閻魔王の仰せを受ける ・ 今昔物語 ( 13 - 13 )
今は昔、
出羽の国に竜花寺(リュウゲジ・所在不詳)という寺があった。その寺に妙達和尚(ミョウタツカショウ・伝不祥)という僧が住んでいた。その寺の住職であったようだ。生活態度は清らかで、心は正直であった。また、常に法華経を読誦して長い年月が経っていた。
さて、天暦九年(955)という年に、特に病気ということではなかったが、手に経を持ったまま突然死んでしまった。ところが、日次(ヒナミ・お日柄)が良くないということで、弟子たちはそれを忌みて七日の間葬儀をしなかった。
すると、七日目によみがえって、弟子たちにこう話した。
「私は死んで閻魔王の宮殿に行き着いた。閻魔王は玉座よりお下りになって、私を礼拝してから、『寿命が尽きていない者はここに来てはならない。お前は未だ寿命は尽きていないが、わしはお前を呼んだのだ。そのわけは、お前はひたすら法華経を信奉して、濁世(ジョクセ・濁って汚れた世界。人間界。現世。)において仏法を護る人だと見ている。それで、わしはお前に直接、日本国中の衆生の行う善悪のことを説き聞かせよう。お前は忘れずにもとの国に帰り、よく善を勧め悪を止めさせて、衆生を救うように』と仰せられて、私を帰してよこしたのである」と。
このことを聞いた人は、多くが悪心を止めて出家入道した。あるいは、仏像を造り、経巻を写し、あるいは塔を立て堂舎を造る者が限りなかった。
妙達和尚は、その在世中は法華経を読誦することを怠ることがなかった。
遂に命終る時に臨み、手に香炉を取り仏を廻り奉って、礼拝すること百八へん、その後、顔を地につけて合掌して亡くなった。
必ず極楽に生まれる人だ、
となむ語り伝へたるとや。
☆ ☆ ☆
今は昔、
出羽の国に竜花寺(リュウゲジ・所在不詳)という寺があった。その寺に妙達和尚(ミョウタツカショウ・伝不祥)という僧が住んでいた。その寺の住職であったようだ。生活態度は清らかで、心は正直であった。また、常に法華経を読誦して長い年月が経っていた。
さて、天暦九年(955)という年に、特に病気ということではなかったが、手に経を持ったまま突然死んでしまった。ところが、日次(ヒナミ・お日柄)が良くないということで、弟子たちはそれを忌みて七日の間葬儀をしなかった。
すると、七日目によみがえって、弟子たちにこう話した。
「私は死んで閻魔王の宮殿に行き着いた。閻魔王は玉座よりお下りになって、私を礼拝してから、『寿命が尽きていない者はここに来てはならない。お前は未だ寿命は尽きていないが、わしはお前を呼んだのだ。そのわけは、お前はひたすら法華経を信奉して、濁世(ジョクセ・濁って汚れた世界。人間界。現世。)において仏法を護る人だと見ている。それで、わしはお前に直接、日本国中の衆生の行う善悪のことを説き聞かせよう。お前は忘れずにもとの国に帰り、よく善を勧め悪を止めさせて、衆生を救うように』と仰せられて、私を帰してよこしたのである」と。
このことを聞いた人は、多くが悪心を止めて出家入道した。あるいは、仏像を造り、経巻を写し、あるいは塔を立て堂舎を造る者が限りなかった。
妙達和尚は、その在世中は法華経を読誦することを怠ることがなかった。
遂に命終る時に臨み、手に香炉を取り仏を廻り奉って、礼拝すること百八へん、その後、顔を地につけて合掌して亡くなった。
必ず極楽に生まれる人だ、
となむ語り伝へたるとや。
☆ ☆ ☆