金木犀、薔薇、白木蓮

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96:武田百合子 『富士日記<下>』

2007-07-27 14:16:28 | 07 本の感想
武田百合子 『富士日記〈下〉』(中公文庫)
★★★★★

下巻は昭和44年7月から昭和51年9月まで。
泰淳の入院の直前で日記は終わる。

泣いてしまった……!
下巻では泰淳の病がいよいよ悪化。
めまいを起こして倒れたり動けなくなったりしたという記述が
頻繁に出てくる。
もともと泰淳の創作活動のためにつけはじめた日記で、
夫や娘が見るものだったせいか、感情の吐露というものがあまりなく、
その日の出来事を淡々と書いているのだけれど、
弱っていく夫を見ている妻の目、夫とのやり取り、
ときどき差し挟まれる不安の表現に涙が……
この日記を「叙事詩」と評しているのをどこかで見たけれど、
確かに詩だなあ。
狙ってないから余計に泣けちゃうのかしら。
恋愛小説よりずっと心に響きました。

そして吉本隆明が『超恋愛論』の中で、
高村光太郎と智恵子という2人の芸術家からなる夫婦を挙げて
弱いほうがつぶれた、というようなことを言っていたけれど、
武田夫婦の場合は、奥さんが徹底的に裏方にまわっていたから
うまくまわっていたのかなあ。
(百合子さんが文筆家として世に出たのは泰淳の死後)

久しぶりにどかーんとインパクトを受けた本でした。
今年読んだ本のナンバー1になると予想。

コメント
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