ピンカーの「暴力の人類史」以来、現在は安寧な時代、暴力も減少という分析がやっと常識になりつつある。本著は、その裏打ちと何故暗い世の中になるのかを事例分析しており面白い。知見は:
・第二次世界大戦での一般市民の爆撃は「恐怖や士気の低下」を呼ばず、「落ちついていた」ため更なる爆撃につながった→軍隊同士の戦争から一般市民への攻撃による講和狙い 「戦争の未来」ローレンス・フリードマンに詳しい(おすすめ)
・ノセボ効果:根拠がないが効果が出る集団心因、認識バイアスやレッテル付けによるえこひいきの効果に似る、みんなが良いというから良いんだという心理の裏返し
・ニュースと現実は負の相関:平和なときほど、悲惨なニュース→悲劇のカタルシスか、人が犬を噛むとニュースになるのと似ている
・人間は猿より優れるのは社会能力、協力
・利己的な遺伝子はGM CEOウェルチやエンロンのCEOスキリングのRank and Yankは組織内の闘争を呼び、CEOらの強欲により会社は破綻する
・狩猟採集者を他者に支配されない(支配しない)、友情で分け与える、備蓄と貯蔵はしない→ベドウィンでも「なんで家に寄らない、ラクダを食べないのか!」というのを聞く「格差の起源」オデッド・ガロー:統一成長理論のトンデモ本に近いが
・文明は災い、定住により疫病が蔓延、支配体制が起こった
・モアイ像は部族間の争い(ダイヤモンド著)ではなく、ナンヨウネズミの来島による繁殖と災害(木の実を食べつくし、禿山に)、さらにヨーロッパ人の来訪による天然痘ウイルス、モアイは自然に倒れた
・愛情ホルモン オキシトシンは友人への愛情と他人への憎悪の両面
・戦場でも銃を撃つのは1割くらい、頼りになるのも1/4、撃墜の約40%は1%のパイロットの戦果(その他は、撃墜しようともしない)
・戦場で無理に撃たされるとPTSDになる(ヴェトナム戦争が事例)
・友情が戦争を進める、集団形成の共感と他集団への憎悪のジレンマ
・遠隔地からの攻撃が75%、見える敵に銃を撃つのは避ける
・恥を感じないソシオパスは1%、CEOは4~8%
・飲酒は好きではないが「他の人は飲むのが大好き」と思い込み、合わせることで二日酔いになる、人間の本性へのネガティヴな考えかたも同じでは
・資本主義は人参(金)、共産主義は棍棒(罰)に頼る
・金をもらうと善意の行為がなくなる、逆に金で善意が買えると思い支払う(保育園の遅刻ペナルティの罰金などが有名)
・遊びの逆は仕事ではない、鬱病だ:意義ある生き方のため遊ぶ
・共有地の悲劇は共有資産の独占もある、共感し共有する方が楽しいが障害が多い:特許など
・黒人と交流した白人は偏見が減る:接触仮説 知っている人には共感を抱く
生き方の提言:
・共感を抑え、思いやりの心を育てる:他人の心を共感するより、人がより良くなることする「思いやり」
・ニュースを避ける:ネガティビティ・バイアスがあり見れば見る程広告が儲かるしくみ
・人に手を差し伸べる:優しさは伝播する
軽い読み物だが、面白い