５月４日（日） 曇り

　　夜、高田馬場の「素材屋」という居酒屋で2005年度の調査実習ゼミの学生たち（卒業後１年）の集まりがあるというので、夕方から出かけていった。
　　山の手線の車内で、シートに腰かけて本を読んでいると、目の前には小学校１年生くらいの女の子がお母さんと手をつないで立っていた。目の大きな、かわいらしい子であった。その子が私の手元と顔を交互にみつめている。どうやら私が本にグリーンのゲルインクペンで線を引きながら読んでいるのに驚いているようなのである。このくらいの年齢の子には、本に線を引くというのは、禁断の行為なのかもしれない。親や先生からは本は大切に扱うように言われているのであろう。それなのに、いま、自分の目の前に座っている大人は、こともあろうに本に緑色の線を引いている。しかし、その子のまなざしは決して私の逸脱行動を非難しているようには見えなかった。むしろ本に線を引くという行為に魅了されているように見えた。私は試しに本の余白にメモ書きをしてみた。すると女の子はますます目を大きく見開いて、私の手元をみつめ、そして私の顔をみつめた。わっ、このおじさん、線だけじゃなくて、字まで書いている！ 私は、ＴＶドラマ『ガリレオ』で福山雅治がやったように、わけのわからない数式を猛烈なスピードで余白に書き込み、「うん、謎はすべて解明された」とクールな口調で呟いてみたい衝動に駆られたが、それはやめておいた。女の子と母親は新宿で降りた。
　　「素材屋」に来ていたのはＯ君、Ｍさん、Ｆさん、Ｋさん、Ｈさんの５人だった。あと２人来るはずだったが、急に都合が悪くなってしまったらしい。料理の方は８人分出てきて、女性が多いということもあって、とても食べ切れなかった。５人の近況は各人各様だが、当然、大学卒業１年目という状況を反映した共通の心境や課題も共有している。いまの職場からの離脱のタイミングをまだ漠然とではあるもののすでに考えているというのはいかにも現代の若者である。仕事にまつわる興味深い話もたくさん聞いたが、ここには書けない。プライベートな面では総じて結婚志向が強いようにも見受けられたが、具体的な相手がいるかどうかという変数に左右されているところが大きいのかもしれない。配偶者選択にまつわる興味深い話もたくさん聞けたが、それもここでは書けない。一次会は１０時にお開きになった。高田馬場の駅へとブラブラ歩きながら、私には見慣れたこの街の風景も、いまの彼らにはきっと違って見えているのだろうなと思った。