大声で先払いしながら進んでいった。
妻となった娘は、どういうことになるかと恐れながら、男が自分の身代わりになったことを気の毒に思った。両親は、「後はどうなろうとも、かまわない。どうせ死ぬのであれば、こうするしかなかったのだ」と思っていた。

生け贄を御社に持っていくと、祝詞を唱えてから玉垣の扉を開き、長櫃を結わえている紐を切って中に差し入れた。そして、玉垣の扉を閉めた。宮司たちは、外に居並んでいる。
犬飼の男は、長櫃を少しばかり開けて外を覗いてみると、身の丈七、八尺ばかりの猿が上座にすわっている。歯は白く。顔と尻は赤い。その左右にはずらりと百匹ばかりの猿がすわっている。顔を真っ赤にして眉をつり上げて啼き叫んでいる。
前には、まな板の上に大きな刀が置かれている。酢塩、酒塩などが置かれている。まるで、人が鹿などを料理して食べるかのようである。
しばらくすると、上座の大猿が立ち上がって、長櫃を開こうとした。他の猿どもも皆立ち上がり、一緒に開けようとした。

その時、犬飼の男はにわかに飛び出して、犬に「食いつけ、それ行け」と命じると、二匹の犬は飛び出して、大猿に食いついて打ち伏せた。男は研ぎ澄ました刀を抜いて、大猿を捕らえてまな板の上に引き伏せ、首に刀を差し当てて、「お前が人を殺して食うときは、こうするのだな。その首を切り落して犬の餌にしてやる」と言うと、猿は顔を真っ赤にして眼をしばたいて、白い歯をむき出して、涙を流して手を摺り合わせるのを、犬飼の男は聞き入れようともせず、「お前が長年の間、人の子を喰らった代わりに今日こそ殺してやるのだ。だが、もしお前が神であるなら、今すぐ我を殺せ」と言って、首に刀を差し当てると、二匹の犬も他の多くの猿を食い殺し、何とか生き残った猿は木に登り、あるいは山に隠れて、多くの猿を呼び集めて、山が響くほどに叫び合ったが、どうすることも出来ない。

すると、一人の神主に神が乗り移り、「我はこの後、永久に生物の命を取ることはしない。物の命を取ることもしない。また、この男が我をこのような目に遭わせたからと言って、この男に危害を加えるようなことはしない。生け贄の娘をはじめ、その両親や縁者にとがめ立てはしない。どうか我が身を許してくれ」と仰せられたので、宮司や村の者たちが社に入り、犬飼の男に「御神がこう申されている。もう、許して差上げよ」と言ったが、「自分の命は惜しくない。多くの人の代わりに此奴を殺して、一緒に死んでやる」と言って、なお許そうとしなかったが、神主たちは、さらに祝詞を挙げて誓約させたので、犬飼の男もようやく許してやったので、猿たちは山に逃げ帰っていった。

これから後は、この村で生け贄を立てるようなことはなくなり、犬飼の男は娘と夫婦として末永く暮らしたという。

       ☆   ☆   ☆






コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする