(承前)
ブックカフェ「栞日」(しおりび)。「高橋ラジオ商会」という看板は以前ここがそういう店舗であったときのものをあえてそのまま残している。
「栞日」の看板はあえて小さく入り口のドアの脇に置かれている。
ドリンクの注文をしてから二階に上がる。
いつ来てもここは格別の空間である。
いくつかテーブルがあるが、この窓際の机が空いていれば必ずここに座る。
私はアイスジンジャーとドーナツ(プレイン)。Aさんはホットジンジャー。
店主の菊地さんがやってきて「先日、店にいらした卒業生から大久保さんが近々来れられると聞いておりました」と言った。
アリさんの下の娘さんはここで『不思議の国のアリス』が気に入ってしまったんですよね。
私の今日の一冊は、松井啓子『くだもののにおいのする日』(ゆめある舎)。1980年に駒込書房から刊行された「幻の詩集」を4年前に新装復刊したものである。
タイトルからは油断しやすいが、甘味な詩ではない。日常の生活の中に漂う非日常的なものを詩人らしい鋭利な果物ナイフで切り取ってみせてくれる詩である。
たとえば「パート」という詩。
パート
という種類の梨を
隣のベッドでむいている
きのう子供を死産した女が
きょう梨を食べている
父親の果樹園からいまもいできたものだと
ちいさく夫が言っている
やっぱりうちのがいちばんだと
ひそひそ妻が言っている
同室の人びとにふるまうことを忘れて
むけばむくだけ女は食べ
残るひとつを見おさめて
男はバイクで帰っていく
夜 寝しずまった室内に 低く
果実のにおいが残っている
タイトルからは外れるが、果物ではなく野菜のことを書いた詩もある。「冬瓜」という詩。
きょうは思いきって
とうがん
というものを煮てみる
うりでも
かぼちゃでもない
飾り窓もない ばかでかい野菜
部屋に背を向けて
薄く切りきざんで
とろ火で煮込む
一人や二人では食べきれぬものが
もう鍋ぶたを持ち上げていて
それなら あれはどこへ行ったか
いつかの薄暗い台所の土間に
ごろごろところがされてあった
あのいくつもの冬瓜は
かたくりを入れて
とろりとする間に
立ったままで牛乳を飲むと
夕刻は
西日のように
少しずつ奥の方まで届いてきて
結んだねこの首輪のように 足もとで
ほろっとほどけた
時刻は5時半、そろそろAさんがお帰りになる時間だ。「栞日」を出て、あがたの森通りを駅の方へ歩く。今日はありがとう。今度、東京にいらっしゃる用事があるときは、私のなじみのカフェにご案内しましょう。
Aさんを見送ってから、ホテルにチェックイン。スマホとノートパソコンをWi-Fiに接続する。
8階の部屋の窓からちょうど山の端に沈む夕日が見えた。
今日はもう一軒、顔を出すカフェがある。ギャラリーカフェ「GARGAS」(ガルガ)。明日明後日が定休日なので今日しかないのである。場所は市民芸術館の後ろ、深志神社の横である、蔵を改築したカフェである。
二人用のテーブルが2セットとカウンターのみのカフェである。ショップスペースにはこれまでギャラリーで展示会をした作家さんたちの作品(小物)が並んでいる。
ここに来たときは必ず注文するチキンカレー。大中小とあるが小をチョイス。カフェ巡りの心得を一つ教えましょう。一つの店で食べすぎないことです(笑)。
付いてくるサラダも綺麗で美味しい。
さて、2階のギャラリースペースへ。
展示会は月替わり。8月は山本葵「山で感じたこと」
山登りの好きな作家さんによる彫金の作品である。
山頂の雷鳥(ですよね?)。
私はそんなに山の名前は知らないが、これはたぶん槍ヶ岳ですよね。頂上のちょっと下にある突起は「小槍」(こやり)ですよね。 売約済みの赤いマークがついている作品が多い。聞くところでは、最初の数日でたくさんマークが付いてしまったそうだ。
バッジがたくさん。
山頂の鳥の3Ðバージョン。
羽ばたく鳥。
ひょろりとした草。
今回はこれを買っていくことにする。一輪挿しに面白いかもしれない。
ショップで小池千恵さんのお皿も2枚購入。彼女の作品は大好きだ。
7時半に「GARGAS」を出る。閉店は8時だが、たぶん私が本日最後の客だろう。
私は来られないが、9月の展示会は大胡琴美「花器、酒器、茶器」展。ショップに彼女の作品(小皿)があったが、とても素敵な色をしていた。
「栞日」は通常は6時までだが、今日は何かのイベントがあったようで、前を通るをその片づけをしていた。明日また来ますね。
コンビニで食料を買って帰る。今日の夜食(どん兵衛きつねうどん)と明日の朝食(たらこクリームスープパスタ)、それからお菓子と飲み物。
風呂を浴びてから、今日撮った写真の整理をパソコンでしながら、たまたまテレビを付けたらやっていた映画『君の膵臓を食べたい』(2017)を見ていたら、これがなかなか面白かった。主役の女子高を演じた浜辺美波という子は、『崖っぷちホテル』にシェフの役で出ていた子だというこいうことに途中から気がついた。この映画で認められたんだな。
映画を見ながら食べたきつねうどんも美味しかった。いつの間に麺がソフトになって、スープが液状になったのだろう。
映画を見終えて、11時半、就寝。普段よりだいぶ早いが、今日は寝不足の上によく歩いたからな。