その患者さんは高齢の方である。朝、急に腹痛が出現したとのこと。腹部所見ではお腹は柔らかく腹膜炎の所見はなかった。また腹膜炎なら発熱もあろうが、この方は平熱であった。腹部超音波検査では特に明らかな異常所見はなく、腹部レントゲンでも腸管穿孔を疑わせるようなfree airや腸閉塞の二ボー像もなかったのである。つまり診察上では腹痛を訴えるのみで他には開業医程度でできる検査でも何もつかまってこなかったのである。通常なら「じゃあ採血して痛み止め出しますから明日また来て下さい」ということになる。しかしそうしなくてよかった。いままで20年以上救急医療をやってきた勘が働いたのであろう。まあしいて言えば「朝10時に急に痛み出した」という訴えがひっかかったのである。通常は高齢の方でこんなに時間をはっきり断言する人はいない。とはいえ腹痛は訴えるものの比較的元気で独歩も可能である。とても大きな病院にすぐ行きなさいといえるような状態とは思えなかった・・・。