雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

トランプの時代 ・ 小さな小さな物語 ( 910 )

2017-04-22 13:31:20 | 小さな小さな物語 第十六部
アメリカの大統領選挙は、大方の予想に反しトランプ氏が勝利しました。
選挙中は、わが国の選挙では致命的と思われるようなスキャンダルが明るみに出たり、そこまで言っていいのか、と思われるような暴言を再三どころが四六時中振りまきながら、根強い支持層をがっちりつかんでいたのでしょうか、接戦州と言われていた州をことごとく勝利するという予想外の展開を見せつけてくれました。
何はともあれ、来年からの四年間は、アメリカという世界の最強国であり、わが国にとって最も影響の大きいこの超大国は、トランプ氏という人物をリーダーに選んだわけです。

この長期にわたる選挙戦は、私たちに多くのことを示唆してくれたように思われます。
まず、世界中の、大手の報道機関やシンクタンクなどといわれる所の選挙予想は、必ずしも正確ではないということが世間に知られてしまいました。隠れトランプといったような理由づけはいろいろ示されているようですが、イギリスのEU離脱の国民投票の結果がそうであったように、先進国の自由な意思で投票できる人々の動向を、ごく限られた知識や経験などでは、そうそう簡単にはつかみ切れないということがはっきりしてきたのではないでしょうか。つまり、この種の予想においては、今後は相当の誤差の範囲を設けなくてはならなくなるでしょう。

もっと本質的なことを考えるとすれば、知識不足を承知で申し上げるのですが、世界の多くの国や地域で、ヒラリー的な価値観からトランプ的な価値観への変化が、かなりのスピードで起こっているのではないでしょうか。
第二次世界大戦後、アメリカを中心として築かれてきたと考えられる秩序や正義や価値観といったものの尺度を、この二人で代表させるのには無理があると思いますが、隣国での政治の混乱などもそうした動きの一つのように思われるのです。

トランプ氏を支持した有力な層は、社会の繁栄から置き去りにされたと考えている白人だといわれています。激しすぎるほどの他人種や密入国者などへの攻撃的な発言は、明らかにそうした層へのアピールだったはずです。つまり、一国の繁栄は、ややもするとトータル的な係数によって評価されがちですが、その国には一人一人の生活があり、時には国家の繁栄以上に個人の生活基盤が重要だということを、為政者はもっと知る必要があるような気がするのです。
世界で最も豊かで、世界の民主主義をリードしていると考えられるアメリカでさえ、その国内には複雑な問題があり、個々の生活を守っていくことは容易なことではないようです。そして、選挙によってリーダーを選ぶ制度を持っている国家は、そうした人たちの声を無視することは出来なくなってきており、一部の経済人や知識人や長年のボスを味方にしただけでは、政治的なリーダーになれない時代がやって来たように思われます。
もしかすると、この数年を、そうした価値観が大きく変化する「トランプの時代」と呼ばれることになるような予感がするのです。

( 2016.11.11 )

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