フィールドノート

連続した日々の一つ一つに明確な輪郭を与えるために

1月2日(土) 晴れ

2010-01-03 02:24:59 | Weblog

  9時、起床。今日もよく晴れている。好天続きの今年の正月だ。お節と雑煮の朝食。いただいた年賀状を見ていると小雀のファンの方が少なからずおられるようなので、新年最初の顔見せとまいりましょうか。


めでたさもチュンくらいなりおらが春

  昼食にお汁粉と磯辺巻きを食べてから、外出する。ちょうど玄関を出ようとするところに郵便屋さんがやってきて、年賀状を渡される。卒業生からのものを抜き取って、返信用の年賀状と一緒にバッグに入れて出かける。
  恵比寿の東京都写真美術館へ行く。美術館はたいてい今日からやっていて、しかも初日無料のところが多い。「出発―6人のアーティストによる旅」と題された日本の新進作家展を観る。最初のコーナーは尾仲浩二。近くにいたカップルが「あれを観た後だとね・・・」と語り合っている。「あれ」とは上の階でやっている「木村伊兵衛とアンリ・カルティエ=ブレッソン」展のことだろう。確かにビッグネーム2人と比べられたら新進作家は分が悪いだろう。とくに尾仲浩二は6人の中では一番アマチュアっぽい写真家だ。旅に出て、どこかの小さな町の、何気ない風景を撮っている。そこにはたいてい人間か動物が点景としてに写っている。誤解を恐れずに言えば、私でも撮れそうなスナップショットばかりだ。けれど、いや、だからというべきだろう、彼の作品は水のように私の身体になじむ。木村伊兵衛のヒューマニズムも森山大道のドラマトゥルギーも荒木経惟のセンチメンタリズムもここにはないけれど、私もこんな旅をしてみたいと思わせる作品たちだ。彼の旅の手帖からの抜粋。

  2009年2月9日 晴・くもり・晴
  駅前市場で朝食 市電 フェリーで江田島 切串 牡蠣養殖 時間持て余し寒い 待合所の食堂でイワシ天とハマチ刺で千福カップ2本 フェリーで呉 JRで岩国 雨降りだし日暮れて宿探し ホテルのレストランバイキングは若い米兵たちが帰るとひとりきり 焼牡蠣で冷酒

  展示室の最後のコーナーは内藤さゆり。6人の中では彼女の作品が一番面白かった。リスボンの街の風景を独特の視点から撮った作品たちなのだが、ここには人物が写っていない。彼女は自分の意図を明快に説明している。

  綺麗。
  素直に感動しながら、私は目の前の景色を切り取っていく。
  (中略)
  私は異国の地からやってきた旅人には違いないけれど、観光の記録は撮りたくない。
  人の表情だけでは表すことのできない、その街の色や湿度を撮りたい。
  人が居なくても感じられる、その街の気配や佇まいを撮りたい。
  だから、その街で誰かと出会っても、躊躇う事なく過ぎ去ろう。
  出会った誰かではない、辿り着く何処かの為に。
  記憶に残るように、光と空気を味方につけながらシャッターを切り、
  私は、わずかに滲みをともなった断片をつなげていく。

  人間(他者)ではなく場所、それも観光ガイドブックに載っているような場所ではない、彼女が見つけた場所。その場所でシャッターを切ったときの彼女の感動が作品から素直に伝わってくる。こんな旅もしてみたいと私は激しく思う。
  「シャンブル・クレール」でいつもの生ハムのオープンサンドとミルクティー(アールグレー)を注文して、バッグに入れてきた年賀状の返信を書いた。


写真を撮る女