金木犀、薔薇、白木蓮

本と映画、ときどきドラマ。
★の数は「好み度」または「個人的なお役立ち度」です。
現在、記事の整理中。

256:乙川優三郎 『冬の標』

2006-11-27 18:52:54 | 06 本の感想
乙川優三郎『冬の標』(中央公論新社)
★★★★☆

幕末の小藩で絵の世界に見入られ、画家の岡村葦秋に
師事することになった十三歳の少女・明世。
成長するにしたがって世間のしきたりと衝突し、
画家として生きたいという意志に反して嫁ぐことに。
婚家や女の立場にしばられ、数々の不運に見舞われながらも、
やがて同門の平吉や修理と再会して再び絵への思いを強め、
自分の道を歩みだすことになる。

ともすると「耐える女の一代記」になってしまいそうな展開なのだけれど、
明世の絵に向ける激しい情熱が前面に押し出されていて、
悩みつつも自分の道を進もうとする彼女の強い意志に
さわやかさを感じる。
前半ですでに何度かじーんと来てしまうエピソードが
さしはさまれていて、親子の情、師弟愛、同門の仲間たちとの絆や
姑との和解などなど、読んでいる間中、胸がいっぱい。
絵への情熱と重なったような恋もせつない。
このところよく名前を見かける機会の多かったこの著者、
要チェックだわー。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

255:吉田修一 『ひなた』

2006-11-27 18:27:53 | 06 本の感想
吉田修一『ひなた』(光文社)
★★★☆☆

ブランドHの広報に新卒採用されたレイと、その恋人である大学生の尚純、
尚純の兄で信用金庫に勤める・浩一と、その妻で編集者の桂子。
四人の男女それぞれの視点で描かれる日常。

JJで連載されていたというのにふさわしく、
女の子ウケしそうなエッセンスをちりばめているのだけど、
『パレード』と同様、女の子の一人称パートでも
「男の人ががんばって書きました」という感じが
ほとんどしないのはさすがといったところ。
レイや桂子の心理も理解できるところが多かった。
口に出来ない秘密や嘘をかかえながら、維持されていく
夫婦や恋人、兄弟や友人の関係。
ちょっとズーンときてしまう秘密を含みながら、
さらりと読ませる文章のトーンで一気に読了。
一つの物語としてきちんとオチがついていない感じを受けたので
★3つだけれど、おもしろく読めました。

著者が「イケメン作家ランキング1位」という先入観のせいか、
主役の男の子はかっこいいイメージしか思い浮かばない
そして「寅さんマニア」という、あいかわらずなんだかわからないけど
笑ってしまうエピソードに吹き出してしまった。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする