スマホOS「独禁法上問題の恐れ」 アプリ決済開放要請
2023 2 9

公正取引委員会は9日、米アップルと米グーグルが提供するスマートフォンの基本ソフト(OS)に関する報告書をまとめた。アプリ提供事業者への高額な手数料や自社アプリの優遇は独占禁止法上、問題になる恐れがあると指摘した。アプリ決済の開放も求めた。欧州のように禁止事項をあらかじめ示す「事前規制」の導入を念頭に法整備の必要性にも触れた。
報告書作成にあたって実施した調査はアップルとグーグルから書面を通じて回答を得た。アプリを提供する事業者のほか消費者などにもアンケートを実施した。
主に3つの分野での問題点を挙げ、改善を促した。1つ目はOS市場だ。民間企業の調査によると携帯端末台数ベースのシェアはアップルの「iOS」が46.6%、グーグルの「アンドロイド」が53.4%を占める。2つ目は囲い込みなどにつながる「アップストア」といったアプリストアに関してだ。いずれも両社が市場を寡占する状況について「競争が十分に行われていない」との判断をまとめた。
3つ目はアプリ市場での自社優遇の防止を挙げた。アプリストアでは両社が提供するアプリと、他の事業者のアプリの両方を販売しており、同様に扱う対応が望ましいと強調した。両社は検索アルゴリズムやランキング表示などを操作して自社を有利にできる立場にあるためだ。
外部事業者のアプリからデータを吸い上げ、自社のサービス開発や製品改善に生かすことや、自社が提供するアプリが優先的に使われるような仕組みにも懸念を示した。仮にこうした行為に及んでいた場合、独禁法上の「私的独占」などにあたる恐れがあると言及した。両社はデータの不正利用などは否定している
アプリストアなどでは両社の決済システムしか利用できないケースが多い状況が問題視されてきた。報告書では「自社以外の課金システムと併用または選択可能にする」対応を求めた。
アップルとグーグルはアプリストアを使う事業者から15〜30%の手数料を徴収している。事業者からは高止まりしているとの不満が根強い。
公取委は高額な手数料設定がコンテンツやサービス提供価格の高止まりにつながりかねないとみている。一方的に高額な手数料を設定して事業者が不利になることは、独禁法が禁じる「優越的地位の乱用」などにあたる可能性があるとの見解を示した。
アップルは調査で「デベロッパーのアプリ開発促進のためには手数料モデルが最善と判断した」と回答した。グーグルは「手数料を支払っている事業者のほとんどは15%以下の手数料が適用されている」と強調した。
両社が自主的に対応するかは見通せない。状況の改善には「法整備による担保が有効だ」と主張した。禁止行為などをあらかじめ示す事前規制が念頭にある。問題を事後的に取り締まる独禁法だけでは変化の速いデジタル市場の規制に不十分とみている。
欧州連合(EU)は2023年中にも事前規制の考えに基づくデジタル市場法(DMA)を施行する。IT(情報技術)大手に対し、自社サービス内で同業他社を差別的に扱ったり、スマホなどに特定のアプリを事前にインストールしたりすることを禁じる内容だ。アプリで自社の決済システムのみの利用を強制することもできなくする。
世界では各国・地域の規制当局による働きかけで両社が運用を見直すケースが相次ぐ。アプリ課金時に決済手段を自社サービスに拘束している問題をめぐっては韓国で利用の強制を禁じる法律が21年に成立し、両社が別の決済手段を認めるなどの対応をとった。
グーグルは日本などを含む複数国で22年からゲーム以外での外部決済システムの利用を認め、手数料水準が下がった例もある。手数料分をアプリ価格に上乗せしている事業者にとっては値下げにつながる可能性がある。ただ引き下げ幅は小さく、ほかの決済手段でも別途手数料が生じるため、効果が相殺されるとの指摘もある。
日本は問題が起きてから検証し課徴金や是正を命じる対策をとってきた。ただ証拠収集や立証に時間がかかる独禁法では、変化が早く市場構造が複雑な巨大ITが関与すると競争環境の公平さを保ちにくい。事前規制なら包括的な寡占の抑止が可能になる。
アプリ事業者などが公正な条件で競争できれば、サービスの質の向上や価格低減につながる可能性がある。政府は欧州などの状況をみながら実際に法整備に踏み切るかを判断する。