フィールドノート

連続した日々の一つ一つに明確な輪郭を与えるために

8月5日(火) 晴れ

2014-08-06 11:25:13 | Weblog

8時半、起床。

パン、サラダ(ハム、トマト、レタス)、オレンジジュースの朝食。

午後1時前に家を出る。特定の目的(目的地)を定めずに歩くのが散歩だとすると、今日は散歩ではない。外出の目的は2つ。(1)卒業生のMさんと大井町でランチをする。(2)前回、展示替え期間中で休館だった品川の原美術館へ行く。

りんかい線大井町駅の改札に約束の1時20分に着くと、すでにMさんの姿があった。今月から彼女の職場はりんかい線の品川シーサイド駅の近くに引っ越した。派遣社員のMさんは毎日9時から1時まで仕事をして、午後は主婦業をしている。「1時にサッと会社を出れば、大井町には1時20分頃着くので、それからランチをして、3時に大井町を出れば、上の子のお迎えに間に合います」とのことだった。つまりランチとお茶の時間は1時間半ほどということになる。なんだかフリーライター(私)が売れっ子のタレント(Mさん)にインタビューをするみたいな気分だ。

卒業生と会うときに、一番、面会の時間を設定するのが楽なのは、フルタイムで働いている独身のサラリーマン(ウーマン)で、土日(休日)でもいいし、平日の夜(仕事終わり)でもいい。反対に、面会の時間の設定に苦労するのは、Mさんのようにパートタイムで働いていて、既婚で、小さなお子さんがいて、しかしお子さんの面倒をみてくれる人(家族や親族)が家にいないという場合だ。必然的に、平日の、仕事終わりからお子さんをお迎えに行くまでの隙間の時間が面会可能な時間帯となる。時間のロスを最小にするためには、研究室に来てもらうより、ケースバイケースで、互いの都合のよい場所で会った方が合理的だ。そういう対応をできるのは、私が仕事柄、時間の裁量のできる人間であるからで、これが同じく小さなお子さんのいる主婦同士であれば、いざ会いましょうといっても時間の調整はさぞかし大変だろう。われわれは複数の集団に所属し、集団はそれぞれ固有の時間で動いている。しかも、集団の時間といっても一つの時計があるわけではなくて、家族の時間でいえば、配偶者の時間や子供の時間というメンバーひとりひとりの時間の複合体である。「自分の時間」、「自由な時間」というのは、現代人の生活において貴重な資源であるが、お金同様、その配分状況は実に不平等なのである。

大井町は初めてというMさんを、もっとも大井町らしい一角、東小路に案内する。何軒か候補の店の前を通って、入ったのは「ブルドッグ」。大井町B級グルメを代表する洋食屋である。ただし、私も入るのは初めて。

私はメンチカツ定食、Mさんはカニコロッケとライスを注文。

メンチカツが大きい。私の手のひらより大きい。そして、あらかじめソースがかかっているところがB級グルメらしいところである。

写真ではわからないが、Mさんのお皿にはカニコロッケが2つのっている。こちらはとくに大きいということはないが、Mさんにとって想定外だったのは、カニクリームコロッケだと思っていたのがカニコロッケだったこと。確かにメニューにはカニコロッケと書いてあるが、普通、カニクリームコロッケを思い受かべるだろう。でも、カニコロッケはコロッケにカニが入っているが、クリーミーではない。つまり中身がしっかり詰まっている。Mさんは一個を食べたあたりでお腹いっぱいになったようで、「先生、召し上がりますか?」と聞いてきた。これは翻訳すると「助けてください」という意味である。私は大きなメンチカツと格闘中であったが、教え子の「助けて」サインは放っておくわけにはいかない。カニコロッケを半分に切って私の皿に移し、ついでに残っているライスも半分ほどいただいた。

昨日、ジムで頑張って、860キロカロリーという自己最高を更新したが、これで全部ちゃらになったなと私は思った。

時間はかかったが、2人で協力してメンチカツ定食とカニコロッケ+ライスを完食し、店を出る。

店先で記念撮影。ニッコリ笑っての棒立ち。休日の婦人警官みたいである。「何かポーズが欲しいですね」との私のリクエストに、照れながらのピースサイン。いまどきピースサインごときで照れる人がいるなんて・・・。

 

3時までにはまだ30分ほどある。コーヒーと紅茶どちらがいいですかとMさんに聞くと、コーヒーを希望されたので、「pottery」へ案内する。 「pottery」と聞いてMさんの表情にちょっと緊張が走ったように見えたのは、私の勘違いではなくて、後から聞いたところでは、私のブログで「pottery」のマダムは怖そうな人だと思い込んでいたからであった。確かにマダムは女性同士が女子会的な大きな声や笑い声を店内に響かせることには顔をしかめる。カフェとは公共の空間なのだ。そういう客は冷たくあしらうので、たいていもう来なくなるそうだ(という話をブログに書いたことがある)。でも、それは一部のマナーを心得ない客に対しての話。私の連れに対してはそんなことはありません。今日も「いらっしゃい」とにこやかに出迎えくれた。「イメージと全然違って、やさしい方で安心しました」と後からMさんが私に言った。

9時から1時までの仕事のために毎日往復2時間かけて出かけることは、お金のことだけを考えたならば、合理的とはいえない。でも、仕事で家の外に出るということは、お金のためだけではないのだ。毎日、子どもと夫の帰りを待つ(だけの)生活というのは、もちろんそれを充実した毎日と感じる人もいないわけではないだろうが、多くの場合、閉塞感を生むだろう。自宅とその周辺の外側に生活空間を拡張したい、家族や子どもの友達の母親以外に人間関係を築きたい、夫の給料に完全に依存している生活から脱却したい、などなど、そういう欲求は自然に出てくるものである。また、長期間、労働市場を離れていると、はたして復帰した時に適応できるだろうかという不安もあるだろう。そういう欲求や不安にかられて、小さな子どものいる女性がパートタイムの仕事に就く。あれこれのプラスマイナス、あれこれのバランスをを考えながらの、ぎりぎりの選択であり、決断である。

そろそろ3時。店を出て、記念撮影。やっぱり、ニッコリ笑っての棒立ちだが、無理にポーズをお願いするのはやめて、ちょっと横を向いた一瞬を撮る。東京が今夏一番暑い日に撮った、暑さを感じさせない笑顔の写真だ。

Mさんと別れて、品川駅から徒歩15分の原美術館へ。

前回ああいうことがあったので、ちゃんと開館中であることを確認して、ホッとする。

モダンアートの複数の作家たちによる展示会である。写真撮影はOKとのこと。

ほどよい広さ。館内にはカフェもある。

アイスレモネードで一服。(でも、お冷でも十分に美味しい)

面白い展示会だった。ショップで、今回の展示会のカタログはありますかと尋ねたら、ただいま作成中とのこと。完成した頃にまた来よう。

蒲田に戻ってくる。

5時半頃、帰宅。

玄関前の植物たちに水をやる。

何か動いているものがある。バッタだった。この一鉢が彼のフィールドなのだろうか。ほかにバッタの姿はなかった。

今夜の夕食は盛りだくさん。

う~む、カロリー採り過ぎの一日。明日は絶対にジムへ行かねば。

夜、Mさんから今日のお礼のメール。次回は友人のTさんと二人でお邪魔して、先生はお酒は飲まなくても、自分たちだけ飲んで、二人ではっちゃけたポーズをしようかと思いますと書かれていた。そ、そんな、無理にはっちゃけなくても・・・。ニッコリ笑顔の棒立ちでいいですから。