都市と楽しみ

都市計画と経済学を京都で考えています。楽しみは食べ歩き、テニス、庭園、絵画作成・鑑賞、オーディオと自転車

世界インフレの謎(渡辺努):S(供給)/D(需要)のサイクルで分析、予測と生産性など一般論

2023-03-26 02:58:07 | マクロ経済

 Harvard Ph.D.の経歴であり、読みやすい。MITの理論派とは違う。AS-AD Model( https://en.wikipedia.org/wiki/AD%E2%80%93AS_model )の活用( https://capitalism-slaves.com/economics/877/ )も根底にある。さらに、サイクルと予測を入れ、需要の変動に重きを置いている。

知見は:

・リーマン・ショック後の低インフレの原因として

①グローバリゼーション:安い所で作る、効率的なサプライ・チェーン

②少子高齢化によるGDP低下予測(期待)による貯蓄→賛同できない、「デフレの正体 経済は『人口の波』で動く」(藻谷浩介)の俗流経済学(浜田宏一命名 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B5%9C%E7%94%B0%E5%AE%8F%E4%B8%80 )と同じだ。AS-ADモデルにおいて生産が少なくなるとインフレが来て、GDPが下る(逆に生産性が上がると、デフレになりGDPが上がる:フォーディズム( https://en.wikipedia.org/wiki/Fordism )などの実例)

③技術革新の頭打ちと、生産性の伸びが低迷、GDP(生産)の伸びが低迷→上記によりインフレ要因になる

と①と③が相反しており本当に経済学者なのか疑う、または説明が不足している。GDP低下とデフレは相関しない。ちなみにインフレとGDP成長も同じ。

・インフレは21年から始まっており、22年に急増した、コロナ・パンデミックが要因と仮説

①アメリカなどでは労働者の恐怖から就労者減少となり物が不足しインフレか

②モノ消費の増大による消費からのインフレ

③サプライ・チェーン分断による供給不足からのインフレ

は充分に証明はされてはいない。

・サイクルは:生活費→賃上げ→企業の価格転嫁→価格引上→アベノミクスでは、低金利、企業収益の増大→賃上げ→生活費の逆回りのトリクルダウン狙いだった(P251~4)とあるのは正しい。(浜田宏一提唱 https://www.tokyo-np.co.jp/article/237764 )なお、インフレを引き起こすならまずは賃上げ、消費を伸ばす(需要を喚起)したうえで値上げをすると、ADは右シフト、 ASは左シフトにより、P(価格)は上昇(インフレ)になり、GDPはほぼ中立(インフレ分増大)になる。さらに、長すぎた「異次元緩和」の継続とマイナス金利でも効果がない「流動性の罠」に陥り、投機による不動産など「資産」価格の高騰を招いたが本著では逆効果の指摘もないのは不思議だ。

・我が国では消費者の情報効果による巣ごもりがGDP低下と需要不足による物価下落か、慢性デフレ基調、エネルギー関連だけがインフレ:低すぎるインフレ予想(世の中の心理)、値上げ嫌い(生活者の需要)、価格据え置き慣行(企業の供給)が低インフレの原因というのは当たり前すぎる→①この30年既存市場でのパイの奪い合いに終始し、シェアのために値上げがなかったこと、②バブルの反省(銀行嫌い)から内部留保の積上げ優先を行い、賃上げ後回しをしたこと、③新規事業などの改革を嫌い、安全保守の経営に徹したことが、生産性の低迷となりGDPの足かせと低賃金(年功序列賃金の見直しなど)、ほぼ0のインフレとなったと思われる。これらの産業分析がないのは解しかねる。

 ただし、我が国の30年の低成長とほぼ0のインフレについては、インフレ「期待」がないことと、値上げしないという風潮という「空気」の分析しかないのは残念だ

 一読しても、得るものは無かった

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする