『 籠もよ み籠持ち 』
籠もよ み籠持ち ふくしもよ みぶくし持ち
この岡に 菜摘ます児 家告らせ 名告らさね
そらみつ 大和の国は おしなべて 我こそ居れ
しきなべて 我こそいませ 我こそば 告らめ
家をも名をも
作者 大泊瀬稚武天皇
( 巻1-1 )
こもよ みこもち ふくしもよ みぶくしもち このおかに
なつますこ いえのらせ なのらさね そらみつ やまとのくには
おしなべて われこそおれ しきなべて われこそいませ
われこそば のらめ いえをもなをも
意訳 「 おお 籠も 良い籠をお持ちだ ふくしも 良いふくしをお持ちだ この岡で 菜を摘んでおいでの乙女よ 家を教えておくれ 名前を教えておくれ この 大和の国は
すべて 私が治めている国だよ 隅から隅まで 私が治めているのだよ それでは 私の方から名乗ろう 家も名前も 」
なお、「ふくし」は、菜を採種する「へら」のような物らしい。
「そらみつ」は、大和に掛る枕詞です。
* 作者の大泊瀬稚武天皇(オホハツセワカタケル テンノウ)とは、第二十一代雄略天皇(在位 456 - 479 とされる )のことです。
もっとも、この歌は、雄略天皇が作った歌ではないというのが、ほぼ定説のようです。おそらく、伝承されているような物を、いささかの工夫を加えて歌い上げたのではないでしょうか。
歌の内容は、菜を摘む乙女を誘うかのような部分もありますが、この大和の国は自分が治めているのだという強い自信を示しているように受け取れます。
* 雄略天皇は、兄の安康天皇を暗殺したり、多くの皇子を殺害したとされ、粗暴の振る舞いが多く、「はなはだ悪しき天皇なり」と伝えられている人物です。
ただ、この歌に見えるように、天皇が作った作品でないとしても、このような、まるで歌劇の一場面のような歌を朗々と歌い上げていたとすれば、やはり、帝の地位に上るだけの何かを有していたのでしょう。
万葉の時代、あるいはそれに至る時代の人々の、激しい争いを秘めながらも、大らかで新しい時代への自信に溢れた姿を見せてくれているように思うです。
また、この歌は、万葉集の巻頭歌ですが、万葉集の編者がこの歌を選んだ理由が分るような気がするのです。
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